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はじめてのクエスト


 不本意ながら周囲をざわつかせてしまった俺とシャルの試験はというと、文句なしの合格だった。

 親子同時に冒険者になった俺たちは、説明を受けるためレパントの町にある冒険者ギルドへとやってきた。


「お待ちしておりました。ガンド様」


 受付で頭を下げたのは、あのインテリ女試験官(巨乳)ことカティアさんだった。


「あ。さっきはどうも、お世話になりました」


「いえ。こちらこそ、あなたの力を詐欺だのペテンだのと言ってしまって申し訳ありませんでした。私は、カティア・サンドラと申します。あなたたち親子の担当者となりますので、今後ともよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 丁寧にあいさつをされて、俺は思わず頭を下げた。


 シャルも「……お、お願いします……」とおっかなびっくりの様子で挨拶をする。


 カティアさんが、すっとこっちに手を差し出した。


 これは、あれか……ニンゲンの挨拶のひとつ、握手というやつか。


 俺たちはお世話になるカティアさんと順番に握手をする。


 改めて挨拶をして椅子に座ると、シャルが俺の膝の上に座る。


「本当に仲いいですね」とカティアさんは言って、話を進める。


 要点だけをまとめると、冒険者はランクがそれぞれあり、最低はF、最高はSというふうに、ランク付けされていくそうだ。

 これはこなしたクエストの数に応じて上がっていくもので、その功績管理は冒険者ギルド全体でやってくれるらしい。


 それを可能にしているのが、冒険証。

 冒険者ギルドでこれを見せれば、俺の功績やランクがわかるようになっているそうだ。


「ぱぱ……ねむい……」


 目をしょぼつかせたシャルが、こっちを振り返った。

 ずっと小難しい説明ばっかだったからな。眠たくなるのも仕方ないか。


 それに、今日は移動や試験や色んなことがあった。

 お疲れモードなんだろう。


「お父さんが聞いてるから、寝てていいよ」

「うん……」


 こっちをむいたシャルは、俺にしがみつくようにして寝息をたてはじめた。

 天使の寝顔を微笑ましくカティアさんが眺めている。


「可愛いですね、シャルロットちゃん」

「でしょ?」


 得意げな俺。


 それから、俺とシャルは冒険証をそれぞれもらった。手の平に収まるくらいのカード型のもので、俺の名前が記してあり、左上に「F」とあった。

 シャルのも同じく。


 特殊な材質でできているらしく、クエストを達成して報告をしていけば、冒険者ギルドでランクを更新してくれるそうだ。


 夕暮れが近いことと、シャルがお疲れとあって、冒険活動は明日にすることにして、今日は宿をとることにした。



「おとーさん、起きて、起きて」


 どったんばったん、と寝ていた俺の上で天使が騒いでいる。


「んお……? どうかした?」

「これっ」


 じゃん、と見せてくれたのは冒険証だった。そっか、昨日あれからずっと眠ってたもんな。


「うん……シャルのだから、失くさないようにな……」

「うんっ」


 バハムート討伐を目指すちびっこ冒険者は、宝物のように冒険証を見つめている。


 それから、食堂になっている一階で朝食をとり、改めて冒険者ギルドへむかった。


 中へ入り、カティアさんを見つけて駆け寄ったシャル。


 背伸びしてカウンターの上にひょこっと顔を出す。


「クエスト、ひとつください!」


 カティアさんはくすくす、と笑って「ちょっと待っててね」と書類をいくつか漁る。


「買い物じゃないんだから」

「あ。ふたつください! おとーさんのも!」

「はい。承りました」


 元気いっぱいのシャルを見て、周囲にいる無精ひげのおっちゃん冒険者がほわわわん、と癒されていた。


「荒んだこの冒険者ギルドに……こんな可愛いお嬢ちゃんが……」

「天界からやってきた天使か……?」


「これでも、一応冒険者なんですよ?」


 俺が教えると、へぇぇ、と目を丸くして驚くおっちゃん冒険者たち。


 ただ、噂では史上最年少というわけではないらしい。


「これはどうでしょう?」


 カティアさんがクエスト票を見せてくれた


――――――――――――――――――

Fランク 薬草採取

成功条件:傷薬「ポーション」の素材となる薬草「アロエソウ」一〇個を納品

報酬:一〇〇〇リン

――――――――――――――――――


 おお、すごくお手軽なやつだ。


「アロエソウは薬品になることの多い素材なので、多いに越したことはないんです」


 なるほど。それで初心者用クエストになっているわけか。


「簡単にできそうでいいですね。じゃあ、これで」


 二人とも同じクエストを受けることにした。


「おとーさん、おとーさん」

「どうした、シャル」


 ちっちゃい拳を握りしめて、うんっとうなずいた。


「がんばろうね!」

「そうだね」


 冒険者としての初クエストに、シャルは興奮を隠しきれないらしい。


「悪い魔物が出たら、やっつける!」

「そういうのが出ると危ないから、出ないところで薬草は摘もうか」

「むう」


 ちょっと不満げだが、わざわざ危ないことをさせる必要もないだろう。


 冒険者ギルドをあとにして、俺とシャルは手を繋いで町を出る。


「薬草は、どこにいったらあるの?」

「アロエソウは、どこでも見かけるそう珍しい植物じゃないよ。葉っぱの先が尖ってて、イガイガしているのがそうだ」


 実際、家の近くでもたまに見かけた。


「おとーさん、すごーい! ものしり!」


 シャルが尊敬の眼差しでじっと俺を見つめて来る。


 またひとつ、俺はシャルの尊敬ポイントを貯めてしまったらしい。


 アロエソウを摘むときは、ちょっとだけ注意することもあるけど、ここらへんの地域なら大丈夫だろう。


 小川を見つけ、てててて、とシャルが川べりまで小走りでむかう。


「慌てると転ぶぞー」

「だいじょうぶー」


 っと、言わんこっちゃねえ。


 べしゃっ。


 何かにつまずいて、がっつりシャルがこけた。

 草のツルが足に絡まったらしい。


「シャル、大丈夫か?」

「だいじょうぶ……」


 泣きそうなのをどうにか堪えて、シャルは立ち上がった。

 ようし、偉いぞ、我が娘。


 俺も駆け寄って、よしよしと頭を撫でた。


「ギヨオオオオオオ!」


 鳴き声と同時に、ツルがシャルにむかって飛んでいく。


 俺は手刀でスパンと切った。


 ………………オイ。


 誰の許可得てうちの子に攻撃してんだ。


 ツルの先を見ると、ちょっとした心配ごとのひとつ、人食植物バックンがいた。


――――――――――

種族:魔生植物 バックン(土)

Lv:5

スキル:噛み切り

――――――――――


 顔と思しき場所には口だけがあり、鋭い牙をのぞかせぬめっとしている涎を垂らしている。


「ギヨオオオオオオ!」


 ったく。どこから出てきやがった。


「お、お、お、お。おとーさ……ぱぱー。へ、変なのでたああああ!」


 ぎゅっと俺にしがみついてくるシャル。


「ああ、これな。アロエソウを摘みにきたニンゲンを狙う、ニンゲンをエサにしてる悪い植物だ。小賢しいよなー?」


 正々堂々、正面から食いにこいよなー? 魔物なら。ビビって策を弄してんじゃねえよ。


「ひ、人を食べちゃうのーっ!?」


「うん。結構食うぞ。大人なら一人三〇秒くらいで全部食う」


「…………」


 シャルがドン引きしていた。

 初クエストでこれは、ちょぉぉぉっと刺激が強かったかな?


「おとおと、おと、ぱぱ、食べられちゃうよ……!」

「ギヨオオオオオオオオオオオオ!」


 びゅんびゅん、とツルが飛んでくる。

 俺はそれを、ハエを払うようにペシペシと防いでいく。


 ずりずり、とこっちに接近してくる人食植物。体長は、大人の男より少し大きいくらい。

 シャルからすれば、巨大な魔物に見えただろう。


 人間でいう首にあたる茎をのばして、一気に顔を近づけてきた。


「ブアアアアア!」

「ひゃぁっ」


 シャルが、恐怖で目をぎゅっとつむった。


「――――うちの娘怖がらせてんじゃねぇえええええええええええ!」


 久しぶりに我を忘れてキレてしまった。


 その瞬間。


 キィィィイイイン。


 俺の体が銀色に光る。


 気づくと、目線がずいぶん高くなっていた。


「……ガオ?(……あれ?)」


 ケツと背中に、尻尾と翼の懐かしい感触がする……。

 ニンゲンの腕はいつの間にか白銀のウロコに覆われてかなり太くなっていた。


 翼……尻尾……爪……。懐かしい俺の体だ。


「ギャォォォオウ!?(変身解けてるぅううう!?)」


 そ、そうだ。

 長い間平和に暮らしていたから忘れてた……。


 変身は、他のスキルと違ってデリケートなんだった。

 一瞬だったけど、我を忘れるくらい怒ったから、それで……。


 シャルは目をつむったまま、耳を塞いでしゃがみこんでいた。

 可哀想に、ぷるぷる震えて……。


 よ、よし。今のうちに変身を――。


「ギヨオオオオオオオオ!?」


 俺の姿を見たバックンが、だらだらと汗を流し、くるーんと回れ右をして去っていく。


 オイコラ。うちの娘を怖がらせてただで済むと思ってんのか。


 逃げながらも、俺に対してツルを振って攻撃してくるバックン。


 フン。他愛ない!!


 スキルを使うまでもないわ。

 俺は左手で、ペシャンッ! とバックンを叩き潰した。


「お、おとーさん……?」


 まだ目をつむって耳を塞いでいるシャル。


 早くニンゲンの姿に変わらないと。

 焦って俺は変身スキルを使う。


 キィィィイイイン。


 体が光り、シャルのよく知るお父さんになった。


「もう大丈夫だぞ?」

「本当に? いない? あの怖いの、もういない?」


 なんか、あの人食植物がちょっとしたトラウマになってんな。

 薄目を開けたシャルが、俺にくっついて離れない。


「本当、本当。お父さんが倒したからな!」


 恐る恐る顔をのぞかせ、バックンが消えて無くなっていることを確認した。


「お。おとーさん、やっつけちゃったのー!? あの気持ち悪いの」

「うん。余裕だったけどな」


 ぱぁぁぁぁぁ、と表情を明るくしたシャルが、俺に尊敬の眼差しをむけてくる。


「よゆーだったの!? ぱぱ、カッコイイ!」


「だろ? あとそれと、お父さんな」

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