第三弾 俺は物語の主人公になりたい(3)
これから少し忙しくなることもあり、更新頻度は少し落ちると思います。
少しずつでも更新していくので応援のほどをよろしくお願いします。
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突然まじめな顔をして言うハルト、先ほどまで纏っていた空気とは打って変わって見るものを怯ませるような圧倒的な空気を纏っている。
「な、何で会ったばかりの貴方に分かるのよ!確かに非現実的な夢だけどまだ分からないじゃない!」
「おい!ハルト、何てこと言うんだ」
すかさず、アリサとライが反論する。
「ライオット、君の大切な友人なんだろ。だからこそ嘘は付けないんだよ。……僕は『天外の騎士団』の一員なんだ」
そう言いながらハルトは制服をはだけさせ、『天外の騎士団』の紋章が刻印された自らの胸をあらわにする。
「……!それは『天外の騎士団』の証である紋章…………。本当にそうなのね」
「ああ、だからこそ分かるのさ。……努力だけではどうにもならない世界があるということがね。この中で可能性があるとすればイリスくらいのものだろうね」
「……ッッ!」
その言葉を聞いて堪え切れなくなったのか涙をこらえながら走り去っていくアリサ。
「アリサ!……ハルト、あとで話があるからな!」
「……私もアリサを追いかけますね」
それだけ言い残しアリサの後を追いかけていくライとイリス。
まあ、アリサのことはあの二人にまかしておけばいいだろう。
それより俺はこっちだ。
「まさか、あの超有名なギルドの一員だったとはな」
「まあね、できれば他言無用でお願いしたいんだけどね」
苦笑いでいうハルト。
「…………気に入らないな」
「なにがだい?」
「アリサとは初対面だろ?確かにお前くらいになると見ただけで相手がどれくらいの奴なのか分かるかも知れないが、それは今の強さでだけであってそいつのこれまでの努力や、これからの未来なんてわからないだろ」
アリサがこれから努力して劇的に実力が伸びることだってあるはずだ。
だが、ドラク=ハルトはそんな未来さえもあり得ないと決めつけて否定した、俺はそれが気に入らない。
「……そうだね。普通ならそうかもしれない、けど僕にはわかるんだよ。分かってしまうんだ。僕の目は少し特殊でね、視た人の強さが、その人がどれだけ頑張ってもたどり着くことのできない限界点が見えてしまうんだ」
「なるほどな」
さっき教室で感じた全てを見透かされているような感覚もあながち間違いじゃないってことか。
「僕の能力を信じず努力し続けて最後には後悔する人や命を落としていく人たちをこの短い人生の中でも何人も見てきたからね。だからこそ叶いもしない夢に向かって無駄な努力をしてる人を放っておくことは出来ないんだ、視える僕には止める義務があるだろう?」
困ったように笑いながら、しかし哀しそうに言うハルト。
確かに説得力もある。
ドラク=ハルトの言ってることは何も間違ってないだろう。
人には才能の差があり、努力だけでは辿り着くことのできない場所もある。
正論だ、気持ちいい程にド正論だ。
そして、あいつにはその限界点が観えてるって言うならあいつの言う無駄な努力を止めてやるって言うのも正しい行いなのだろう。
…………だからこそ気に食わない。
たかが能力如きが定めた限界にはいそうですかと従うことが、身の丈に合わない願いは叶わないんだと決め込むその姿勢が、俺は俺のためにもそれを認めるわけにはいかない。
「それはお前の眼が決めた限界点だろ?思考停止して能力の裁量で勝手に俺達の限界点を定めてんじゃねえよ」
「今まで僕の眼が定めた限界点を超えた人は居ないのにかい?」
「なあ、ハルト、俺はさ物語の主人公になりたいんだよ」
「……唐突にどうしたんだい?」
俺のいきなりの話題に困惑気味のハルト。
「まあ聞けよ。お前も憧れるだろ?仲間のピンチに颯爽と駆け付け華麗に敵を倒して世界や仲間を守る、そんな物語の主人公によ」
「まあ、そうだね。憧れるよ、現実はそんな甘くはないからね。そういう理想にすがりたくなる時もあるさ」
「へえ、世紀の天才って言われるリアル物語の主人公みたいなお前でもそう思うことがあるのか、意外だな」
「そりゃそうさ、今までに自分の力が足りなかったせいで救えなかった命もたくさんあるからね」
およそ十代の若者とは思えないような哀しいそうな顔で話す。
この年で『天外の騎士団』に入団しているハルト、一般の常識とは違う軸で生きてきたのだろう。
「天才って言われてるお前でさえ現実にはない……、理想だと決めつける者に俺はなろうとしてるんだぜ?……そりゃ限界の一つや二つ軽々飛び越えていってやるさ」
「君は我が儘だね。だけど僕もこれだけは曲げることは出来ないな」
俺の言葉を聞いても曲げるつもりはないと、毅然とした態度で返す。
「お生憎様だがこっちは反抗期真っ盛りなもんでね、無理だ、無理だって言われればやりたくなるし、正しいことしか言わない、イイ子ちゃんには逆らいたくなるんだよ」
俺は口元にニヤッとした挑発的な悪い笑みを浮かべる。
「それは反抗期だからじゃなくて君が捻くれてるからじゃないかな?」
ハルトが苦笑いで言う。
「うるせぇよ。ともかく俺はお前を認めるわけにはいかねえ」
「認めないならどうするんだい?僕はどれだけ力説されてもこの考えを変えるつもりはないよ」
その言葉に俺は挑発的な笑みを崩すことなく言う。
「まあ、そうだろうな。お前の言うことが、たかだか能力が決めた限界なんていくらでも超えられるってことを真正面から捻りつぶして教えてやるよ……ドラク=ハルトお前に決闘を申し込む」
こいつはさっき『天外の騎士団』に入れる可能性のあるのはイリスだけだと言った。
それはつまり『天外の騎士団』である自分と実力が近しいものは俺達の中ではイリスだけだということだ。
だからさっき選ばれなかった俺が決闘で勝つことによってコイツの、ハルト=ドラクの言い分を否定してやる。
「なるほどね。本当にいいのかい?」
俺の思惑に気づいているのか、真面目な顔で問いかけてくるハルト。
これは一種の賭けでもある。
この決闘で俺が負ければハルトの言った限界点を超えることは出来ないということを認めてしまうことになるからだ。
ハルトも恐らくそれが分かっているのだろう。
ドラク=ハルトが限界を超えることは不可能で人には分相応な願いしか叶えることが出来ないって思ってるなら、
「ああ、いいぜ。覚悟しとけ、お前の世界跡形もなくぶち壊してやるぜ」
「わかった。ならその決闘受けて立つよ」
僕の祖父は他人にはとても優しく、そして自分には厳しい人だった。
自らを厳しく律し、常に研鑽をたゆまず努力し続け、正義のために行動する。
そんな後ろ姿をみて育った僕にとって祖父は憧れだった。
祖父は幼い僕に正しい行いを実行するにはどんな理不尽な力にも屈しない力が必要だと教えてくれた。
父はその教えを実践するようにどんな悪にも屈しないための研鑽をしていた。
ある時祖父はどれだけ修行を積んでも自分の力が今の地点以上に伸びていないことに気づいた。
そして、今まで以上に激しい修行を行うようになった。
僕も眼の力によって祖父の限界点がここであるということは分かっていた。
だが、憧れの祖父なら限界さえも越えられるんじゃないかと僕は期待していた。
だが祖父でさえも限界を超えることは出来ず、無茶な修行の最中に命を落としてしまった。
僕はとても後悔した、分かっていたのに止めることが出来なかった自分に。
僕の期待が、僕が祖父を殺してしまったのだ。
それから先も、僕は沢山の人の後悔する顔や、命を落とす人たちを見てきた。
ただのドラク=ハルトでしかない僕の声は誰にも届くことはなかった。
僕には誰も救えなかった。
そんな自分が嫌いで、これ以上後悔はしたくなかった。
だから僕は正しい行いをするためにはどんな理不尽な力にも屈しない力が必要だという祖父の教えを実践し、力を付け、『天外の騎士団』へと入団した。
『天外の騎士団』であるドラク=ハルトの言葉ならみんな耳を傾けてくれるからだ。
僕はこれ以上後悔する人や命を落とす人、そして大切な人の死に悲しむ人を生み出したくない。
だからこそ『天外の騎士団』に入団したんだ。