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2種類のステータスを持つ世界最強のおっさんが、愛娘と楽しく冒険をするそうです  作者: ケンノジ


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中級職とパーティランク1

今回からまた新しいエピソードに入ります!


 ひぐひぐ、とシャルが鼻をひくつかせながら、目にいっぱいの涙を溜めていた。


「いやああっ、やああああ」


 ぶんぶん、と首を振って、ぽい、と改造した杖を武器屋のオッサン、ゴルドーに突き返した。


「たしかに、これはちょっと、ビミョーね……」


 曇り顔のエリーもシャルに同情したらしく、シャルの頭を撫でていた。

 喉をしゃくらせて泣き出したシャルを見て、オッサンも弱っていた。


「ヨル、これ……ダメなのか?」

「ウチのラブリーエンジェルはお気に召さないらしいぞ」

「つってもなぁ……」


 シャルの武器である杖を改造するため、俺たちはマンドラゴの魔根を採取してオッサンに預けていたんだが……。


 可愛くしてほしい、というシャルの一番の要望が叶えられることはなかった。


「可愛いってそんなに重要か?」


 ずーーーーっと思っていた俺の素朴な疑問だった。


「シャルのこの嫌がりよう、見てわかるでしょ」


 あああああんっ、わああああああんっ、と珍しくグズりまくりだった。

 なんなら、性能よりもデザインのほうがシャルにとっては重要だったらしい。


「シャル、お父さんはいいと思うぞ、これ」

「ヨル、おまえ、話がわかるじゃねえか」


 別にオッサンの肩を持とうってわけじゃねえんだよ。

 こうなっちまった以上、そう言うしかないだろうが。


「オジサン同士のセンスと、ちっちゃい女の子のセンスが一緒なわけないでしょうが」


 まったく、とエリーが呆れていた。


 ていっても、もう魔石を使ってキッチリ改造してもらったあとだ。

 もう一度変えるのはちょっと難しい。

 シャルが気に入るデザインになるとも限らないし。


 だから、『案外可愛く見えるよ作戦』を取ることにした。


「逆に、お父さんは可愛いと思うなあ」


 目元を真っ赤にしたシャルが、俺が手に持った杖をじいっと見た。

 まだ目をウルウルさせて、俺と杖を見比べている。


「逆に新しいっていうか? そこが可愛い、みたいな?」


 俺が目配せすると、エリーも俺の作戦を察してくれた。


「そ、そうねっ! もしかすると……シャルが『可愛い』を作る側になっちゃうじゃないかしら。この杖の新しさに、みんな気づくはずよ」


 おお、ナイスエリー!


「エリー……さっき、ビミョーって言ってたよ……?」


 ……さすが我が娘。きちんと矛盾点を衝いてきやがった。


「え、ええっとぉ、わ、私が持つと微妙になるかなーって。けど、シャルは別だから、別。うんうん」

「シャルが持てば、どんなアイテムでも可愛くなるよ」

「……ほんと?」


 ほんとほんと、と俺とエリー、それに合わせてオッサンも全力で首を縦に振った。


「じゃ……これでいい……」


 まだ納得いってなさそうな顔だけど、どうにか了承してくれた。

 俺とエリーが小さく安堵の息をついて、オッサンがぶはあ、と大きく息を吐いた。


「こ、今度からはデザインが上がったら一旦見てもらうことにする」

「オッサン、悪いな」

「いや、いいさ。色々と勉強させてもらうよ」


 と、オッサンは苦笑いをしていた。



 武器屋を出て、今度は冒険者ギルドへとむかう。

 シャルの武器を改造している間、俺たちはこのドストエフの街で色々とクエストを消化していた。

 そしてそして。

 ついに、ランクが上がり、EランクからDランクに昇格を果たしたのだ。


「こんにちは。三人ともお揃いですね」


 ギルドにやってくると、受付嬢のカティアさんが笑顔で迎えてくれた。


「今回はどうされますか? 何かお受けされますか?」

「そうですねえ……」


 ランクが上がるのは、いいことばかりじゃない。

 受けられるクエストの上限ランクが上がり、リスクの高いクエストも受けられるようになった。そういうのばかりをシャルがやりたがるから、心配なんだよな。


「そういえばどうするの? Dランクなら、行けるはずじゃなかったかしら」

「ああ、それもそうね」


 エリーとカティアさんが二人で何か話している。


「何? 何の話?」

「中級職へのジョブチェンジ。Dランクならできるはずだから」

「待ってくださいね、ちょっと功績を調べますから」


 と言って、カティアさんは書類を漁り、俺たち個人の詳細なデータを引っ張り出した。


「うん……うん、ガンドさんもシャルちゃんも、中級職へのジョブチェンジが可能な功績に達しています」


 俺とシャルは顔を見合わせる。

 そういうことなら、より強くなれる中級職になっておこう。

 冒険は何が起きるかわからないからな。


「それじゃあ、職業を変えようか」

「うんっ。もっと、強くなる!」


 ふんす、と意気込むシャルを見て、カティアさんが違和感に気づいた。


「シャルちゃん、あの可愛い杖どうしたの? デザインが……」

「……ひぐっ……」

「しゃ、シャル? カティアはセンスがないから微妙に見えるだけで――」

「やっぱり、ビミョー……」

「センスくらいありますっ! 失礼ね!」


 やばい。収集がつかなくなりそうだ。


「じゃ、俺たちとりあえず中級職になってきます! お、おい、エリー、行こう」


 えぐ、ひぐ、ふえ、とシャルがまた大泣きしそう。

 このままじゃヤバイので、無理やり抱っこして、俺は足早にギルドをあとにする。


「おとーさん、これ、かわいい?」

「可愛いに決まってんだろ!」


 エリーが追いついた。


「シャル、気にしなくていいのよ? カティアは、制服着てるからマシに見えるけど、私服のセンスはゼロに近いんだから気にしないでいいのよ」


 エリーが親友をさらりとディスった。


「うん……」


 どうにか大惨事を避けることができた。


「エリー、中級職になるのは、どこに行けばいいんだ?」


 エリーは中級職の【ソードマスター】だ。今から行こうとしている場所に覚えくらいあるだろう。


「このドストエフで一番近いところでも、ちょっと遠いの。ペールヴォル島っていって、海を渡っていくんだけど」


 今度は島か。

 それならシャルの水着が要るな……。


「ペールヴォル島近海に大型のシースネークが出るから、そいつを」

「倒すのか」

「倒さなくても、シースネークの天敵であるグリフォンに乗っていけば、安全に往復できるようになってるのよ」


 ふふん、とエリーは得意げだった。


 グリフォンっていうのは、ワシみたいな顔に肉食獣の体をして、翼を生やしている魔物のことだ。子供でも大型の馬と同じくらいのサイズがある。


 エリーは、グリフォンは金を払って貸してもらったらしいが、これが結構なお値段がするという。

 まあ、空を飛ぶ上にその蛇に襲われないっていうんだ。

 こっちの足下を見られるのも仕方ない。


 俺が元の姿になれば、そんなの関係ない。けど、二人に見つかるわけにいかないし、寝ている間にこっそり移動させるってのもどう考えてもおかしい。

 大人しくグリフォンに乗るとするか。


「一般的な方法は、グリフォンを見つけて餌付けして懐かせるのよ。それで、島まで飛んでもらうの」

「なんだよ、エリー、ズルしたのか」

「うるさいわね。いいでしょ、なんでも。お金あったんだし」


 俺と手を繋ぐシャルがエリーに尋ねた。


「グリフォン、可愛い?」

「懐くとすごく可愛いわよ」

「グリフォンに、餌あげたいっ! 友達になる!」


 お父さんとしては、人間の友達を作ってほしいところだけど、動物と触れ合うってのも、大事なことだ。


「つーわけで、餌付けする方向でいこう」

「グリフォンなら、途中の高原で餌を食べることが多いみたい。その近くに専用の餌を売っているところがあるから、まずはそこに行きましょう」

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