番外編4 独立宣言
「ベッドは別がいいっ」
ある日の夜、いつものように寝る準備をしているとシャルがそんなことを言い出した。
「別って……どうして」
「どうしてもっ!」
ぷん、と怒ったように頬を膨らませるシャルは、足音を立てながら別のベッドのほうへ行ってしまう。
荷物置きとして使っているベッドから鞄やら何やらを床に置いている。
「さては、エリーに何か言われたな?」
「ちがうもん」
「お父さんと寝るのは、変なことじゃないだろう」
バハムートの俺が人間の常識を語るのはちょっとアレだと思うが、周りの話を聞いた感じだと、おかしなことではないはずだ。
「わたしは、独立します」
「独立ぅ?」
なんだそれ
トシゴロってやつなのか。
自分一人で何でもしようってことだろう。
「わかったよ。好きにするといい」
「うん」
「けどな、シャル」
俺は間を開けて続けた。
「独立って言うんなら、夜、おトイレに行くときもお父さんは起こすなよ?」
「っ!?」
そこは考慮してなかったのか、シャルは驚いたようにこっちを見た。
「だって、独立するんだもんな。廊下が薄暗くて怖くても、一人でおトイレは行けるはずだ。独立しているんだから」
「……で……できるもん」
言葉と表情が全然違う。
顔は不安そうで、すでにふにゃふにゃで泣きそうだった。
ちょっと脅かし過ぎちまったかな。
「明日もクエスト、朝から頑張ろうな。それじゃ、おやすみ」
「…………おやすみ」
先にベッドに入って、聞き耳を立ててみる。ごそごそと物音を立てるシャルは一人でベッドに入ったようだった。
どうせ、起こすんだろうな。独立なんて前言を撤回して、一緒にトイレに同行させるんだろうな。
と思っているうちに、俺はいつの間にか寝てしまったらしい。
……気づいたら朝だった。
「あれ」
起こされなかった。
シャル、トイレには行かなかったのか?
起き上がってみると、
「あっ――!」
シャルは慌てたように手を広げてベッドを隠す。
「おはよう……何してるんだ、シャル」
それでだいたい事態が把握できた。
「ちがうの、ちがうの」
やれやれ。起こさないなら起こさないでこれだ。
シャルはベッドを必死に隠そうと毛布で覆う。
おれはそれを引っぺがした。
「あー。あー! ああああ! おとーさん、何するのっ」
「何するのっ、はこっちのセリフだ」
毛布を引っぺがすと、シャルがベッドに世界地図を描いていた。
「「……」」
バツが悪そうにシャルは俺から目をそらす。
「シャル……ベッドはおトイレじゃないぞ?」
「わかってるもんっ!」
むううう、と恥ずかしそうな困ったようなしかめっ面をしている。
「独立してもいいけど、トイレ行きたいときは、お父さん起こしてくれよ?」
「……そうする」
クエスト行く前に、まずはシーツの洗濯をしなくちゃな。
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