中級職とパーティランク5
沈んでいくシースネークから、俺とエリーはイバたんに乗り移り、改めて移動を再開する。
「ヨルさん、また新しいスキルを覚えたの?」
「ああ。エリーの『三連牙』に近いスキルだから、俺たちが連続して攻撃すれば、相手を十くらい無防備にさせることができる」
「なるほど。そこをシャルが高い火力で敵を倒す、と」
「そういうことだ」
さすがに、俺もあんなに見事にハマるとは思わなかった。
たぶん、俺たち三人の連携が上手かったんだろう。
「よくそんなハメ技思いついたわね」
「ハメ技って……まあ、間違いじゃないか」
新しいスキルを覚えていなかったら、いつも通り俺が囮役をしていたんだと思う。
しばらく飛んでいると、目的地の島が見えた、
白い砂浜がすこしあり、あとは濃い緑で覆われたジャングルとなっている。
あのジャングルの中に地下への入口があるそうだ。
イバたんに降下してもらうと、砂浜に何グループかのパーティが見えた。
「ぬわあああああああ!? わ、ワイバーンが来たぞおおおおおおおお!」
「何でこんなところに!」
「魔法を! 水際で食い止めるぞ!」
キュウウウウウ! キュウウウウウウ!
ワイバーンを見たグリフォンたちが、大騒ぎをして逃げ出そうとする。
それを食い止めようと、手綱を引っ張る男たちが、大混乱のグリフォンに振り回されていた。
「撃てぇ!」
何本もの矢が飛んできた。
「グルウウ!(親分助けてっ!)」
「ったく――」
落ち着けよ。人が乗ってるっていうのに。
飛んできた矢は、弓矢に変形させた竜牙刃で撃ち落とす。
「あれ――!? 矢が効かない!?」
魔法も飛んできた。
それは、シャルが撃ち落としてくれた。
「イバたんに、魔法うたないでーっ」
力の限り叫ぶと、エリーが大きく手を振った。
「攻撃しないで! この子は安全だから!」
砂浜がザワついた。
「おい、あれ、人が乗ってるぞ!」
「ワイバーンに人が……?」
「竜種が背中に人間を乗せるはずが……って、マジやんけ!」
バサバサ、とイバたんが着地し、俺たちも島に降り立った。
十数人の冒険者たちが、俺たちを警戒しまくってる。
いきなりワイバーンで島に乗り付けたのは、インパクト大だったらしい。
このパーティたちが乗ってきたらしいグリフォン三頭は、イバたんにビビって茂みからこっちをこっそりのぞいている。
何あれ。可愛い。
「エリー、あれがグリちゃん?」
「そうよ。大人しくて人懐っこいから、モフモフさせてくれるかも」
「グリちゃん、モフモフさせてぇー」
大喜びのシャルだった。
「グルウー!(お嬢ー!)」
イバたんはどこか悲しそうだった。
「あ、あんたら何モンだ……!?」
「何モンって……中級職に職業を変えるためにやってきたDランク冒険者ですけど」
「「「「嘘つけー!」」」」
総ツッコミを浴びた。
わかるわかる、と言いたげに、冒険者たちのリアクションに共感しているエリー。
「だとしたら、今初級職だろ? ワイバーンを? 乗りこなす、だと……?」
「ありえねえ……」
「特殊なテイミングスキルでも持ってるのか?」
何それ、と俺がこっそりエリーに訊く。
「テイミングスキルっていうのは、魔物に乗りこなす【魔物使い】が覚えるスキルよ」
「へえ。――いや、そういうのはないですよ。一発殴ったら従うようになったんで」
「【魔物使い】だとしても、竜種はプライドが高いから従わないと有名なんだが……」
俺、バハムートだからな。
ワイバーン程度が従うのは当然だろう。
あ、だからイバたんは、俺のことを親分って呼んでるのか。
「皆さんは、ここで何をしてるんですか? ジョブチェンジが終わった帰りですか?」
「君たちと一緒で、中級職にするために来たんだが……今回はやめることにしたんだ」
「え? どうして?」
エリーが訊くと、冒険者の男がジャングルのほうを指差した。
「『導きの地下』が初級ダンジョンと同じもんだと思ってて……中に入ってみたら、ちょっと現状のままじゃ手に負えなさそうでな」
「ああ……きちんと準備しておかないと野垂れ死ぬから」
「職業を変えることは大事だが、仲間を失いたくはない。もうすこし仲間を増やすなり強くなるなりして、出直すことにしたんだ」
「そう。それが賢明ね」
「あんたたちは……まあ、大丈夫そうだな」
男は笑って仲間とともにグリフォンに乗って去っていった。
「おとーさん、わたし、グリちゃんがほしい!」
「どうした、急に」
「グリちゃんのほうが、イバたんより可愛い」
ガーン、とイバたんがショックを受けていた。
「ルウ……(お嬢……)」
「ていってもな……シャル、イバたんはどうするんだ?」
「グリちゃんのほうがいい」
飽きっぽい我が娘だった。
「グルー!?(お嬢ー!?)」
「グリちゃんは、モフモフでかわいい。イバたんは、背中硬いし、可愛くない」
ガガガーン、とイバたんがまたショックを受けていた。
もうやめてあげて。
「ルウ、グルウウ! ウウ!(あんな奴より、オレのほうが強いんですぜ、お嬢!)」
イバたん、自分のことオレって言うんだ。
ともかく、イバたんは俺に従う頼もしい部下だ。
部下でいいのか?
産卵(事件?)が本当に父親が俺だとしたら、部下を孕ませたことになるのか。
まあ、ともかく、中級ダンジョンは厳しいって話だから、イバたんがいてくれたほうが助かる。
よしよし、とイバたんの頭を撫でる。
「頼りにしてるぞ、イバたん。空が飛べるのはおまえだけだからな」
「グル……! グルウウ!(親分……! 一生ついて行きます!)」
ジャングルを歩いていくと、何人もの冒険者たちがここを通ったのがわかる。
地面は踏み固められていて、特定のルートだけ歩きやすくなっていた。
視界を遮るような邪魔な草木もない。親切な誰かがあとの人のために切ってくれているんだろう。
洞窟の前でエリーが立ち止まった。
「ここよ。『導きの地下』。さっきの人も言っていたけど、初級ダンジョンとはワケが違うわよ」
「ま、大丈夫だろう」
「だいじょーぶ!」
「最深部の泉に到達できない程度なら、中級職になる資格なしってことで、引き返す人も多いわ。油断しないようにしましょう」
念のため食料と水を確認する。
十分な量がある。イバたんには、そこらへんの魔物を餌にしてもらおう。




