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2種類のステータスを持つ世界最強のおっさんが、愛娘と楽しく冒険をするそうです  作者: ケンノジ


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番外編1 ほのぼのクエスト

真面目な話が多かったので、今回は閑話的な親子の日常系エピソードです。


 エリーが個人的な用事があるらしく、今日は俺とシャルの二人、親子水入らずの時間となった。


『今日は別行動しましょ』


 と言って、エリーはどこかへ行ってしまったが、どこに行ったのか見当がついている。

 たぶん、剣の特訓だ。

 スキルの使い方や組み合わせ方、発動のタイミング、その他もろもろ。

 どうやら、そういう一面を俺とシャルには見られたくないらしい。


「おとーさん、今日は何するの?」


 手を繋ぎながら町を歩いていると、シャルが繋いでいる手をぶんぶん振った。


「シャルは何したい?」

「クエスト! ドラゴンをやっつける、クエスト!」


「……うん……そうか……」


 目を輝かせながら言われると、お父さん、ショックを隠し切れないぞ。


「カティアさんのところ行くか」

「うんっ」


 むふん、と鼻を膨らませたシャルは意気揚々と歩く。

 まあ、カティアさんに目配せすれば、だいたい察してくれるから、危険なクエストを紹介したりはしないだろう。


 冒険者ギルドへやってくると、カティアさんは俺たちを見つけて笑顔で挨拶した。


「こんにちは。ガンドさん、シャルちゃん」

「こんにちはっ!」

「シャルちゃん、今日も元気だね」


 シャルはカウンターに掴まってぴょんぴょん跳ねた。


「ドラゴンを、やっつけるクエスト、ひとつください!」

「ええっと……」


 困ったカティアさんが俺に目をやる。

 俺は無言で首を振った。


「今日はそのクエストないんだ~、ごめんね」

「むううう……」

「今日は、エリザは一緒じゃないんですね」

「ええ。用事とやらがあるらしくて。まあ、特訓してるみたいなんですが」

「あの子は、白鳥ですからね」


 ふふ、とカティアさんが笑う。

 白鳥? ……ああ、水面を優雅に泳いでるように見えるけど、水中では一生懸命足を動かしている、ってことか。


「エリーもいませんし、戦わないやつをひとつお願いします」

「わかりました」


 書類の束をひとつ取り、ぺらぺらとめくっていく。


「これなんてどうですか?」


――――――――――――――――――

Dランク 研究対象ゲイテバタフライの捕獲

成功条件:ゲイテバタフライを三匹生きたまま納品

報酬:九万リン

――――――――――――――――――


 虫捕りか。いいな。これ。

 ゲイテバタフライっていうとあいつのことだな。

 クエスト票にゲイテバタフライのイラストが描いてあったので、間違えることはないだろう。


「じゃあ、これでお願いします」

「はい。急ぐクエストでもないので、見かけたときに捕まえて持って来てください。この近辺にいることもありますが、個体数が少ない昆虫です。多少時間がかかってしまうかもしれません。生きたまま、というのが条件ですので、それだけご注意ください」

「わかりました」


 クエストを受けて、俺とシャルは冒険者ギルドをあとにする。


「おとーさん、虫をとるの?」

「捕ったことある?」

「ないっ」


 だよな。

 俺も経験はないが、虫捕り用の便利な道具があるのを知っている。


 道具屋に行って、虫捕り網と虫かごを飼う。

 ゲイテバタフライは、手の平よりも小さい。

 魔力を使う昆虫タイプの魔物ではないので、準備はこれで整った。


「おとーさん、これ、これ! かわいいっ」


 シャルが手に取っていたのは、リボン付きの麦わら帽子だった。

 すぽっとシャルに被せてみる。


「……可愛い」

「でしょーっ」


 自分の『可愛い』が認められてシャルは嬉しそうにジタバタする。


 というわけで、麦わら帽子も追加で買った。

 気に入った麦わら帽子を買ったのもあり、シャルは上機嫌だ。


「しゅ、ってやって、つかまえる!」


 虫捕り網を、しゅ、しゅしゅ、と振り回し、シミュレーションも完璧だった。


「こうきたら、こうっ!」


 しゅばっ


「それで、それで、こっちににげたら、こうするのっ」


 しゅん


「かんぺきっ」

「完璧だ……」


 うちの子、完璧完全に超可愛い。


 町の外に出て、移動係ことイバたんを呼ぶ。

 ここらへんにゲイテバタフライはいたとしても、探すのには骨が折れる。


 俺はもっといい場所を知っている。


「イバたーん? どこだー? 出てこーい!」


 空にむかって大声を出すと、黒い点が青空にぽつん、とできて、それがこっちにむかってやってきた。


「グルゥゥゥゥウウウウウ?(親分呼びましたー?)」


 バッサバッサ、と翼をはためかせながら、ゆっくりと着地する。

 構ってほしそうな犬みたいに、イバたんは俺をじっと見てそわそわしていた。


「イバたん、ちょっと行きたいところがあるから、そこまで飛んでくれ」

「グルウ!(任せてください!)」


 イバたんの背に乗り、指示しながら空を飛んでいく。


「冒険、冒険、たのしい冒険っ」

「グルウ、ルルルゥ、グルールル」


 シャルが節をつけながら歌うとイバたんも合わせて歌った。


 西に約一時間ほど飛び、目的地の山が見えてきた。

 そのカルデラのひとつに、小さな森がある。


 俺の記憶が正しければ、あまりニンゲンが立ち入らない森だ。

 あの当時はわからなかったが、今にして思えば、素材になる草木や魔物がいない、利用価値が少ない森なんだろう。


 そこに降り立ち、ゲイテバタフライを探す。


 キョロキョロ、とあたりを注意深く見回すシャルは、網を構えて臨戦態勢だった。


「おとーさん、どうしよう!? あの青いちょうちょ、いないっ!」


 ががーん、とショックを受けた顔をするシャル。


「いや、いないってわけじゃないんだ。もうちょっと探そう」


 いないわけじゃないって言ったのはいいが、俺が最後に見たのは、数十年前とかだ。

 もしかするとそれよりも前かもしれん……。


 記憶を頼りに歩き回り、よく陽の当たる開けた場所に出た。


 色とりどりの花が風に揺れている。


「色が、かわいいっ」


 これが『可愛い』なのか? お父さん、シャルの可愛いにはもうついていけん。


 その花の上をひらひら、と舞っている瑠璃色の羽をもつ蝶がいた。

 シャルに目線を合わせ、しゃがんだ。


「ほら、あれ」


 十数匹飛んでいるゲイテバタフライの一匹を指差す。


「いたぁあああああああああああああああああああああああああああ!」


 はうはう、と興奮するシャルが、「あれ、ほら、おとーさん、あれ!」と指差す。


「きれーーーーーー!」

「シャル、あれがゲイテバタフライだよ」

「とってくるううううううううううう!」


 虫捕り網を構えたシャルが、駆け出していく。

 羊の群れに猟犬を放った気分だった。


「えいっ!」


 しゅん、とシミュレーションのかいあってか、見事一匹捕まえた。


「――つ、つ、つかまえたぁああああああああああああああ! おとーさん、これ、これっ! つかまえたあああああああああああああああ!」


 大興奮のシャルが、俺に見せようと羽を掴もうとすると、ひらひら~と隙をついてゲイテバタフライが逃げ出した。


「あっ! にげちゃダメ! まって!」


 捕まえ直し、今度は慎重に俺のほうへゲイテバタフライを網に入れたまま運ぶ。

 俺が持つ虫かごにゲイテバタフライを収容した。


 またターゲットを絞り、しゅんしゅん、と虫捕り網を振り回し、次々に捕獲していくシャル。

 捕まえては俺のところへ持ってくることを繰り返す。


 やがて、虫かごはゲイテバタフライでいっぱいになった。


「いっぱいつかまえた!」

「三匹でいいんだよ。他は逃がしてあげよう?」

「せっかくつかまえたのに、どうして?」


 きゅるん、とシャルが首をかしげる。


「この子たちは、ニンゲンと違って仲間が少ないんだ。捕り過ぎると、このゲイテバタフライは絶滅して、もう二度とこの綺麗な蝶を見ることができなくなっちゃうんだ」


 うんうん、と理解してくれたらしいシャルは俺から虫かごを受け取ると、蓋を開けた。


「ばいばい!」


 蝶が外へ一斉に出ていく。

 なかなか見ない光景に、俺もシャルも目を奪われた。

 三匹を残し、蓋を閉めた。


 それからイバたんに乗り、俺たちはドストエフの町へ戻る。


「え、もう捕まえたんですか?」


 虫かごごと渡すと、カティアさんは目を白黒させた。


「どこにいたんですか? 個体数が少ないからあまり見かけないはずなのに」

「内緒です」

「む、そうですか。でも、あっさり終わってよかったです。シャルちゃん、楽しかった?」

「たのしかった、です!」


 よかったね~、とカティアさんは笑う。


 クエスト中のあれこれを、シャルはカティアさんに興奮気味に話す。

 いつの間にか、ギルド内の全員が微笑ましくその報告を聴いていた。


「おとーさんと一緒で、とっても、たのしかった! またいこうねっ」


 目を輝かせて俺に言うシャル。

 それを見ていた中年冒険者たちが、その尊さに心洗われ泣いていた。


「なんていい子……」

「なんだ、ただの天使か……」

「オレも娘ほしい……」


 シャルの麦わら帽子を被る頭を撫で「うん、また行こうな」と俺は言った。

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