中級職とパーティランク7
バハムート無双回です。
にしても、エリーはどこ行ったんだ?
まったく世話の焼けるやつだ。
一回来たことがあるくせに。
「シャル、もうビビらなくてもいい、ぞ……?」
あれ?
「おーい、シャル? どこだー?」
シャルもだ。
どこを探してもいない。
俺が戦っている間に、エリーならいざ知らず、俺の娘もいなくなって――。
「……ただの迷子ならいいが」
エリーの魔力を探そうとしても反応がない。
シャルの魔力もだ。
足下にさっきのアラクネの糸が落ちていた。
手に取ってみると、魔力を遮断する材質でできているらしかった。
当たり前に考えて、捕まえた敵を拘束するんだから、魔法を使われちゃ困る。
拘束されれば剣は振るえないだろうし、魔法も使えない状況になる。
てことは、他にもあの蜘蛛女がいた可能性が高い。
変身を解いて、俺は元のバハムートの体に戻った。
洞窟内は狭かったけど、構わなかった。
元の体は、変身状態より感覚が鋭い。
「……」
探す行為すら必要ない。
あの蜘蛛女の魔力をすぐに見つけた。
かなり下。
この『導きの地下』は階層くらいにして八階層ほどあった。
その最下層。
一体が合流し、全部で十二体になった。
下でうろちょろしているのがわかる。
……巣があるな?
ニンゲンらしき魔力は、この洞窟の中には感じられなかった。
固有スキルを発動させる。
すう、と息を吸って吐き出した。
【原初竜炎】
黒光りする炎が床を突き破る。
激しい衝撃音が洞窟内に響く。
岩が落ちてくるが今の俺には関係なかった。
一、二、三、四、五、六、七――。
床を全部ブチ抜いた。
最下層……思った通り、アラクネの巣があった。
「キィイッ!」
気づいた一体が、こっちを見上げて指差した。
ニンゲンの姿じゃないと、ニンゲンの言葉は離せないらしい。
最下層のフロア一帯か? 巣はかなりでかい。
真っ白な繭が一、二……かなりある。
シャルやエリーの他にも、ニンゲンを捕まえているらしい。
ブレスで塵にしてやってもよかったが、他の人を巻き込んでしまう。
バサッと翼をすこし動かし、ゆっくり下りていった。
最下層は、アラクネの巣が張り巡らされており、真っ白な糸でいっぱいだった。
「キキイイ……!(ドラゴン……!)」
「キュィィ!(ワタシたちの巣を荒らす敵!)」
「ギィイイキイイ!(何としても守るぞ!)」
――――――――――
種族:怪蜘蛛族 エリート・アラクネ(闇)
Lv:45
スキル:ドレイン・変身・粘糸・毒牙・夜目
――――――――――
全員さっきのやつより、体がでかい。
ここを守ってる衛兵ってところか。
うぞうぞ、と巣の上を器用に動き回るエリート・アラクネ。
俺をかく乱するように、糸から糸へ飛び移り、【粘糸】を吐き出す。
俺の背後に回ったエリート・アラクネ。
「ギィィイイ、ギュィィ――(ドラゴンと言えど、巣の上ではワタシたちのほうが強――)」
【銀閃尾】
ビシャンッ!
俺の尻尾が直撃した一体が、壁にぶつかってすり潰れた。
俺が知る限り世界最速の攻撃だ。
痛みを感じる暇もなかっただろう。
「ギャァァァオオオウウウン!」
「――――――――っっっ!?」
バハムートに吠えられるのははじめてか?
さっきまでエリート・アラクネから感じていた闘気が、完全に死んだ。
「き、キィィィ……!?」
背をむけて逃げるエリート・アラクネ。
【アイアンクロウ】
爪で背中から切り裂く。俺の手が大きいせいで、ミンチになった。
さらに逃げ出そうとする数体を【銀閃尾】で叩き潰していく。
ウチの娘に手ぇ出して……ただで逃げられると思うなよ。
「キッキィィィイ!(化け物めェェェ!)」
牙を突き立てようとしたらしいが、かん、と情けない音を上げて、ウロコに弾かれた。
唖然としているエリート・アラクネの表情が、俺と目が合うと恐怖で染まった。
「き……き……」
ぶん、と手を振り抜く。
吹っ飛んだエリート・アラクネがビシャン、と壁に叩きつけられ、体液をまき散らしぺしゃんこになった。
「き、キィィイイイ……ッ」
上へ糸を吐いて別の一体が最上層を目指す。
翼を動かすと烈風が巻き起こり、エリート・アラクネは、風に舞う木の葉みたいにフラフラとした。
「キィィ……(女王陛下……)」
そこをばくん、と口で捕まえ、牙で噛み砕く。ベッ、と死体を吐き出した。
こいつが最後だった。
他に動いているやつは俺以外にいなかった。
久しぶりにキレちまった。
さて、ヨル・ガンドに戻ってシャルとエリーを助けてやらないと。
繭は繭でも、新しいやつと古いやつの区別がつくようになった。
「ヨルさん!」
白い糸まみれのエリーが手を振っていた。
「エリー。よかった。やっぱここだったのか」
「シャルは?」
「たぶん、シャルもここにいると思うんだが……」
新しそうな繭のひとつの中を確認すると、ビンゴ。マイエンジェル、シャルちゃんがいた。
外傷はないようで、今はぐっすりと眠っている。
「無事……っぽいな」
はぁぁぁぁぁ……。よかった。




