第百六話
碧玉の森、石積み遺跡の迷宮、二十階層。
階段を下りると一本道が続き、その先に十階層と同じような広間が見える。
十一階層から十九階層は主に甲虫が蔓延っていた。
鋏甲虫、槍甲虫、盾甲虫。
元々固い外殻を持つ甲虫で、更に体の一部が武装化して大型化している。
空を飛んでブンブンと集まってくる様は悪夢に近い。
そんな群れをときに倒し、ときに逃げながら進んできた。
酸蛞蝓も色が変わって別種になってたし、虫を襲うような火喰鳥もいた。
基本的には先を急いで進んで来たので、あまりよく覚えてないけど、たまに魔水薬が落ちていたし、色んな石のついたアクセサリーも落ちていた。
格子蟻の巣を潰したら青い石のついた首飾りが出たし、槍爪変色竜は緑石のピアスを落とした。
……多分、何か効果のあるアクセサリーなんだと思う。
もう少し分かりやすい神授工芸品の方が助かるんだけど、今回は攻略を急いだため収納庫に仕舞って走り抜けて来た。
自分で言うのもなんだけど、かなり早いペースで攻略してると思う。
……ついつい腕時計の確認を忘れてしまい、使いこなしてないのが悔しい。
二十階層の大広間に入ると、高い天井とあちこちに乱立する柱があった。
また何かが飛んで来るのだろう。
上を見上げながら柱の間を歩いて進む。
飛ぶ魔物の多い迷宮だ。
十階層は鷲馬だったし、陸上には鷲獅子も出た。
階層主もその系統だろう。
いた!
って、本当に同じ系統かよ。
獅子の頭、獅子の上半身に、鷲の翼、鷲の下半身。
藍獅子鳥だ。
体の全体が不気味な藍色を帯びている。
神の力を持つと言われる伝説の鳥がどんな攻撃をしてくるのか、まだ間合いが遠いので警戒しながら近づいていく。
向こうもこちらに気付いたようだ。
こちらを睨んでる。
グルルルゥ。ガゥッ!
長い唸り声を上げた後、天に向かって吠えたかと思ったら、天井が光った。
は?
すぐに近くの柱の裏に回ると、オレのいた場所に雷が落ちる。
二角獣のときと同じだ。
雷撃を操るらしい。
威力はこちらの方が上。柱の裏に隠れたから被害は無いが、地面が抉れてる。
空からこの威力は反則だろう。
何とかして間合いに入らないと戦いにならない。
二角獣は地面を走ってたから動きを止めるのも楽だったけど、藍獅子鳥は空を飛んでいる。
今度こそ、アレを使うか。
「射出機!」
魔法を使って一気に距離を詰めると藍獅子鳥は翼をはためかせて突風を起こしてオレを吹き飛ばす。
くそっ。
距離が足りない。
近づく前に吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた勢いで柱に足を着くと、柱を蹴って藍獅子鳥に飛びかかる。
「ヴェネット!」
風の精霊、風の隼のヴェネットに空中で加速を頼み、更に加速して藍獅子鳥に迫る。
グルゥアッ!
藍獅子鳥が再び翼をはためかせ突風をぶつけてくる。
そこで例のアレ、漆艶伸蔦の鞭 を振るうと藍獅子鳥の脚に絡ませた。
やった!
捕まえればこっちのもんだ。
そのまま鞭を力任せに引く。
しかし鞭を引いて、藍獅子鳥を引き戻そうとしたら、逆にこっちが引っ張られてしまった。
まぁ、それでも構わない。
要は距離を詰められればいい。
引っ張られた勢いで藍獅子鳥との距離を詰めるとそのまま翼を片方斬り落とす。
そのまま藍獅子鳥と縺れ合いながら地面に落ちるが、途中で蹴り飛ばして一人で着地すると地面に墜落し動けない藍獅子鳥の首を斬った。
……空から落とすと呆気ない。
せっかく首を落としたんだ、首ぐらいは持って帰るか。
腰鞄に藍獅子鳥の首を仕舞い、しばらく待つと宝箱が現れた。
伝説の鳥を倒した宝だ。かなり期待できる。
ゆっくりと宝箱を開けると、中には藍色の杖が入っている。
素材は青銅か? 金属を磨き上げたような硬さを感じる。そして握り部分には獅子頭が彫ってある。
なかなかいい趣味してる。
軽く握って振ってみる。
軽くていい杖だ。
魔力を流して見ると、
ドンッ!
……雷が出た。
マジか?
洒落にならない威力だ。
雷撃を出す獅子頭の杖。
獅子鳥の雷杖。
いい武器だ。
さっき仕舞った藍獅子鳥の頭とセットで売ると高く売れそうだ。
……売るのは勿体ないから売らないけど。
階層主を倒したら戻ろうかと思っていたけど、こんなにいい武器が出ると戻るのが勿体ない。
さて、どうする?
放置しておける迷宮かどうかも分からないし、もう少し潜るか。
獅子鳥の雷杖を振り回しながら下への階段を探すことにした。
二十一階層。
深く潜っても階層の構造は全く変わらない。
高い天井に乱立する柱。
塞がれた視界の先から急に現れる大きな昆虫。
ブーンという音の方向を見ると、銀色の甲虫が飛んで来る。両手には蟹のような大きな鋏がついている。
鋏銀甲虫。
無数にいる甲虫の亜種だ。
甲殻が銀色になって、これまでの甲虫よりも硬くなったのだろう。
それが一直線に飛んで来る。
セイッ!
魔力強化した蒼光銀の長剣ならまだ余裕がある。
鋏銀甲虫を両断して倒すと周囲を確認した。
多分、神授工芸品はすぐに見つかるはずだ。
わざわざ神授工芸品を探して彷徨くつもりはないので、さっさと見つけたい。
しかし、見つけたのは珊瑚蛙だった。
鮮やかな桃色の蛙。
大きな体の所々に濃い赤色の筋が現れている。
麻痺性の毒を持っているので体を覆っている分泌液に注意が必要だ。
……面倒なので無視して先に進む。
しばらく進んで現れたのは盾銀甲虫。
流石にこれぐらいの階層になると魔物が多い。
異様に大きな額をした甲虫が五、六匹飛んで来る。
ただ突っ込んで来るしか脳のない昆虫が少しぐらい増えたところで、返り討ちにして終わりだ。
蒼光銀の長剣で迎え撃とうとしたとき、少し遊び心が出た。
獅子鳥の雷杖。
杖を振って甲虫たちのど真ん中に雷撃を落とすと、甲虫たちは麻痺したようにして地面に落ちた。
甲虫たちの体をバラバラにするような威力はなかったけど、動けなくなった甲虫は簡単に始末できる。
蒼光銀の長剣でとどめを刺して魔水薬を手に入れた。
黄色の魔水薬の出現率が高い気がするので、さっきの珊瑚蛙のように毒を持つ魔物が多いのだろう。
迷宮はときに攻略者に対して優しい。




