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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第三章 碧玉の森
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第百八話

 

 碧玉の森(ジャスパーウッズ)、石積み遺跡の迷宮(ダンジョン)、三十一階層。迷宮主(ダンジョンマスター)の間。


 本を持った子供の天使が低い声で問いかけてきた。


「訪問者よ、何の用だ?」


 何の用?


 迷宮(ダンジョン)が溢れるのを止めるために来たけど、改めて聞かれると答えに困る。


「……」


 答える言葉がなく、無言で答えた。


「我が名は冥王天使(アズライール)

 この迷宮(ダンジョン)を止めたければ、我を止めてみよ」


 いつの間にか冥王天使(アズライール)の右手には本ではなく大鎌を持っている。


 その大鎌を振り上げて、一気に振り下ろす。


 危険なものを感じて距離を取ると、冥王天使(アズライール)が話しかけて来る。


「お前は一体何をしに来たのだ?

 心構えもできていないなら、さっさと帰れ」


 はぁ?


「上から目線が気に食わねぇな」


 右手の長剣を突き出して飛び込むと、冥王天使(アズライール)は高く舞って距離を取った。


「ほう、それなりに戦えるようだが、我に通じるかな?

 」


 再び大鎌を振り下ろしてきたので左の剣で受け、右手で冥王天使(アズライール)の胴を薙ぎ払った。


 ……しかし、白い衣がフワリとめくれて長剣は空振ってしまう。


「変な体しやがって」


「空振りで良かったな」


「ふっ、負け惜しみを!」


「本当のことだよ」


 大鎌を片方の長剣で受け流しては斬りつけるのだが冥王天使(アズライール)の実態を捉えられない。


 大鎌しか振り回してないのに、なかなか懐に入れない。


 ……空中での体捌きが読めない。

 速いし、重力に逆らった動きをするので追い込めない。


 地面に立って戦うのは不利か……。


 冥王天使(アズライール)の大鎌を受けながら、白銀のマントに魔力を流しオレの動きをサポートするように動かす。


 冥王天使(アズライール)にできるんだから、オレにもできるはずだ。


 自分の踏み込みに合わせて、マントで自分を押すイメージ。

 マントで自分の身体を動かすように瞬間的に魔力を流す。


「空を飛べるのが自分だけだと思うなよ」


「下等生物に我と同じことはできぬよ」


「舐めるな」


「舐めているのではない。事実だ」


 大鎌とやり合いながら、冥王天使(アズライール)が上空に逃げるタイミングでオレもヤツを追って飛んだ。


 できた。


 オレの間合いから逃げ延びたつもりの冥王天使(アズライール)の腕を斬り落とし、右腕と大鎌が地に落ちる。


「事実認識が間違っていたようだな」


「くっ、たかが冒険者のくせに」


「武器が無くなったようだが?」


 ゾワッ!


 急に悪寒を感じたら、マントが自動で距離を取った。


 よく見ると斬り落として真っ赤になった冥王天使(アズライール)の腕先が盛り上がり、何かが生えようとしている。


 何だ?


「うがぁぁぁぁっ!」


 冥王天使(アズライール)が苦悶の表情で唸ると切り口から新しい頭が生えた。


 は? 頭?


「お前は禁忌を破った。死を以て償え」


 ん? どういうことだ?


 突然、腕先に生えた頭がオレに噛み付いてくる。

 腕を伸ばし、首を伸ばすようにして歯を剥き出しにして襲ってくる。

 元からある頭は高笑いをしてるし気持ち悪い。


 ぐっ!

 身を捻り、マントの力で空中を移動すると冥王天使(アズライール)の頭がオレを追って来る。


 蒼光銀(ミスリル)の長剣でその腕を斬り落とすと、頭は力を失い地に落ちる。


 何だ? 気持ち悪い。


 しかし、更に新しい切り口に新しい頭が生えてくる。


 おまけに同じようにして関係ない左手の掌に目と口ができている。


「我の目と口からいつまで逃げられるかな?」


 冥王天使(アズライール)が高笑いしながら両手の先の頭をオレに向ける。

 血みどろの右手の顔が伸びてくる。

 同時に左手が引きつった顔で口を開きオレの首を目がけて来る。


 首を落とすのでは無く口を裂くように斬りつけ、頭を立て続けに割る。


 すると、今度は脚先や翼にも新しい顔が生まれてる。


無限(エンドレス)かよ」


「我には無限の軍勢がある。

 一時の敗北などすぐに取り返してくれる」


 宙を舞う首はどんどんと増えて十を超えた。


 切りが無い。




 あ〜、最初からこうすれば良かったんだ。

 魔物(モンスター)を退治しに来たんだ。

 全て倒せば済む話しじゃないか。


 両手に蒼光銀(ミスリル)の長剣を握り直すと、マントの力で空を飛び、冥王天使(アズライール)の首を落として行く。


 右手を落とし、左手を落とす。


 幾つもの首を生やした翼を次々と斬りつける。


 自在に飛び回る冥王天使(アズライール)を空中戦で追い込む。


 慣れてくると白銀のマントは恐ろしい旋回性能を持っている。

 地面を蹴るような反転はできないけど、蛇行ぐらいは余裕だ。


 空を飛んで追いかけ回し、翼を斬り続けると冥王天使(アズライール)の顔、体が血で真っ赤に染まっている。


「くっ、貴様などにやられん」


「いや、決めた。お前を倒す」


「我は何度でも蘇る」


「心配するな。迷宮核(ダンジョンコア)も潰す」


 あちこち斬りつけて、徐々に冥王天使(アズライール)の体が小さくなっていくが、ヤツの動きは止まらない。


 いつまで鬼ごっこを続けるか考えていると、急に冥王天使(アズライール)は動きを止めて、こちらを睨みつけた。


「一矢だけでも傷つけなければ、死んでも死にきれん。

 我が呪いを受けよ!」


 突然の大咆哮。


 今残っている五つの首が一斉にオレに向かって来る。


 テェッ!


 オレも突撃し一気に五つの首と、その体を粉々に斬り裂いた。


 冥王天使(アズライール)の血が霧のように辺りに広がり、何本もの羽根が散らかる。


 冥王天使(アズライール)を倒した。




 ゆっくりと広間の床に降りると、中央の祭壇に向かう。


 祭壇の中央にある迷宮核(ダンジョンコア)冥王天使(アズライール)の血を浴びてべったりとしてる。


 大きな迷宮核(ダンジョンコア)だが、冥界の塔(ハデスタワー)魔晶石(エーテル)ほどでは無い。

 できたての迷宮(ダンジョン)と言っていいかどうか分からないが、若いのは間違いないだろう。


 恐らく、今回の集団暴走(スタンピード)はこの迷宮(ダンジョン)が生まれたことで引き起こされた。


 そして、この迷宮核(ダンジョンコア)がある限り冥王天使(アズライール)が復活するはず。


 ……で、どうやってこの迷宮核(ダンジョンコア)を破壊するか?


 簡単に壊せるものじゃ無かったはずだ。

 迷宮主(ダンジョンマスター)銀の蜥蜴アルゲントゥ・リザード、ラケルが何か言ってた。


 ……でも、覚えて無い。


 覚えて無いものは仕方ない。

 一気に斬りつけるぐらいしか方法が思いつかない。


 二刀のうち一本の蒼光銀(ミスリル)を仕舞い、両手で一本の蒼光銀(ミスリル)を構える。


 小手先の技ではどうにもならないので、ちゃんと正眼に構えて、切っ先を迷宮核(ダンジョンコア)に向ける。

 魔力を練って蒼光銀(ミスリル)の長剣に注ぎ込む。


 ふぅ〜、息を吐いて、せいっ!


 パンッ!


 迷宮核(ダンジョンコア)が割れた。


 ぐっ!


 割れた迷宮核(ダンジョンコア)から黒い靄のような何かが広がる。


 ぐはあっ!


 地面が揺れる。


 身体中が焼ける。


 迷宮(ダンジョン)が崩れる。


 ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。


 身体よ、動け。


 逃げ出さなければ……。




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