第百十六話
叙勲式に参加するため王宮を訪れた僕たちが前室に入り準備をしていると、その部屋に大公と三公爵が入って来た。
バスティタ自治領。旧バスティタ王国を治める四名の獣人。
短毛の黒毛で小さな顔をしているけど、身体は大きく引き締まり金色胸毛をしているのが、大公ゴールディング・バスティタ。
金と黒の体毛は特徴的過ぎる。
おまけに着ている装備のあちこちも金と黒で装飾されているのでオーラが凄い。
その横にいるのがスフィナクル公爵。
バスティタ自治領の宰相として経済を取り仕切っている。
真っ赤な鬣はレドリオン公爵。
武闘派の貴族で大公軍将軍。
最後がウィルティガー公爵。
法の執行者。監察官でもあり貴族たちの指導も行っている。
「セラドブラン、今回の叙勲者を紹介してくれんか?」
「はい。大公様。
それでは蛋白石勲章を授与されたハク・メイクーン様からご紹介致します」
四名のお偉いさんが入って来て、驚いているとバスティタ大公の言葉でセラドブランが紹介を始めた。
「こちらの銀糸のマントに身を包まれた方が今回の集団暴走を阻止した立役者、ハク・メイクーン様です」
「ほう、君がメイクーンか。
大公のゴールディング・バスティタだ。
見た目は子供じゃが、子供とは思えぬ実力のようだな」
「ハク・メイクーンです。
身に余るお言葉ありがとうございます」
「これはこれは、ハク・メイクーンか。
いつぞやは世話になったな。
オレの短剣は持ってるか?
実力を示すためにも見せてやってくれんか?」
あちゃ〜、これはバレてる。
レドリオン公爵が話しかけてきたのに、今更隠すと余計にややこしくなる……。
「レドリオン公爵、お久しぶりです。
公爵から頂いた短剣は私の宝です」
そう言って腰鞄から赤拵えの短剣を取り出し、皆んなに見せた。
「おぉ、既にレドリオン公爵とは顔見知りか?
しかもこれは赤獅子の短剣。
メイクーンはかなりの腕の持ち主のようだな」
「はい、閣下。
彼の実力はSランクにも匹敵するかと思います」
「そうか。レドリオン公爵がそこまで言うとは……。
メイクーンの活躍は本当のようだな」
「はい。彼ならば鷲獅子を倒したのも頷けます」
「セラドブランも良い縁があったようだな。
ハク・メイクーンよ、これからもセラドブランを助けてやってくれ」
「はい」
何かヤバイ流れだと思うけど、『はい』以外に返事のしようが無い。
「……メイクーン様、後ほどレドリオン公爵との縁についても是非教えてくださいね」
セラドブランが僕だけに聞こえるような小さな声で呟いた。
顔は笑ってるけど、怖いよ。
「続きまして、こちらが橄欖石勲章を授与されたクロムウェル・スノウレパード様とネグロス・コーニー様です。
ハク・メイクーン様とは上級学院の同級生で、今回の騒動ではそれぞれがそれぞれの役割を分担されて碧玉の村を守られました。
ネグロス様は学院でもトップレベルの走力をお持ちです。
またクロムウェル様は水魔法をお使いになられます」
「二人の活躍についても聞き及んでいる。
入学して間もないのに三人の連携は素晴らしかった」
「「あ、ありがとうございます」」
二人とも緊張してガチガチだな。
セラドブランの慣れた様子とは雲泥の差だ。
「こちらは学友のノアスポット・シャルトリとパスリム・ペルシアです。
同じく橄欖石勲章を授与されました。
先ほどのハク・メイクーン様、クロムウェル・スノウレパード様、ネグロス・コーニー様たちは自らの判断で他の者を動かされましたが、私たちは指示に従い全力を尽くしただけですので同じ橄欖石勲章と言っても少々趣きが違うかと思います。
自らの力で勲章を獲られたメイクーン様たちと、メイクーン様たちに導かれて勲章を獲らせて頂いた私たちでは意味合いが違って当然かと思いますので、ご容赦ください」
「いやいや、それでも君たちの力で多くの魔物を倒したことに変わりない。
胸を張って叙勲を受けなさい」
「「「はい。ありがとうございます」」」
セラドブランが僕たちの評価を上げるたびに胃が痛くなりそうだ。
何か悪いことでもしただろうか?
「最後になりますが、こちらは藍玉勲章を授与されました碧玉の村の領軍大隊長ゾフトレッド・アーメリアン様とギルドマスターのバスクス・デボレック様です。
ネグロス様が伝令で碧玉の村に向かわれた際に『子供の戯言』とせず、真摯に受け止めて対応されたからこそ領軍と冒険者ギルドが一体となって防衛することができました」
「そうか。
王の狩場を任せるに相応しい判断力だ。
これからも村と狩場を宜しく頼む」
「「はいっ!」」
領軍の大隊長やギルドマスターでも同じだよな。
国王から声をかけられて緊張しない方がおかしい。
……セラドブランって何者だ?
「それでは叙勲式は緊張しないようにな」
大公たちは急にやって来て、すぐに帰って行った。
まぁ、まさかレドリオン公爵が参加されるとは思わなかったので、事前に会えて良かった? のか?
まぁ、バレたらバレた、で仕方ない。
たった半年で、しかも同じ格好じゃバレない方がおかしい。
潔く認めてしまった方が楽だ。
「メイクーン様、レドリオン公爵とはどう言った経緯で短剣を受け取られたのですか?」
ギクッ。
さっきまであんなに機嫌が良かったセラドブランだけど、今は目が怖いよ。
「あ、あれね……」
「ハク、お前何したんだ?」
「レドリオン公爵といつ知り合ったんだ?」
セラドブランだけじゃなくて、ネグロスとクロムウェルまでも興味津々だ。
……さて、どこまで話すか。
「半年ほど前にレドリオン公爵領に行って、冥界の塔って迷宮に挑戦したんだよ」
「そんな話聞いてませんわ」
「あれ? 冒険者ギルドのライセンスは?」
「今まで言って無いからね。
ライセンスも偽名で取って迷宮に入ったから、レドリオン公爵もさっきまで僕だって知らなかったと思うよ」
「えっ? そんな?」
「ちょ、ホントか?」
セラドブランとネグロスはこんなにキャラ被りしてたかな。
「上級学院に入る前にちょっと色々調べたくて、貴族なのを隠して迷宮に潜ったんだ。
だからライセンスも偽名で取ったし、一人きりで戦った。
この腰鞄も冥界の塔で階層主を倒して手に入れた。
そのときに、別の事件があって領軍の取り調べを受けたからレドリオン公爵と顔見知りなんだよ」
「取り調べで短剣をもらうのはおかしいですわ」
「別の事件って何だよ?」
……徐々に連携取ってるし。
「新人冒険者が襲われる事件があったんだよ。
その犯人として疑われたんだけど、身の潔白を訴えつつ挑んでる階層主について説明したらサポートしてやるって短剣くれたんだ」
「そんな簡単にもらえるものではありませんわ」
「確かにそれは無いわ。
実力を認められるような何かをしたんだろ?」
ぐっ、ネグロスの癖に、勘がいい。
「今回の鷲獅子みたいに珍しい魔物を倒したんだよ。
そしたら色々と手を回されそうになって、全部断ってたら買取りの報酬として短剣をもらったんだ」
「あぁ、それなら分かりますわ」
「なるほどね。容疑を晴らすために色々説明して、その結果凄腕認定された訳だ」
何だか釈然としない納得のされ方なんだが、どう説明するのがいいんだ?
「そろそろ始まりますので、お並びになってお待ちください」
何人目かの執事みたいな獣人が案内に来たのでレドリオン公爵の話はそこまでとなった。




