第一弾 最悪の出会い
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俺ことウェルフ=ダンは困り果てていた。
俺は今エルグランド大陸でも一、二を争う大きさをほこる都市グレイサムに来ている。
田舎の山の中で師匠と二人で生活していた俺にとっては大都市というものはとても新鮮なもので、始めてみるものばかりで溢れていた。
行きかう人達に目をむけると、今からギルドのクエストを受けに行くのか防具を装備し武器を携えた集団や商談をしに別の町からやってきたのか馬車で荷をひいているもの、耳の尖ったものや獣の耳や尻尾を持ったものなど人間でないものもたくさんいる。
この世界には三種類の種族が共存している、ヒューマン、エルフ、亜人の三種族だ。
そしてこの三種族のことを総じて人という。
それぞれがそれぞれの特徴を持っており互いに住処を決めて生活している。
だがここ都市グレイサムはあらゆる種族が互いに助け合い、生活を紡いでいる非常に珍しい場所……らしい。
らしいというのは俺も師匠から聞いただけで目にするのはこれが初めてだからだ。
ふむ、ケモ耳にエルフ……なかなかに尊いな。
そんな現実逃避をしながら俺はこれからどうするか考えていた。
まずそもそも田舎の町で静かに暮らしていた俺が何故こんな大都市に来たかというとこの都市に存在する学園に新入生として入学するためだ。
先ほど説明した三種族にはそれぞれ違った力が備わっている。
ヒューマンにはレガリアという特殊な武器。
エルフには魔法というこの世の理を司る力。
亜人にはほかの二種族にはない圧倒的な身体能力だ。
例外がないこともないが基本的には他種族が他種族の力を使えるということはない。
学園はそういった自分の力を知り、鍛えるために試験に合格した者だけが通うことのできる場所だ。
十六歳から入学することができ、基本的には三年間の過程を経て卒業となる。
学園を卒業すれば卒業者だけに与えられる資格がありその資格を持っているといろいろと有利なのだ。
そして本題である俺が何故困っているのかというと率直に言うと金が底を尽きたのである。
学園の入学式は明日でありそれまでは寮に入ることもできないので、きょう一日は町の宿を借りて夜を過ごさなければいけないのだが町に着くまでに師匠から貰ったすべての金がなくってしまったのだ。
あのボケ師匠め……なにがこれだけあれば足りるだ。
適当ぬかしやがって、いつもぼけたこと言いすぎてついに本当にぼけちまったか。
などとで毒づきながら適当に街を歩いていると、いかにもガラの悪そうな男たちが路地裏で一人の女の子を取り囲んで何やらしているのが見えた。
「おい、かわいい姉ちゃんよ俺たちが奢ってやるから酒でも飲みにいかねえかい?へへっ」
「おいまだ酒飲める年じゃねえだろぉ、お前酔わしてどうするつもりだよ」
「ちょっと大人の世界をおしえてやるだけだよ、ふへへ」
下卑た笑い声をあげながら女の子に話しかけていた。
否、セクハラをしていた。
ふう、やだやだいつの時代も頭のわいた出会い厨は減らないもんだねえ。
ん・・・だが待てよ、彼女を助ければお礼に宿の一つや二つ奢ってもらえるのでは?
あわよくばあの子とキャッキャウフフできるのでは?
はたからみれば彼女を取り囲んでいる奴ら同じくらい屑なことを考えながら、俺は彼女を助けるべく動いた。
「おい、そこの出会いちゅ…………え?」
―――――――――――――――ズドンッッ!!!
鈍い音とともに彼女に群がっていた連中が地面にひれ伏していた。
呆然としていた俺に気づいた彼女がこちらに手をかざしながら呟いた。
「あら、まだ下種の愉快な仲間がいたようですね」
彼女が大いなる誤解をしているであろうことに気づいた俺は弁解をすべく口を開いた。
「ちょ、ちょっと待て、何か勘違いをぶおっふおっ!!!」
突如、俺の身体が見えない力におされ壁に叩きつけられた。
な、なんじゃこりゃ……まさか強力なレガリアの持ち主か、だとしたら助けられるようなたまの人間じゃねえじゃんか……とにかく弁明をしよう、ここはクールに紳士的にいこう。
「ゔぉ、ゔぉぢずけぇおではだすげようどじだんだ」
そこには紳士と言った言葉から全くかけはなれた、世界一ダサい姿をしたやつがいた。
というか俺であった。
「ちょっと何言ってるかわからないので、とりあえず死んでもらえますか?」
にこっと微笑みを浮かべた彼女の顔はとてつもなく整っており髪と肌は雪のように白くまるで自分たちとは違う生き物だという感覚に陥った。
そんな見た男をすべて魅了するような天使のごとき頬笑みが今この場においていえば悪魔の笑みに感じられた。
――――――――――――ドンッッ!!!!
彼女が手を振り下ろすとともに俺は地面と熱い接吻を交わした。
「これに懲りたらもうそういった下種な行為はしないことをお勧めします」
彼女はそれだけ言うと颯爽と立ち去って行った。
おいおい都市怖すぎだろ。人助けしようとしただけで容赦なく叩きのめされるとか何なの?世紀末なの?確かに何言ってたか分からなかったけど、もっと聞く努力をしてくれてもよかったんじゃないかな?いや別に気にしてないけどね?
そんなことをぶつぶつと呟きながら、地面から立ち上がって衣服についた汚れをはらっていると、先ほどの一連の行動を見ていたのかちょうどよいタイミングで一人の男がにやけ顔で声をかけてきた。
「よう、ずいぶんひどくやれたようだけど大丈夫か?」
「心配してくれてありがとよ。まずはそのにやけ顔どうにかして出直して来いや」
その男は赤色の髪に赤い瞳、そしてそのにやけ顔はイケメンだった。
イケメンだった……大事なことなので繰り返した。……イケメンユルスマジ。
「いや、助けに入ったのは見えたが、まさか助けようとした相手にやられるとはな……プッ、ククク。」
どうやらこの赤髪は先ほどの出来事を最初から見ていたようだ。
いや何故止めに入ってくれなかったのか……いやマジで。
「見てたんなら助けてくれよ……」
「いやほら、お前みたいに巻き添え食らうのもなんだしな……それに多分あの服はグローリア学園の制服だぜ」
まあ、人間自分のことが一番大事だしなコイツのことを責めるなかれ自分よ。
そんなことよりグローリア学園だと。
「それ俺の入学先じゃん」
「え、まじか兄弟よ。おれもグローリア学園の新入生だぜ」
「いつから俺とお前は兄弟になったんだよ。ていうかお前も新入生かよ」
「小さいことは気にすんなよ兄弟、これから仲良くやっていくんだからよ」
バシバシ俺の背中を笑顔で叩いてくる。超痛い。どんな力してるんだよ、馬鹿力すぎだろ。
「仲良くするなら超絶美人なお姉さんになって出直してきてほしいころだ」
「そういうなって、俺の名前はライオット、ライオット・ベルクマンだ。気軽にライとでも呼んでくれ。よろしくな、兄弟!」
そう言って右手を差し出してきた。
「だから兄弟は止めてくれ。……俺はダン・ウェルフだ、ダンと呼んでくれ。まあこれからよろしくな、ライ」
そういって差し出された右腕を握った。超痛かった。コイツのあだ名は馬鹿力で決定だな。
都市にきて初めて友達ができた瞬間でありその友達のあだ名が決まった瞬間でもあった。
「じゃあ俺はこれで!また入学式で会おうぜダン」
いうが早いがダッシュでいなくなっていった。
嵐のような奴だったな……。
「あ、あいつからお金借りればよかった」
時すでに遅くライはすでに遥か彼方へと遠ざかっていた。
それからまたあてもなく街をブラブラしていると突然後ろから声をかけられた。
「そこの少年よ、道に迷ってしまったのだが少し力を貸してはくれまいか?」
凛とした雰囲気でその目と視線が合うと一般人とはどこか違う世界の人だと思わされ、少し恐怖を感じさせられた。
俺は、彼女の持つ雰囲気にのまれないように軽口を交えながら言葉を返す。
「奇遇ですね俺も今路頭に迷ってるところなんですよ。なんせ今日夜を過ごせる場所にすら困ってますからね」
うまい返しをしたと、これでもかというほどドヤ顔をしていると少し驚いた顔をしながらこちらを見ていた。
ちなみに敬語になっているのはちょっとビビったからとかでは決してない。
綺麗なお姉さまには媚びを売っていくスタイルなのである。
もう一度言うが決してビビったとかではない。
「……ふむ、なるほど。ならば私をこの地図の場所まで連れて行ってくれれば今日泊まれる場所を提供してやらんでもないぞ。どうだ少年よ」
こいつ華麗にスルーしやがった。
どや顔してた俺が恥ずかしいじゃねえかこのやろう。
だが提案自体はとてもいいものだったのでいちもにもなく首を縦に振った。
「よし、交渉成立だな。ではよろしく頼むぞ少年よ」
「あ、ちなみに無一文なんですけど問題ないですよね?」
俺がこれでもかというくらいさわやかな笑顔でそう言うと苦笑いで彼女は答えた。
「あ、ああ問題ないよ」
ということで俺は急遽、道端で出会った謎の女の目的地を探すことになった。
目的地を探しながら改めて彼女のことをまじまじと見てみる。
歩くたびに揺れる腰に届きそうな黒髪にとても凛々しく整った顔立ち、そこからはえるすらっとした手足に迫力満点な胸、文句なしの美女だ。
そんなことを考えながら彼女を見ていると俺の視線に気づいたのかにやりと笑いながら話しかけてきた。
「どうしたのだ、そんなじろじろ見つめてきて。私の抜群のプロポーションにみとれていたのか?」
「い、いえ別にすごい大きい胸だなんて思って見てたわけではないですよ?ただ、どうして俺なのかなと思ってですね」
……ごまかしたつもりが思ってたことがすべて言葉に出てしまった。
なんて正直者なんだ俺、まあそこがいいところでもあるよねっ。
……キメェな。
するとくっくっと笑いをこらえながら面白そうに聞き返してきた。
「どうしてとは?」
「み、道案内のことですよ。俺じゃなくて道に詳しい人に聞けばよかったんじゃないですか?」
「ああ、なるほどそのことか。私の生まれついての体質なのだが、人におびえられて会話もままならないんだ。だから君のように軽口を交えて会話できる人は珍しくてね、つい嬉しくなってからかってしまったよ。」
……やはりからかわれていたのか、まあ美女にからかわれるのも悪いものではないけどな!
まあそれはともかくとして、なるほどだからか。
先ほどから行きかう人たちは次々に顔をそらしていた。
俺も視線が合った時に少しちびりそうになったのは内緒だ。
ちびりそうになっただけでちびってないからな?ほ、ほんとだぞ?
「それ、俺がいなかったらどうやって目的地まで行くつもりだったんですか」
「いつも通り手あたり次第声をかけてたどり着く予定だったな」
「なんて迷惑なやつなんだ……」
「ハッハッハまあそういうな少年よ、今日は君がいてくれて助かった。礼を言うよ、ありがとう」
そういってほほ笑んだ彼女の顔は平常時の大人びた様子とはかけ離れた幼いものだった。
ちなみにちょっと見惚れた。
……まじでもったいないなこの人、体質さえなければ文句なしの美女でモテモテだろうに。
「――っと、ここまでくれば何とかたどり着けそうだ。ついてきたまえ少年よ」
そういいながらずんずん進んでいく、俺も気を取り直して後についていく。
ついた場所は都市のにぎやかな雰囲気とは打って変わってとてもがらんとした人通りも全くない場所だった。
そこにポツンと寂しく一つの建物が建っている。
外見はとてもボロボロで廃屋といっても過言ではないレベルだ。
……まさかここが目的地だなんていわないですよね。
「ついたぞ、ここが我々の目的地だ」
ここが目的地だった。ん、ていうか今我々のって言わなかったか?
とても嫌な予感がしたのでたずねてみた。
「我々のとはどういう意味か聞いてもいいですかね」
「ふむ、文字通りの意味だよ少年。紹介しようこの寮こそが私の下宿先であり、今日君が夜を超すための場所だ!」
「――いろいろ言いたいことはありますが、とりあえずこれだけは言わせてください。自分の家までの帰り道で迷うなや!」
今日出会った謎の美女は超方向音痴だった。
どうやら謎の美女はこの寮の寮長を任されていて多少の融通が利くらしく、俺は空いている部屋を使わせてもらって一夜を過ごした。
つけ足しておくと、隙間風がとても寒かった。
そんなこんなで俺は次の日の朝を迎えた。
「いろいろありましたが、昨晩はありがとうございました。そういえばまだ名前を聞いてませんでしたね。」
「うむ、礼には及ばんよ少年。そうだな一つ屋根の下で一夜を共にしたというのに自己紹介もしていなかったな」
「つっこまないからな……」
「フフフ、すまない。君をからかうのは楽しくてついね。私の名前はサクヤ・アデュオンだ、よろしく」
「俺の名前はダン・ウェルフです。改めてありがとうございましたサクヤさん」
「ダンか、君とはまたすぐに会えそうな気がするよ」
そう言って別れを済ませた後、俺は入学式の会場に向かった。
気長にやっていきます。
あと感想待ってます。