中級職とパーティランク2
やってきたのは、ドストエフの街から東にだいたい三時間くらいの名もない高原。
ボロの小屋に餌を売っている老人がいたので、いくつか餌を買った。
手の平サイズの肉団子。たぶん、魔物とか他の動物の肉だろう。
「これをグリちゃんに、なげればいいのー?」
「ああ、そうだとも」
シャルの疑問に老人が答えてくれた。
「ただ、買ってもらってから言うのもアレなんだけどよぅ……」
「はい? どうかしました?」
老人は頭をボリボリとかく。
「いやぁ、ちょっと前までは飛んできては、そこいらの魔物を食ってたんだけども、最近、そのグリフォンを狙う魔物がいてねえ……そいつを警戒して、グリフォンが姿を見せねえんだ」
「それは困ったわね……けど、グリフォンを狙うって……結構な魔物じゃ……?」
子供だとしてもグリフォンの図体は結構大きい。
人懐っこい性格をしているが、敵意を持てば、初心者の冒険者が束になっても相手にならない。
ゴァァァァァァオオオオオ!
この鳴き声……?
聞き覚えがあるぞ。
「あいつだよ……」
老人が店から顔を出して空を指差した。
そこには、翼竜の一種、ワイバーンがいた。
バッサバッサ、と翼をはためかせて、地上を見ながら旋回している。
「あいつのせいで、グリフォンどころか冒険者も来やしない。あんた方が二週間ぶりの客なんだよ」
「ゴァァァァオオオ!」
竜種のワイバーンがグリフォンを狙っているんなら、そりゃグリフォンはここに来ないし、それ目当ての冒険者も来ない。中級職になろうっていう冒険者が、ワイバーンに勝てるかどうかも怪しい。
人間として生活してから数年、同族を見かけたのはあいつがはじめてだ。
「グリフォンじゃなくて、あいつを捕まえよう」
「そんな簡単に言わないで……ワイバーンを何だと思ってるのよ。捕まえるのは、倒すより難しいのよ? グリフォンは人懐っこい性格だから、色々と言うことを聞かせやすいのであって……」
ああだこうだ、と言うエリーを無視して、俺は小屋を出てワイバーンに手を振った。
「おおーい!」
バッサバッサ、と旋回をやめたワイバーンがこっちへ急降下してくる。
人間サイズからすると、ワイバーンってやっぱりでかいな。
――――――――――
種族:翼竜 ワイバーン(風)
Lv:36
スキル:噛みつき・対地優勢
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スキルはふたつっきりか。
まだまだだなー。
「ゴォォォアアア!」
前後の足には鋭い爪。翼竜の一種だけあって胴はそれほど太くない。大きな翼をはためかせて浮遊していると、強風が起きる。
「よお! ちょっとお願い聞いてほしいんだけど、いいか?」
「ゴォォア!」
大口を開けて噛みつこうとするワイバーン。
「人の話は最後まで聞きましょう!」
竜牙刃を鞘ごと抜いてフルスイング。
めきょっ、とワイバーンの顔面に鞘がめり込んだ。
「ゴアア!?」
鞘を振り抜くと、錐もみしながら飛んでいった。
「あ、『人の話』じゃわかんねえのか……」
ぶっ飛んだワイバーンが、俺のほうを見ると、怯えたような顔をするのがわかった。
む。いかん。あれじゃ俺の言うことを聞いてくれない。
買ったばかりの肉団子をぽい、と投げる。
「……ゴル?」
においを嗅いで、ぱくんと食べた。
「おお、やった! 食べた!」
バサバサ、と動かしていた翼を畳んで、ワイバーンが地に伏せる。
首を差し出すように伸ばして、喉のあたりもきちんと地面につけた。
あれは……竜種特有の……。
「おとーさん、ずるいっ! わたしも、わたしもやるぅーっ!」
ててて、とやってきたシャルに、肉団子をひとつわたす。
「えいっ」
ワイバーンにむかって投げると、上手に口でキャッチした。
「すごぉーい! 口で! おとーさん! 口でとっちゃった!」
大興奮のシャルだった。
「ゴルウ……」
心なしか、さっきまで鋭かった眼光が柔らかくなっている。
やっぱり。
さっきのは心から服従する、っていう仕草だ。
「ゴルウ!(親分!)』
何言っているか聞こえた!!
たぶん、魔力が自分に近いと気づいたんだろう。
俺の中身が何なのかわかったらしい。
近づいていき、頭を撫でる。
「グルル……」
「お願いを聞いてほしいんだ。島に行きたい。おまえの背中を貸してくれ」
「グルっ(了解ですっ)」
おぉ……俺の言っていることを理解できるとは。
さすが竜種。
そこらへんの種族とは頭の出来が違う。
「わたしも、わたしもっ、イバたんの頭、なでたいっ」
ワイバーンは、シャルによって『イバたん』と命名された。
ワイバーンの『イバ』を取ったものだと予想。
「いいこ、いいこ……」
「グルル……」
「ね、ねえ!? なんで!? どうやって手懐けたの!?」
エリーが恐る恐る近づいてきた。
「心を通わせれば、種族なんて関係ないんだよ」
「何カッコつけてんのよ」
「グルゥ……(親分……)」
イバたんは俺の体に頭をグリグリと押しつけてくる。
頭の上にあるトサカの具合からして、イバたんはメスだ。
「ずいぶん懐いたわね。竜種が人間に懐くなんて、私はじめて見た……」
感心しながら、エリーはイバたんの翼やウロコを触っていた。
懐かれるのはいいけど、この「グリグリ」は、ワイバーンの求愛行動なんだよなぁ……。




