中級職とパーティランク4
イバたんのまさかの産卵を終えて、俺たちはしばらく休憩をした。
女同士で何か共鳴するものがあったのか、エリーもシャルもイバたんのために、あれこれ世話を焼いていた。
藁を持ってきたり、食べられそうな餌を持ってきたり、そりゃもうイバたんからすれば至れり尽くせりな状態だった。
「イバたん、お水、のんで」
「グウ、グウ(お嬢、申し訳ないです)」
「いいこ、いいこ……がんばったね」
イバたんの頭を撫でてシャルは、むふん、と息を荒くした。
「イバたんの卵は、わたしが守るっ」
「うん、それがいい」
無精卵の可能性大だが。
本当に俺が父親になるのなら、その卵からシャルの弟か妹が生まれる。
ワイバーンに限ったことじゃないが、竜種はニンゲンと違って、ヒナを一から十まで親が世話をするという習慣はない。
食べる物に困れば、親が自ら卵を食べることだって珍しくない。
竜種は、生まれる前からサバイバルがはじまっていると言っても過言じゃないのだ。
イバたんも例に漏れず、生んだ卵に関心は薄そうだった。
「これなんてどうかしら?」
どこに行っていたのか、エリーが戻ってくると、手には小さな木箱を持っていた。
「どうって、何が」
「卵を入れておくの。そのままじゃ割れてしまうかもでしょ?」
「ちょうどいい!」
「でしょー?」
女子二人は、木箱に藁を敷き詰めそこに卵を収めた。
こういうときの女の行動力というか、連帯感というのが俺にはいまいちピンと来なかった。
大事にしたところで何も起きない、と今口にすればヒンシュクを買ってしまいそうなので、俺は黙っておくことにした。
もしかすると、無精卵じゃないかもしれないし、俺の種じゃない可能性だってある。
「わたしがもっておく!」
「じゃあ、交代で持っておきましょう」
木箱を大事そうにシャルが抱きかかえる。
いい機会だ。
生き物の命の大事さを学んでもらおう。
無精卵っぽかったら、それっぽい卵を見つけてすり替えておこう。
出発前に調達した食料を三人と一体で食べながら休憩をする。
その間、みんなのステータスを確認しておこう。
まずはエリー。
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種族:人間 エリザベート・ルブラン(火)
職業:ソードマスター
Lv:37
スキル:筋力アップ・ファストエッジ・回避の心得・三連牙・ジゲンリュウカイデン
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これといって新しいスキルを覚えるわけでもなく、安定の前衛攻撃職って感じだ。
さて、うちの子はどうだろう。
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種族:人間 シャルロット・ガンド(闇)
職業:アルケミスト。
Lv:39
スキル:イッシンジョーのツゴー・下級格闘術・ダークフレイム・シャドウスラッシュ・スモッグ・ブラッディサークル
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……エリーより強くなってる。
レベルのことは、二人には黙っておこう。
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種族:人間 ヨル・ガンド(状態:変身中)(光)
職業:重装兵
Lv:42
スキル:劣化版ブレス・大盾の心得・フィジカルアップ・スタンドアローン・挑発
囮の名手・大盾の怒り
・シールドラッシュ(盾を使った攻撃スキル。3連続攻撃成功で相手を3秒スタンさせる)
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スキルをひとつ覚えていた。
ふんふん……。
エリーの『三連牙』と似たようなスキルだ。
これは使えるぞ。
「おとーさん、どうしたの? ニヤニヤしてる」
「してないよ」
イバたんが体調を取り戻した。
「グウ、ルウ!(親分、行きましょう!)」
もっと休むものかと思ったけど、もう大丈夫みたいだ。
また俺たちはイバたんに乗って、ペールヴォル島を目指し東へ移動する。
乗客に配慮したのんびり飛行で、俺たちは空の旅を楽しむ。
「海! うーみー!」
はじめて見る海にシャルは大はしゃぎだった。
「シースネークだっけ。イバたんで空飛んでたら戦わなくていいんだよな?」
たしか、そんなやつがペールヴォル島の近海にいるから、天敵のグリフォンで飛んでいくって話だった。
「どうかしら……。あくまでもグリフォンを苦手にしているっていう話だから、空を飛んでたら襲ってこないかどうかは、わからないわ」
グリフォンよりイバたんのほうが強いんだが、あちらさんが苦手意識を持っていないなら、襲ってくる可能性はある。
戦うのを前提とするなら、船で行ってもよかったわけだ。
けど、船で水中のやつと戦うってのは、ちょっと不利だ。
それに、シャルにはまだ水泳を教えてない。
今もそうだけど、襲われて万が一でも落っこちたら……。
「エリー、泳ぎは得意か?」
「………………で、できるわよ、それくらい」
何だ、今の間。怪しい……。
「グー、ルウ!(親分、何か来ます!)」
気配は俺も今感じた。
下――。海の中だ。
ザバン、と魔物が海から頭を突き出して、こっちに伸びてくる。
「ガロオオオオン!」
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種族:怪魚類 シースネーク(水)
Lv:55
スキル:ウォーターショット・噛みつく・泳力
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黄色と黒のまだら模様で、細長い体をしていた。でも、サイズはかなりでかい。
「ええっと……名前はシースネークだけど、一応魚らしいわ!」
「メモ見ながらの解説は今要らねえんだよ」
「あうあう……おとーさん、ヘビさんの顔、こわい……」
シースネークの顔面は、なんというか、年季の入ったマフィアみたいでかなり怖かった。
俺たちを確認しただけのようで、一旦また海中に戻った。
な、納得いかねえ。
グリフォンより絶対あいつのほうが強いのに。
苦手って……昔何かされたことがトラウマになってんのか。
種族でいうと、魔鳥と魚の関係だから前者のほうが強いんだろうけど。
「イバたん、高度を上げてくれ。このままじゃ攻撃される」
「グルウ、グウ、ルー(申し訳ないですぅ。これ以上は、重くて……)」
速度も今のこれが限界らしい。
「ヨルさん、あいつが出てくるわ!」
「やるしかねえな!」
「ヘビさん、顔がこわい……」
シースネークが海上から顔を出すと、口を開けた。
魔力を使っているのがわかる。
口の前で水滴が集まり、魔力で巨大な水球になった。
「ガロオン!」
シースネークが吠えると、巨大な水球は何本もの水の光線になってこっちに飛んできた。
「イバたん、回避!」
「グルーッ」
バサバサバサ、と一生懸命翼を動かして、水の光線を回避する。
たぶん、あれ、ウォーターショットなんだよな……。
種族が違えば、スキルの威力も形態も変わるらしい。
シースネークは、最初のときのように上へ体を伸ばし、大口を開けて噛みつこうとしてきた。
それをまたしてもイバたんが回避する。
こういうとき、前衛職だと何にもできねえな。
竜牙刃を弓矢に変えられるけど、矢を数発撃ったところでどうにかなる相手でもなさそうだ。
「顔がこわいヘビさんは、めっ」
イバたんの背中に、魔法陣が展開される。
「『シャドウスラッシュ』!」
シャルが攻撃魔法を放つ。闇色の刃がシースネークにむかって飛んだ。
杖を改造した効果が出ている。
放った魔法に使った魔力とその密度が全然違う。
シースネークは、頭を海中に突っ込んでシャルの攻撃から身を守る。
「うむむむ……」
次、あいつが顔を出したときが勝負だ。
「エリー、あれをやるぞ」
「あれって何?」
「合わせろよ」
「だから何を!?」
俺たちを食うつもりのシースネークは、海上にまた顔を出し、ウォータショットを放とうと口の前で海水を集めていく。
「今だ。行くぞ」
「だから何が!?」
エリーを引っ張って、イバたんの背中から飛び降りる。
「いやぁあああああああああああああああ!? なんでぇえええええええええ!?」
絶叫するエリーに構わず、俺は竜牙刃を抜いて、体を覆えるくらいの大盾を構えた。
「ガロオン!」
水の光線が俺へ真っ直ぐむかってくる。それを大盾で防いだ。
シャルが『イッシンジョーのツゴー』を放ち、援護してくれる。
食らえ、蛇野郎。
「『シールドラッシュ』」
攻撃を俺にすべて防がれたシースネークは無防備だった。
大盾を打撃武器のように何度も突き出し、シースネークを殴る。
ドガ! ――ガガガガ、ガン。
「ガォオン!?」
全攻撃を当てた。数秒のスタン状態に入る。
「エリー!」
「っ、そういうこと! ――『三連牙』ッ!」
俺の背後にいたエリーが、剣を抜きシースネークに刺突スキルを使う。
ザンッ、ザ、ザンッ!
「――ッ!?」
声にならない悲鳴をあげたシースネークがダウンする。
硬いウロコで覆われていた背中じゃなく、腹を見せて裏返った。
あとは――!
振り返った瞬間、上空にいたイバたんから、高い魔力反応がした。
「今度はあてるんだからっ! 『シャドウスラッシュ』、ダブル!」
シャルがさっきよりも威力を上げた攻撃を放つ。
二本の刃が、何度も交差しながらシースネークに飛んでいく。
シースネークはなす術なく、闇の刃に切り刻まれた。
「ガォォォォォォォウウウウン……」
断末魔の声を上げて、シースネークがぶくぶくと沈んでいく。
三人のスキルコンボは、俺が考えた通り成功した。




