第十話
迷宮の十階層。
階層主のいた闘技場で宙に浮かぶ銀色の蜥蜴が神授工芸品について教えてくれる。
得体の知れない蜥蜴だけど、ひょっとしてこの蜥蜴も精霊の一人なのかな?
「君は魔法をどれだけ使える?」
「飲み水を出したり、火をつけたりといった程度しかできないよ」
「なるほどね。まだ小さいからね。
これから魔力が増えると使える魔法も増えるよ」
「そんなものかな?」
「そんなものだよ。
自分で使える魔法が少ない方が精霊に任せて上手くいく場合もあるから、心配しなくていいよ」
「そう、なのか?」
「まあ、それは置いといて銀の黄金虫について話そうか。
この世界には五行の力が循環してる。
木火土金水の五行が基本になって、色んな精霊がいるし、精霊たちの姿や考え方、好みなんかも色々と違う。
当然、得意な魔法やスキルも違う。
そもそも精霊と縁があるかどうかは置いといて、縁があって主従関係や協力関係、支援関係などの色んな関係を結べると力を貸してもらえる。
ただ借りられる力はその妖精のできること次第になる」
「僕が借りれるのは銀の黄金虫の力、銀の黄金虫のできることをしてもらえるってことだね」
「うん。そういうことだ。
まぁ、まだ銀の黄金虫のことは分からないだろうから、簡単に説明すると金属性の昆虫の精霊だね。
金属性、つまり土の中から金属が生まれる、金属が冷えると表面から水が生まれるという相生、火は金属を溶かす、金属製の斧や鋸は木を傷つけ切り倒すといった相剋が五行の基本なんだけど、そういう世界に住んでるのが妖精なんだ。
だから得意なことと弱点がはっきりしてる。
土の中から金属を生み出すのが得意で、逆に水に力を奪われてしまう。
もう一つ、昆虫なので木属性、その下位属性の風や雷を強化するのも得意だ。昆虫は木の側で暮らしてるから、木属性を操るのが多少は上手くできる」
「……五行は習った。
魔法の訓練で魔力を練ることと五行の関係」
「ふーん。
知ってるんだ。
知ってる割には中途半端だけど……」
そう言いながら小さな蜥蜴が首を捻る。
そんな仕草を見てると人間味のある蜥蜴だ。
「こんな田舎だと魔法を使える人は少ないから。
シルヴィア姉さんと教会のリリエッタさんぐらいだけだよ」
「ふーん。少ないね。
幼くても魔法は使えるのに勿体ない。
流石に若くて上手い使い手は少ないだろうけど、君の適性は?」
「適性?」
「そう適性。
まぁ、分かってるけど、ちゃんと知ってる? って話し」
「まだ、知らない。
上級学院に入ったら検査をするって聞いたけど……」
「そうかぁ……。
まぁ、何となくそうだろうとは思ったけど……」
飛び回るのを止めた蜥蜴が渋い顔をした。
得体の知れないノリからシリアスに変わられると身の危険を感じる。
僕が少し身構えると蜥蜴が気軽に言った。
「君に初回特典をあげるよ。
しばらくこの迷宮を自由に攻略するといい」
「初回特典?
限定特典のことかな?」
「限定特典よりも、もっと特別な特典だよ」
そう言って空中を舞うと一瞬で消えた。
「はぁ?」
思わず目を点にして大口を開けてしまう。
一方的に言うだけ言って、消えてしまった。
何がもらえるのかと思ったら、消えてしまったのだからムカついても仕方ない。
左手の魔導書に目わやると銀の黄金虫が掴まっている。
「収納庫」
腕輪から収納庫を起動すると魔導書をしまう。左手から|魔導書グリモワール》がスッと消えて足場をなくした銀の黄金虫が空に飛んだ。
銀の黄金虫が飛んで、僕の右肩に止まるのを見ながら蜥蜴が言ってたことを思い出す。
腕輪の収納庫、魔導書と銀の黄金虫。
銀の黄金虫は試してないけど、収納庫と魔導書だけでも凄い貴重な情報だ。
それで、これからどうする?
まぁ、蜥蜴が消えてしまったし皆と合流して一度戻るか。
闘技場の入口を振り返るとと傾斜を登った先に扉がある。
反対側にはいつの間にか新しい鉄の門がある。
入口は石の扉、出口は鉄の扉。
魔鉄亜人形を倒したときは無かった気がするけど、その後でバタバタしてる内にできたんだろう。
次からあの扉の向こうに進むことになる。
ちょっとした覚悟を心に秘めて、坂道を引き返した。
……マジか?
坂道を引き返して石の扉に着いたんだけど、石の扉が開かない。
押しても、引いても開かない。
ドンドン叩いても、何の反応もない。
帰れない。
休憩がてら斜面に腰掛けて闘技場を眺める。
魔鉄亜人形を倒したまでは良かったんだけどなぁ。
銀色の蜥蜴が色々と説明してくれた最後、初回特典でおかしくなってしまった。
初回特典の前までは銀の黄金虫の話しだったのに。
そう言えば、銀の黄金虫の力はまだ試してないな。
右肩に止まった銀の黄金虫にお願いしてみた。
助けてくれないか。
プンッ、銀の黄金虫が肩から飛び立つと僕の周りを一周してから下の闘技場の方へ飛んで行く。
あっ!
慌てて銀の黄金虫を追いかける。
闘技場の真ん中辺りに着くと、僕の右肩に戻ってきて止まった。
肩に止まった銀の黄金虫を見ながら、銀の黄金虫が何をしようとしたのか考えてると、目の前の地面が淡く光った。
光がゆっくりと強くなって、収まったときには光の中心だったところに金属の塊があった。
鉄? いや、銀か?
一辺が二十センチメートルほどの金属の立方体。
銀の黄金虫の力か。
なるほど。
五行、金属性の力。
土生金。金属、鉱物は土の中から生まれる。銀の黄金虫が土の中から金を生み出したんだ。
しばらくすると、金属ブロックの表面か結露し始めた。
水が付いてる。
金生水。金属がその表面に凝結によって水を生む。
これも銀の黄金虫が行ってるようだけど、直接金属を生み出したのとは違って間接的な能力に見える。
だって、金属ブロックが生まれたときは淡い光があったのに、今は光がなかった
再び銀の黄金虫が僕の肩から飛び立つと、出口の鉄の扉に向かった。
素早く金属ブロックを収納庫にしまい、後を追う。
銀の黄金虫は一直線に出口に進む。
出口の鉄の扉に止まると、僕を待っていた。
出口の扉は入口の扉をそのまま鉄にしたと言っていい。大きさも同じで高さ三メートルほど、両開きで両方の扉に波型の紋様と二匹の蜥蜴が彫られている。
尻尾を上にして下を向いた蜥蜴が力の象徴に見えると言うと褒め過ぎだろうか。
扉に掘られた蜥蜴の方が大きいんだけど、初回特典をくれた銀色の蜥蜴の姿に重なる。
扉の前に立つと銀の黄金虫が僕の肩に乗ってくる。
そうだよな。
戻れないなら、進むしかない。
ここに迷宮ができたときから、前に進むしかない。
鉄の扉をゆっくりと押し開き、闘技場の外に出た。
蜥蜴の遣り口が勘に触るが、進んでやるさ。
読んで頂きありがとうございます。
十話目まで来ました。
良ければブックマーク登録をお願いします。




