実技試験の出番が回ってきた!
「六五番の方、こちらに」
ようやく俺の番が回ってきた。
お相手はどちら様だろう。
俺を呼んだのは、インテリ女試験官。くい、くいくい、と眼鏡の上げ下げに余念がない。
「俺の相手ってもしかして……」
「私です」
女が相手ってなんかやりにくいんですけど。
「娘さんの前でパパが痛めつけられるところなんて見せたくないので――」
「パパじゃなくてお父さん!」
びくん、と女試験官は肩をすくめた。
「な。なんですか急に。おっきな声出して……」
「いえ。つい。すみません」
おほん、とまたインテリ女試験官は咳払いをした。
「ともかく、不合格ならなるべく早く判断してあげますので、ご心配なく。ボロボロになるまで戦いたいというのなら話は別ですが」
「わざわざ気を遣っていただいて、すみません」
「別に……あなたに気を遣ったわけじゃありませんから」
つん、とそっぽをむく女試験官。
「さっさとやりましょう」
「いいでしょう」
俺たちが少し距離をとると、シャルのとき以上に注目が集まった。
ううん、ギャラリー多すぎ。
目立ち過ぎている気がするから、ここは地味目な攻撃で女試験官に俺を認めさせる必要がある。
今のところ誰にもバレてないけど、俺一応バハムートだし。疑われることすら避けたいのが正直なところ。
別に、俺は冒険者として華々しくデビューしたいわけじゃないし、富も名誉も地位もそんなに要らない。
そりゃ、ちょっとくらいなら欲しいけど。
ただ、シャルと一緒にいたいだけだ。
「いつでもいいですよ。武器を使ってもいいですし、魔法でも構いません。かかってきてください」
上着を脱いでタンクトップになった女試験官。上着でわからなかったけど巨乳だった。
――――――――――
種族:人間 カティナ・サンドラ(水)
Lv:11
スキル:アイスバレット・水流防壁
――――――――――
「あなたの化けの皮をはがしてやります」
「それじゃあ、いきますよ」
「おとーさん、がんばってぇー」
一生懸命シャルが応援してくれる。もう、本当にいい子に育ってくれました。
頑張ろう。シャルのためにも。
魔力を消費し、力場を形成する。
「ん?」
周りにいる受験者たちが不快そうに眉をひそめた。
すでにここらへんは、ニンゲンの目には見えない俺の魔力で作られたフィールドと化している。違和感を覚えるのは無理ないだろう。
「……何かしましたか?」
女試験官――カティアさんも不審そうにしている。
「さあ。どうでしょう」
「私からもいきます――」
わざわざ言わなくていいのに、親切な人だ。
カティナさんは魔法を使う気らしく、シャルのように魔力消費の気配がする。
俺がちゃんとスキルを使うとエライことになるからなぁ……。
「まあ、魔力は、魔法を使うためにあるんじゃないってのを見せてあげます」
「言っている意味がわかりません。まったく、何を言ってるんですか。魔力は魔法を使うためのエネルギーで――」
ヂヂヂヂヂ、と銀色の小さな稲妻がそこかしこを飛び交った。
「な、なんだ、これ……!?」
「おい、おまえの剣――」
「え?」
鞘からすらりと抜かれた剣が空中に浮かぶ。
魔力を操作し、受験者一人の剣を借りた。
「なんだこれ――。お、おい、おまえの槍も」
「うわっ」
次は槍。空中に浮かんだように見えるが、俺が形成した魔力フィールド内では、物質を意のままに操れる。
次や矢。次は斧、槌、空中にふわっと浮かんだ。
ジャキン、と先端が一斉に女試験官にむく。
「な、なんですか、これは……」
カティアさんは、何か魔法を使おうとしていたのに、今では唖然と何が起こるか見守るだけだった。
「そろそろ認めてくれませんか? もういいでしょ」
「ま、またわけのわからない、何か幻覚でも見せて……」
頑固だなー、この人。
仕方ないので、武器を拝借してもっと数を増やすことにした。
「お、俺の剣――!」「アタシの斧が」「ハンマーが!」「オレの白ブリーフがっ」
さらに増えた剣が、槍が、斧が、ハンマーが、白ブリーフが――ジャキン、とカティアさんにむく。
「いきますよー? いいんですか?」
「くう……!」
往生際が悪いらしい。
また魔力消費をはじめ、魔法を放とうとしている。
カティアさんの足元に、青い魔法陣が広がった。
「水の精。我が願いに応え、ここに顕現せよ」
長っ……遅っ……。
「アイスバレット!」
ああ、そうだった。普通、ニンゲンはこうして魔法を撃つんだった。
大変だなあ、ニンゲンは。
この程度の魔法にこんな労力使って。
こっちへ飛んでくる水弾。軌道をすぐに見切ると、興ざめした。
これ当たんねえわ。わざと外しやがったな。
外したあとにでも「次は当てますよ?」とでも言う気か? 眼鏡くいくいさせながら。
かわせないとでも思ってんのかよ。
俺のことを甘く見る巨乳眼鏡ちゃんにはお仕置きだ。
けど、この流れ弾がギャラリーの誰かに当たるのもよくない。
ぱっと俺は右手を上げ、手を小さく動かす。
ギュン、と武器のひとつが高速で飛んでいき、水弾に衝突。
バアン、と鋭く裂けるような音がして、武器とともに水弾は消滅した。
「お、オレの白ブリーフがぁあああああああああああああああああああ!?」
すまん。帰りはノーパンで頼む。
カティアさんが目を見開いた。
「私の攻撃が――!? 白ブリーフに……ッ!?」
俺はもう一度右手を動かす。
四方八方から槍や剣が飛んでいく。
ザスンッ!
一〇本近くの武器がカティアさんの足元に突き刺さった。
「次は当てますよ」
言おうとしていたセリフを言ってやる。
そこら中に武器が刺さっているので、座り込むこともできず、カティアさんは半泣きでぷるぷると震えていた。
「なんだよ、今の……!?」
周囲の受験者たちもざわざわしていた。
なんだよ今のって……。あれぇぇ……これくらいなら驚かれないと思ったのに。
もしかして、やり過ぎた?