第百七話
碧玉の森、石積み遺跡の迷宮、三十階層。
二十階層台には石化鳥が出た。
外見は火喰鳥に似て、飛べない鳥駝鳥と同じようなシルエットをしてる。
火喰鳥は黒い体、青い首、赤い顔の鳥だったけど、石化鳥は灰色の体、赤い首、黒い頭で走る鳥だった。
辺りに石化した甲虫の破片が転がっていたので遠距離から銀の短弓で仕留めた。
似たような魔物で雷撃を撃ってくる雷鳥もいた。
そいつは体が黄色で獅子鳥の雷杖が効かなかった。
コイツも遠距離から銀の短弓で仕留めたので、本当は違う魔物かも知れないが、とりあえずオレの中では雷鳥にした。
昆虫に混ざって毒や石化なんていう技を持った鳥が出る迷宮って何なんだ?
階層主になったら、それが空を飛ぶようになるし……。
この調子だと三十階層の階層主は石化持ちで空を飛ぶ鷲が出てくるか?
目の前には三十階層の階層主がいる大広間への一本道。
……行けば分かる。
ゆっくりと歩いて大広間に入った。
相変わらず変化のない階層。高い天井に乱立する柱。
オレは最初から臨戦態勢。
わざわざ攻撃を喰らう必要は無いので、こちらからの一撃ですぐに仕留めるつもりだ。
柱の影に沿うようにしてゆっくりと進む。
静かな階層。
一対一の力勝負に向けて魔力を練る。
いた!
柱の間をゆっくりと飛ぶ鷲。
頭が二つあるから双頭鷲だ。
狩猟と戦闘の神だったか。
青銅器の神でもあったはず。
「神速射出機!」
腰を落として構えると強烈な重力がかかり、恐ろしい速さで射出された。
更に風の精霊、風の隼のヴェネットが追い風でオレを加速させる。
飛剣十字斬り!
オレが目の前に蒼光銀の長剣を十字させて双頭鷲に飛びかかると、双頭鷲の翼が光り、空に巨大な盾を作り出した。
伝説にある双頭鷲の盾。
くっ!
蒼光銀の長剣を十字させたまま、盾に突っ込んだけど、ビクともしない。
……縦横五メートルはある全てを防ぐ巨大な盾。
表面には双頭鷲が浮き彫りされている碧い聖なる盾。
クソがっ!
全身を押し潰す重力に耐えて突撃したのに、完全に防がれてオレの身体の方がヤバい。
腰鞄から緑の魔水薬を取り出して、すぐに呷った。
体力回復効果で全身の痛みがスッと引く。
仕切り直しだ。
「青銅の投げ槍」
げっ!
双頭鷲が喋った。
再び双頭鷲の翼が光り、空中に八本の巨大な投げ槍が形作られる。
一本一本が五メートルはある巨大な槍だ。
双頭鷲の盾と同じ碧色。
見かけは青銅だけど、硬さは青銅なんかの比にならない別の金属。
双頭鷲が羽ばたくと八本の投げ槍が一斉に降り注ぐ。
ズガガガガガガガッ!
横に駆け出したオレを追って、立て続けに投げ槍が地面に刺さった。
「射出機」
投げ槍をかわしてすぐに射出機で双頭鷲に向かって飛ぶ。
蒼光銀の長剣を大きく振りかぶり、投げ槍を打ち出して無防備な双頭鷲に斬りかかる。
ガキィーン!
ノーモーションで双頭鷲の翼が光り、双頭鷲の盾が現れた。
マジか。
ノーモーションで無敵の盾を出せるって卑怯だろ。
「青銅の投げ槍」
盾に阻まれたオレが地に落ちる際に、双頭鷲が追い討ちをかけるべく投げ槍を用意し始める。
「鉄盾」
地面に落ちたオレが魔法で、鉄の盾を作るとそこに投げ槍が降り注いだ。
ズガガガガガガガッ!
両手を鉄盾に添えて更に強化する。
……耐えろ!
音が止み、オレの鉄盾は全ての投げ槍を防いだ。
はははっ、オレの勝ちだ。
オレの鉄の方が硬い。
無傷で鉄盾の横に出たオレを双頭鷲が空から睨んでる。
そっちが来ないなら、こっちから行くぞ。
「鉄波乗」
オレの足元に大きな鉄の波が現れる。
しかし射出機のようにオレを突き飛ばしたりはしない。
鉄の波はオレを乗せたまま、双頭鷲の方へ猛烈な勢いで伸びていく。
オレは鉄波に乗る波乗りだ。
双頭鷲が慌てて双頭鷲の盾を生み出す。
オレは両手に持った蒼光銀の長剣を突き出し、魔力を込めて赤熱させる。
もっとだ。
魔力を逃さずに先端に集中し、その一点で双頭鷲の盾を突く。
……一瞬、お互いの盾と剣が拮抗し動きが止まったけど、それは本当に一瞬だけだった。
オレの突きが双頭鷲の盾に刺さると、蒼光銀の長剣が盾を砕いた。
盾が砕け、オレの鉄波はより勢いを増して双頭鷲に伸びる。
二刀の蒼光銀で双頭を同時に落とし、双頭鷲を倒した。
首を失った双頭鷲が宙から落ち、オレはその横に着地する。
双頭鷲が喋ったのは魔法を唱えるためだけだった。
他にも喋れたのか少し気になるが、その程度だったので特に死体を集める気にもならず、死体が迷宮に吸い込まれる様をジッと見ている。
ゆっくりと死体が消え、その後に光と共に宝箱が現れる。
……今まで見たこともない大きな宝箱だ。
さっきの双頭鷲の盾よりも大きい。
開けるというか、上蓋を持ち上げると、中には双頭鷲の盾が入っていた。
こんな馬鹿デカイ盾、どうやって使うんだよ?
宝箱の上蓋を強引に開いて横に倒すと、その中に入ってる盾の大きさがよく分かる。
先ほど戦ったのと同じ盾。
オレが開けた穴は無いし、砕けた様子も無い。そういう意味では同じ盾ではないが、ほぼ同じモノだ。
表面の彫刻も双頭鷲が浮き彫りにされて全く同じモノ。
神授工芸品の不思議さを感じながら腰鞄に仕舞った。
大広間を先に進むと石の扉があった。
これまでの階層主のところにあった物と同じ。
本を持った天使が描かれている。
次の階層でコイツに会えるか?
それとももっと潜らないと会えないか?
石の扉を押し開き、更に進む。
一本道の終わりには長い階段があり、その階段を下りきると三十一階層に入った。
三十一階層はこれまでの階層と様子が違う。
短い一本道の先にはドーム状の広間があり、中央に祭壇がある。
祭壇には大きな魔晶石の水晶が飾ってあり、迷宮核だろうと分かる。
迷宮主を探すと、上空から本を持った天使が降りて来た。
僕と同じぐらいの身体をした子供の天使が、大きな翼を広げて羽ばたく訳でもないのに、宙に浮いている。
明るい蒼色の長い髪も重力を感じさせずに左右に広がっている。
ヒラヒラとした真っ白な衣もユラユラと揺れている。
「訪問者よ、何の用だ?」
天使は迷宮核の上に浮かんだまま、低い声で話しかけてきた。




