第百十四話
碧玉の村から帰ってきて一週間。
訓練とお小遣い稼ぎのために碧玉の森に行っただけなのに、いつの間にか大きな話になっていた。
話を少し戻して説明しよう。
まず、碧玉の村の状況を確認した僕は問題ないと判断して、集団暴走の原因となった迷宮を再確認しに戻った。
僕が迷宮核を壊したことが第二波の発生に繋がったようなので、不安になったからだ。
しかし、石が積まれた遺跡に到着すると迷宮の入口は無くなっていた。
勘違いかと思い周辺をグルグルと飛び回って調べたけど似たような遺跡はなく、本当に迷宮の入口が無くなっていた。
例の黒い靄が残って無いか心配だったが、それも杞憂だった。
ここまで綺麗に無くなると寧ろ誰かが隠蔽工作をしたんじゃないかと疑いたくなるレベルだ。
それでも心配事が一つ無くなったのは明らかだった。
原因となる迷宮が無くなったのでこれ以上集団暴走は発生しない。
暴れている魔物たちを鎮圧すれば、平和になるってことだ。
クロムウェルたちがいる焼け野原に飛んだ僕は、クロムウェルとお嬢様たちに碧玉の村の無事な状況を説明した。
既に焼け野原には暴れる魔物がいなかったので、四人は僕の説明で納得してくれて、一応集団暴走が収束した。
僕の設置した鶴翼鉄壕やパスリムの作った重層堅土、更にはセラドブランが作った焼け野原をどうするか? という問題があったけど、大公都から調査隊が来るだろうと言うことでそのままにしておく。
集団暴走の原因については悩んだ。
手元にあるのが、鷲馬の頭と黒革のブーツ、藍獅子鳥の頭と獅子鳥の雷杖、双頭鷲は死体が無くてバカでかい双頭鷲の盾を拾ってきた。
この階層主のどれかに集団暴走の原因になってもらうつもりだけど、帯に短し襷に長し。
念のため鷲獅子の死体を探したけど見当たらなかったので、魔物に食われでもしたんだろう。
鷲獅子と鷲馬では鷲馬の方が弱い。
それで鷲馬が原因だったとするのは少しおかしい。
藍獅子鳥が原因とした場合、頭は出してもいいけど獅子鳥の雷杖は出したくない。というか見せたくない。
取り上げられたら嫌なので隠しておきたい。
双頭鷲を原因とする場合、死体がないので信じてくれるかどうか分からない。
双頭鷲の盾を出したところでそれは変わらないような気がする。
あんなデカい盾を持った魔物をどうやって倒したんだってなるし……。
双頭鷲の盾を砕いて倒したのに、無傷の盾を持って帰るなんて論理が破綻してる。
……でも悩んだ末、双頭鷲にボスになってもらった。
双頭鷲の盾を吹き飛ばしてから双頭鷲を倒したことにして、それとなく誤魔化した。
焼け野原から碧玉の村に戻る際に、作り話をもっともらしく四人に対して話してたらセラドブランが鷲獅子の死体を持って帰ったことを知った。
内心、鷲馬にしなくて良かったと安堵したものだ。
……何故か領主館で鷲獅子の死体の前でどうやって倒したと説明したり、その横に双頭鷲の盾を並べてこれが僕の成果みたいな称賛を浴びることになった。
セラドブランの追求が厳しく、領主のアーノルド・ユーラシアリングスや領軍のゾフトレッド、ギルドマスターのバスクスとか言うお偉いさんの前で鶴翼鉄壕の魔法実演までさせられた。
その後、セラドブランが偉い獣人だったことが分かり、大人しくそれに従っているとかなり過大評価されているようだったので、逃げるようにして大公都の上級学院に戻った。
クロムウェルとネグロスも一緒に帰って来たけど、セラドブランたちは事後処理があるらしくてそれから顔を見ていない。
それもあってランニングとアピールの授業は延期になった。
……延期を知ってクロムウェルはかなり凹んでた。
上級学院に戻った僕たちは校長のカロルノアと担任のジュビアーノから無断欠席の経緯について説明させられたが、同時にセラドブランたちから書面が届いてたみたいで学院を休んだことについては比較的簡単な質疑だった。
まぁ、休日に碧玉の森に狩りに行ったら集団暴走に巻き込まれたって話なので、集団暴走の事実と僕たちがそこにいた事実が確認できれば終わりだ。
その辺はクロムウェルが碧玉の村のギルドマスター、バスクスに買取りの書面と一緒にして滞在証明をもらっていたので、何の問題もなかった。
問題があったのは大公都での冒険者ライセンス取得時の騒動と、碧玉の村での買取り内容の方だった。
何で新入生の僕がDランクになったのか?
狂暴犀を倒したのは本当か?
何でライセンス取得のときのことを知ってるのか分からないけど……。
いや、新入生が何人も取得試験を受けてるから知っててもおかしくないか。
ついでで、セラドブランが集団暴走について書面に書いたらしいことを全て僕たちが説明することになった。
結局、碧玉の村で説明したのと同じ内容を説明して、セラドブランが僕たちを解放してくれたのはこのためだったんじゃないかと勘繰りたくなるぐらい細かい聴きとりだった。
そんな風にバタバタしたけど、普通に学院の授業に戻りクロムウェルの水魔法を見せてもらった。
ちなみに僕たちやセラドブランたちが休んだのは、家庭の都合になってるそうだ。
貴族には式典や儀礼への参加など欠席する理由が山ほどあるので、いちいち説明しないものらしい。
クロムウェルの魔法は水を作るだけじゃなくて魔力回復の魔水薬と同じ効果があるなんて『奇跡の水だ』なんてネグロスと一緒になって囃し立ててたら、再度、校長のカロルノアから呼び出しを受けた。
三人で校長室に行き、それぞれが一通の封筒を受け取った。
カロルノアが何も説明してくれないので、封を開けると通知書だった。
『汝、ハク・メイクーンに準一級蛋白石勲章を授与する。
大公 ゴールディング・バスティタ』
……よく分からない。
クロムウェルとネグロスの書面を見せてもらうと準一級橄欖石勲章だった。
蛋白石と橄欖石で何が違うのか分からないし、そもそも何なんだ?
「おめでとう。
先日の君たちの活躍に対して、大公様から勲章が下されることになったという訳だ。
まずは通知書が届いて、今後正式な式典で勲章が授与される。
蛋白石は子爵相当、橄欖石準子爵相当。
準一級は指揮官見習い扱いってとこだ」
「えっと、まだ分からないのですが……」
「君たちはまだ子供だけど、子爵として領軍を指揮するのに近い成果を残したってことだよ」
「はぁ……」
「俺たちもですか?」
「私は何もしてませんが?」
「それでも碧玉の村を守るにあたり、功績を挙げたし叙勲に値すると判断された訳だ」
「僕たちだけですか?」
「それは分からない。
サーバリューたちや碧玉の村の獣人もいるからね。
まぁ領地が与えられる訳では無くて、賞金がもらえるぐらいだから有り難くもらっときな」
「そうなんですか?」
「メイクーン君の準一級蛋白石勲章で金貨千枚。スノウレパード君とコーニー君の準一級橄欖石勲章で金貨五百枚ぐらいだよ」
「おぉ、凄い」
「やったな」
それぐらいなら構わないか。
よく分からないうちに、勲章をもらえることになった。
知らない間に叙勲されることになった。
八歳で叙勲されるのが凄く珍しいことだと知るのはもう少し先になる。




