第1章放課後での始まり
第1章放課後での始まり
季節は9月後半、もうすぐ秋になるといってもまだ湿気と暑さが残るときだった。
「あぁ、暇だなぁ」
僕は学校でつまらない授業を受けながらつぶやいた。
僕は高3の平凡な学生で特に部活にも入らずテストの成績も毎回真ん中よりちょっと上ぐらいだ。
僕は生まれつき足が悪かった。だから外出するときは車椅子に乗って自分で車椅子を漕いで移動していた。僕は足が悪いと言っても麻痺があるわけじゃないし何かを持ってだったら立てるし、ちょっとは歩けた。家では車椅子から降り這って普通に生活をしていた。
学校は家から電車で1時間ぐらいかかる私立の高校に車椅子で通っていた。学校ではいじめられることもなく友達も少なくはなかった。僕の周りは男友達ばかりでまったくと言っていいほど女子とは接点がなかった。そんな学校生活ももう半年を切った。この時期になると皆の話は「○○大学へ行く」とか「勉強が難しい」とか「面談緊張する」とか大学や専門学校、就職とかの話が自然と多くなる。そんな僕も友達も受験や就職活動があって忙しくなっていった。そうなると皆とはなかなか予定が合わず遊ぶ機会も減っていった。
僕は授業が終わって誰もいなくなった教室で1人受験勉強をしていた。どうやら他の人は自習室や図書室に行ったりして勉強をしているようだ。僕も自習室か図書室に行こうかとも思ったが車椅子で行くには少々面倒なので教室で勉強することにした。そして勉強始めて1時間ぐらい経ったころ急に声をかけられた。
「山本くん」
ふと声がした方を見ると教室の入口のところで内田真奈美が立っていた。
内田は同じクラスの女子で明るく、活発で男女両方から人気を集めるようなやつだった。しかし僕はこの1年、同じクラスになったぐらいで内田とはほとんど喋ったこともなく接点もあまりなかった。だから急に声をかけられた僕は少し焦った。
「おう、内田」
僕は焦ったことがばれたかと思いながら答えた。
「山本くん何してるの?」
「受験勉強」
我ながら愛想のない話し方だと思う。内田は話を続けてきた。
「へぇ、山本くんどこ受けるの?」
「隣の駅にある大学知ってる?」
「うん。私そこの大学受験するから」
「僕もそこ受けるんだ」
「へぇ、一緒だね。学科は?」
「経済学部」
「えっ!?私も経済学部だよ」
内田はすごい笑顔で答えていたが僕はどうリアクションしたらいいのか分からずとりあえず笑っていた。そこで話が終わるかと思ったら内田は話を続けた。
「でも山本くんだったらもっと上の大学いけるんじゃない?」
そう言われて僕はこの大学を選んだ理由を言ったら気まずくなるかと一瞬思ったが、まぁいいかと思って理由を話した。
「家から近くて車椅子で通える設備が整った大学ってここしかなかったんだ。評判も悪くなかったし」
そう答えると内田は「そうなんだぁ」と特に気まずくなる感じでもなく普通に答えていた。
僕は話も一段落ついたしこれ以上話が長引いても間が持たないと思って帰ることにした。
「じゃ僕そろそろ帰るわ」
僕は手早く帰る用意をして帰ろうと扉を前にした時また内田の声がした。
「待って!!」
「何?」
僕はこの時まだ何かあるのかと思った。
「同じ大学受験するんだったら明日から2人で勉強しない?というか私に勉強教えてくれない?私そんなに成績良くないから・・・」
内田はそういったが別に成績が悪いわけじゃないしテストの順位も僕とそんなに変わらない。科目によっては僕より内田の方が上のこともある。
正直なぜ今日初めて喋ったに近いのにこんなお願いしてくるんだと思って僕は戸惑った。僕は頭の中でいろいろと考えたが断りにくいし、早く帰りたいのもあって了承することにした。
「うまく教えられるか分からないけどそれでもいいならいいよ」
「全然いいよ。じゃ明日からお願いできる?」
「うん。じゃ場所は教室でいい?」
「うん。教室でいいよ」
「了解、じゃ明日の放課後からってことで。今度こそ帰るわ」
「うん。じゃバイバイ」
「バイバイ」
僕それだけを言ってすぐ教室を出て電車に乗り家に帰った。
家に着いて自分の部屋に入るといつもは喋らない人と喋ったためか女子と喋ったためかいつもよりどっと疲れた気分になった。その日の夜はとりあえず疲れをとるために早く布団に入って寝ることにした。