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二丁拳銃使いの主人公志望者  作者: 燐夜
第二弾 初実践
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第二弾 初実践(2)

「はあー、緊張したわ」


「お疲れさまでした、アリサ。まさかあんなに強いとは思いませんでした」


「ま、まああれくらい当然よ!」


 満更でもなさそうに返事をするアリサ。


「そうそう、今でその強さなら『天外の騎士団』に入るのも夢じゃないんじゃないか?」


 からかうように俺が言うと、アリサがすごい勢いでこちらを向く。


「な、な、な、なんでその事を知ってるのよ!?」


「ラ、ライがそう言ってたぜ」


「ちょっと、ライオット!そのことは誰にも言わないでって言ったじゃない。だいたい子供のころの話よ」


「十四歳くらいまでいってたじゃないか。なんでそんなに否定するんだよ?」


「うっ……だって、恥ずかしいじゃない。それに『天外の騎士団』に入りただなんて言ったら現実が見えてないって笑いものにされるだけよ。」


 恥ずかしそうに言うアリサ。多分今までに幾度となく自分の夢を笑われてきたのだろう。


――――――おい、落ちこぼれ!お前にはいくら努力してもできないよ!


 思い出すのは遠い過去の記憶だ。

 無力な自分が悔しくて、努力しても報われなくて現状に納得したふりをしていた師匠と出会う前の自分。


 夢を笑われてきたのであろうアリサと過去の自分が少し重なって見えた。

 だから思わず口が開いた。


「笑いたい奴には笑わせておけよ。現実が見えてない上等だろ。夢と真剣に向き合ってたら現実が見えないのは当然のことだ。夢も現実もなんて二股野郎のすることだしな。……それにだ夢を叶えてきた人ってのはもれなく笑われてる側なんだぜ?」


「何か明確な目標があり、それを達成しようとしているものは強いものです。夢を追うことにリスクはつきものですが、自分が思うようにやってみるということは大事なことだと思いますよ」


 イリスも何か思うところがあるのか、真剣な表情でアリサに語りかける。


「それに少なくとも私は人の本気の夢を笑ったりしませんよ」


「同意見だ」


 俺たちの真剣な言葉に少し涙目になるアリサ。


「みんな……」


「それにあれだ、アリサ貴族なんだから人生多少失敗しても財力で何とかなるだろ」

 俺がそう言うとさっきまでのまじめな空気が一気に取り払われ、三人が三人とも俺の方を向き


「台無しですね」


「台無しね」


「台無しだな」


 俺の言葉にみんなが一斉に同じ言葉を並べる。

 いや、息ピッタリすぎだろ……。


「そういえばアリサの能力はなにか分かったか?ダン、イリス」


まじめな話から一転、話題を切り替えるライ。


「そうですね。まあおそらくは」


「風の操作だな」


 イリスの言葉を遮り先の答えを言う俺。少しイリスがムッとしている日頃のお返しである。ざまあ!


「正解だ。その様子だとイリスも分かっていたようだな」


「あれだけ目の前で見せられれば流石に分かりますよ」


 自然にイリスのフォローをするライ。くそ、顔だけじゃなく性格までイケメンとかなんだコイツ……。


「それにしてもマッチョマンの全力の一撃を防いだ風のバリアも最後の衝撃波もいい練度だったな」


「ふふん、まあね!それほどでもないわよ」


 俺が褒めると誤魔化そうとしながらも全く嬉しさを隠せていないアリサ。

 なんて単純なやつなんだ……。


 そうこうしているとライの名前が先生に呼ばれる。


「ライオット、次はあんたの番よ」


「おう、じゃあちょっと行ってくるぜ」


「負けたら承知しないからね!」


「ハハ、頑張ってくるよ」


 あまあまなやり取りを目の前で行う二人、胸やけがするわ。

 よそでやれよそで。


「本当にあの二人は仲がいいですね」


 そう呟くのはイリスだ。


 そういえばこいつが誰かと話しているところってあんまり見ないんだよな。

 人気者のくせに俺と同じくボッチなのか?かわいそうなやつだな。


「まあ、幼馴染らしいしな。お前は仲のいいやつとかいないのかよ」


「そういったものとは無縁な生活を送ってきましたからね。入学式でアリサに話しかけられていなければ学園生活も今頃一人で過ごしていたと思いますよ」


「ふん、かわいそうな奴め」


「うるさいです。あなたこそ学園で話しているところを全く見たことありませんけど」


「なんか知らんがあのボロ寮に住んでるってことが知れ渡ってからみんなに避けられてる気がするんだよな」


 最初の頃はちらほら声を掛けられてはいたんだが、あのボロ寮に住んでいることを話しているうちに心なしかみんなとの距離が離れていったのである。


「魔界寮に住んでるやつにはろくなやつがいないから関わらない方がいいっていうのがこの学園の暗黙の了解らしいわよ」


 ライとの話が終わったのかアリサが会話に参加してきた。

 ちなみにステージの上を見ると絶賛ライが戦っているところだった。


「魔界寮?」


 聞いたことのない単語に聞き返す俺。


「あんたが住んでいる今にも壊れそうな寮のことよ。この学園の生徒はみんなそう呼んでるみたいよ」


「あそこそんな名前で呼ばれてるのか……ていうかろくなやつがいないってひどくない?」


 まあ確かに雰囲気だけ見ればまじで魔王住んでそうだしなあ。


「なるほど、確かにダンを見ていればそれも頷けますね」


 うんうんと頷くイリス。

 てめえのは百パーセント馬鹿にしてるだろ。


 まあ確かに思い当たる節はある。


 サクヤさんも言ってたな訳ありなものが集められるって。

 サクヤさんはおそらく人に恐れられる体質のせいだろう。

 そして他のメンバーにもそういった問題がそれぞれあるんだろう。


「ん、けどそれならおかしくね?なんで性格に問題しかないイリスが普通の寮にいいぃぃぃ」


 いきなり俺の地面に穴があき、情けない声を出しながら落ちていく俺。


「ぬおおーけつが!けつがあぁぁ。おい、イリス!けつが四等分になるところだったろーが」


 完全に油断していた俺は見事にお尻から着地し、大ダメージを受ける。


「何のことか分かりませんね」


 くそう。あくまでしらをきるつもりかコイツめ……。


「あれ、ダン地面に穴なんか掘ってどうしたんだ?」


 俺が穴から這い上がっていると試合から戻ってきたライが話しかけてくる。

 ライの試合全く見てねぇや。


「あ、ああ無性に穴が掘りたくなってな。それより試合はどうだったんだ?」


「ああ、問題なく勝ってきたぜ!」


 特に汚れることもなく、息一つ乱してないところを見るとアリサだけでなくライも相当の実力を持っているのだろう。


「次の者!ダン・ウェルフ、モーブ・サインダー!」


 先生に俺とその対戦相手であろう者の名前が呼ばれる。


「ダン、呼ばれていますよ。穴なんて掘ってないで早く行ったらどうです」


 イリスが声をかけてくる。

 ……コイツ、こらしめてやりたい。


 俺は穴からはい出ると、ステージの上に急ぐ。

 ステージに上がると既に相手は準備万端といった様子で、俺の到着を待っていた。


「おい、遅いぞ、お前。僕は貴族だぞ。庶民の分際で俺を待たせるとはいい度胸だ」



 高圧的な態度で話しかけてくる対戦相手。

 国王から特権を与えられ、地区の管理を任せられる社会の上流に位置する存在である貴族。

 昔は民を思うがままに使い倒し、法外な税を徴収したりとやりたい放題だった。


 しかし、二十年前の亜人大戦という戦争から権力体系が大きく変化し、今では貴族は尊敬される存在ではあるものの昔のように好き勝手出来る存在ではないのだ。

 しかし未だに昔のことを忘れられず、今の状況が面白くないと思っている貴族も少なくない。


 いるんだよなぁ、時代錯誤した勘違い貴族ちゃんがまだ。


「あ、すいません。モブ・キャラクターさん」


「モーブ・サインダーだ!貴様、馬鹿にしているのか!」


「そんなぁ、貴族様をバカにするわけないじゃないすかぁ~。まったくバカだなぁ~」


「ならいいのだが……っておい!今バカって言っただろ!」


 え、コイツもしかしてめっちゃ面白いやつなんじゃない?

 打てば響くような反応に楽しくなる俺。


「あれ絶対楽しんでるわよ」


「だな」


「最低ですね」


 ステージの外からアリサ、ライ、イリスの声が聞こえてきたが無視だ、無視。


「おい!聞いているのかそこの庶民!」


「いやまじ聞いてますよ、ちょう聞いてますよ、聞いてないわけないじゃないすか、貴族様のありがたいお言葉を。ピーピーうるせぇな」


「おい!早口で聞き取れなかったが絶対バカにしただろ!もう許さないからな。僕のレガリアで痛い目見せてやる。審判、開始の合図を!」


 やる気満々の様子で先生に開始の催促をするモー……モブ・キャラクターだっけ?


「両者構えて……開始!」


 先生が試合の始まりを告げる。

 その声を聞いて武器を取り出すモブ・キャラクター。


「炎よ我が意思に従え!<フレイムルーラー>」


 両手杖のレガリアを呼び出す。

 武器から推測するに距離を取って戦闘を行うタイプだろう。


「行くぞ、庶民!後悔させてやる。」


 予想通り相手は距離を取ると次々に火球を撃ち放つ。

 まあ、能力は戦気の炎化ってところだろう。

 単純だが強力な能力だ。


 俺は相手の能力について思考しながら、同時にどうやって攻略していくかも考える。

 ―――――相手と同じ土俵で戦うかな。


「来い<エスポワール>、<スペランツァ>」


 ズドン、ズドン、ズドン。


 相棒の二丁拳銃を呼び出すと俺は相手の放ってくる火球を気弾で相殺する。


「ふん、僕と物量勝負をしようってのかい。面白い、だけど僕は生まれつき人より戦気が多いんだ。君に勝ち目はないと思うけどね。ハハハハハ」


「あ、口だけは達者ですね」


「貴様ァ!」


 俺のことを煽ろうとし、逆に煽られさらに腹を立てるかわいそうなモブ。

 相手の攻撃は怒りに連動しているかのように熾烈を極める。

 俺はその攻撃を一つも残さず全て相殺していく。


 ステージの上を火球と気弾がまるでお互い引かれ合ようにぶつかり、小爆発を起こしながら消滅していく。

 その様子は少し綺麗に見えなくもない。


「なかなかやるな、ならばこれでどうだ!」


 相手の両手杖に今まで以上に戦気が込められていく。

 そして放たれる火球の量と大きさが先ほどの倍になる。


「なるほど、面白い。全て撃ち落としてやんよぉ!」


 一つのミスも許さない、この勝負フルコンボで終わらしてやんよ!

 謎の決意を胸に、飛来してくる火球全てに的確に気弾を当てていく俺。


 このまま一生続くかのように思えた攻防だったが、だんだんと火球の量が減っていき、ついにはモブの攻撃がぱたりとやむ。

 理由は至ってシンプルで戦気が底をついてしまったのだろう。


「くっ……」


 苦しそうに膝をつくモブ。


「あれぇーモブさぁん、もう降参ですかぁ?」


「貴様……なぜそんな平気そうなんだ。僕は普通の人と比べ戦気が多いはずなのに!……まさか貴様、僕以上に戦気が多いとでも言うのか?」


 自分が戦気切れを起こしているのに俺が起こしていないのを見てついに名前を訂正するのも忘れて質問してくるモブ。


「いや、俺はむしろ一般人より少ない方だぜ?そのせいでガキの頃は苦労もたくさんしたしな……」


「ならば!なぜ貴様はそんなにピンピンしているんだ!戦気の多い僕が膝をついているというのに……」


「強力なレガリアに加えて一般人より多い戦気。その才能にかまけて今まで大した努力もしてこなかったんだろ、それで勝てるのは格下の相手だけだぜ。……というわけで降参ってことでいいかな?」


 モブのそばまで行き、銃口を額に押し付けながら問いかける。


「くっ……僕の負けだ」


「勝者、ダン・ウェルフ!」


「覚えてろよ庶民!この借りはいつか返してやるからな!」


 モブの負け惜しみを背中に受けながら意気揚々とステージを降りていると、ライたちが近づいてくるのが見えた。



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