第百十八話
メイクーン領に新しくできた迷宮について、主な魔物が粘性捕食体と亜人形であること。出現する神授工芸品が蒼光銀であることを告げるとレドリオン公爵とバスティタ大公は言葉を失った。
「魔物が粘性捕食体と亜人形なので攻略が難しいです。
粘性捕食体は物理攻撃に強く、魔法で攻撃する必要があります。
逆に亜人形は魔法攻撃が効かないので物理攻撃を使い分けて攻撃しないと倒せません。
つまり魔法攻撃と物理攻撃を上手く組み合わせたパーティじゃないと進めません。
神授工芸品は蒼光銀が出るのですが、発生頻度が恐ろしく低いです。
僕はたまたま蒼光銀の武器を拾いましたが、他に拾った人はいません。
ごくたまに鉄の塊が落ちているだけです」
「今の話しは本当か?」
「はい」
「それでその迷宮を攻略するためにうちの領に来たのか?」
「はい。
迷宮について何も知らなかったので、実際に他の迷宮に潜るために伺いました」
「それで、最初から蒼光銀の剣を持っていたのか」
「はい。
蒼光銀のおかげで戦うことができてます」
「今の迷宮の状態は?」
「周囲に壁を作り、領軍の兵がたまに見回りをしていますが、基本的には立入禁止です」
「もし誰かが忍び込んだら?」
「一階層から三階層には粘性捕食体しか出ません。魔法が使えないと進むことは困難です。
仮に強引に剣で倒した場合、剣が粘性捕食体の体液で腐食して連戦するうちに折れてしまいます」
「魔法を使えるか、蒼光銀の武器が必要ってことか」
「はい。僕は粘性捕食体から逃げ続けて蒼光銀を拾いました。
蒼光銀の武器が出る。冒険者が拾うことができるとなると軍事力の面でも問題があるので、領軍で管理をしたいのですが、費用がかかるので今は負担でしかありません」
「なるほどな。
強力過ぎる切り札は使いにくい訳だ」
「そうですね。
今は使いこなせません」
「分かった。
今の話しはバスティタ自治領としても強力な武器の産出について看過できない。
今後、自治領からも運営について指導させてもらうぞ」
レドリオン公爵と熱く話してたら、急にバスティタ大公が宣言してきた。
……扱いに困ってる迷宮だから自治領が管理しても問題無いけど、その場合僕も潜っちゃダメになるのか?
いや、そこは自分の領地だし潜ってもいいよな?
「バスティタ大公。今のお話はかなり危険な内容です。
口外禁止となんらかの措置を取られた方が良いかと思います」
自治領が関与するという内容を考えてると、スフィナクル公爵が柔らかい声でバスティタ大公に進言した。
どういうことだ?
「確かにそうだな。
改めて注意をしておこう。
今回、少人数での会食としたのは君たちが子供だと言うことと伯爵家や子爵家ということを考慮している。
君たちを物理的、あるいは金銭的に脅迫したり騙してでも囲い込みたいという輩が出てくる可能性がある。
八歳で叙勲したメイクーンを抱えている貴族。あるいは鷲獅子キラーのメイクーンがいるというだけで、細かな諍いが解決してしまう。それぐらいの力を持っていると理解して欲しい。
叙勲されたり、Aランク、Sランクに昇格するということは圧倒的な強さを保証されることになる。
なので、今回は叙勲後の接触を我々のみに限定した」
……セラドブランの企みじゃなくてバスティタ大公の親切心だったよ。
「それにプラスして、メイクーン領の迷宮で蒼光銀が産出されるとなると、君たちに接触しようとする獣人がたくさん現れるはずだ。
なので、メイクーン領の迷宮についてはその存在自体、口外禁止とさせてもらう。
次に、メイクーンの指導、進路についてはレドリオン公爵預かり。スノウレパードはスフィナクル公爵、コーニーはウィルティガー公爵預かりとする。
三名のお嬢様たちは私が預かる。
兄弟姉妹を含めて士官、婚姻等については各公爵の承認を要することとする」
グェッ。
それって密に連絡を取れってことじゃないか?
「少なくとも今後四年間、上級学院在学中は公爵の指導を受けること。
叙勲されたからには貴族、商家との付き合い方を学ぶことも必要だ。
いいな」
「「「はい」」」
強制的に指導されることになってしまった。
まぁ、所領を取り上げられる訳でも無いし、たまにレドリオン公爵の名前を使わせてもらえると思えばいいか。
そんな風に思っていると、バスティタ大公夫妻が三人のお嬢様のところへ移動し、僕はレドリオン公爵に連れられてレドリオン公爵夫人を紹介された。
「あら、鷲獅子を倒した勇者とお伺いしましたが、綺麗な白毛で優しい顔立ちですのね」
レドリオン公爵の傍若無人振りとは違い、品の良さが滲み出てるご婦人だ。
「初めまして。ハク・メイクーンです。
若輩者で分からないことばかりですが、ご指導をお願い致します」
「しっかりされてるわ。
うちにも八歳になる女の子がいるの。名前はクレア。
我儘娘だけど、今度紹介させてくださいね」
「おいおい、クレアとメイクーンが手を組んだら止められなくなるから、やめてくれ」
夫人の後ろでレドリオン公爵が苦笑いしてる。
レドリオン公爵の血が入った我儘娘って、できるだけ距離をおきたいところだ。
「機会があれば是非お願いします」
同じ年齢でもクレアは皇都の貴族学院だろうから、多分会うことはないだろう。
「まぁ、嬉しいわ。
これからメイクーンさんのところには数えきれないぐらいのお付き合いの話しが来ると思うけど、私にも教えてくださいね。
久しぶりだけどお力になれると思うの」
「息子たちはもう結婚しているが、昔は姻戚を結びたい貴族たちから山ほどの紹介状や食事会、舞踏会の誘いがあったからな。
イザベラに任せておけば上手く断ってくれるぞ」
「そうなったらお願いします。
僕は辺境の田舎子爵なので上級学院でも女の子は寄って来ないですし大丈夫だと思いますが……」
あまり大事にされても困るので控えめに言ったつもりだったけど、公爵妃のイザベラは目をキラリとさせた。
「あぁ、そんなことはありません。
八歳で叙勲。しかも蛋白石勲章ですよ。
今の時点で子爵位相当の実力を認められたのです。
軍に赴けばすぐに部隊を指揮する立場ですよ。
それにこれから嫡子として子爵位を襲爵するのが決まっていますし、メイクーン領は必ず発展します。
問題が起きてもメイクーンさんが解決できるのですから、子爵位から伯爵位へと陞爵するのも時間の問題です。
寧ろ少しでも早く連絡して来ない貴族は、貴族として大成しないと言ってもいいぐらいです」
「いゃ、そんなことは無いと思いますが……」
「メイクーンさんには自領を発展させるために、恋愛や婚姻などとは別に顔繋ぎをする必要がありますから、そこはちゃんと理解して下さいね」
「はい……」
心配しすぎだと思うけど、イザベラ妃の勢いに押されて少しだけ危機感を持った。




