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マンドラゴの森2


 うきゃん!? と悲鳴が聞こえる。


 蔓で逆さづりにされていたエリーが地面に投げ出されたらしい。


「いったぁ……」

「大丈夫か?」

「だ、大丈夫よ……」


 さっとスカートの裾を押さえるエリー。

 別にパンツを見るつもりはないんだが。


「それよりも、シャルはどう? 起きそう?」

「いや、爆睡中だ」

「おかしいわね……ホーンテッド・ウッドの『ララバイ』なら、その術者を倒せば効果はなくなるから目覚めるはずなんだけど」


 よーしよしよし、と俺は背中のシャルを赤ん坊のときのように揺すってやる。


 懐かしいなぁ。あの頃に比べて、ずいぶん体重も重くなって大きくなった。


 俺が目を細めてうなずいていると、むにゃ、とシャルが口を動かす。


「……ぱぱぁ……」

「パパじゃなくてお父さんでしょ」


 起きる気配がないな。


「……ぱぱ、しゅき……」

「お父さんもしゅき!」


「何イチャついてるのよ」


 やれやれ、とエリーが苦笑した。


「子供だからかしら……『ララバイ』の効果がより出てしまったのは」

「たしかにシャルは寝つきが抜群にいいからな」


 大人は何かと寝つきが悪かったり、睡眠が浅かったりするらしいし。

 俺はそういうことはないが。


「眠気覚ましの薬草が、たしかこの森にもあったはずよ」

「とりあえず、それを探しながら、ゴルドーのクエストを受けたっていうパーティを探して、マンドラゴも探すか」

「探すものが増えたわね」

「ついでだ、ついで」


 そう言って、シャルをおんぶしたまま、俺とエリーは森を探索する。


「フェインの葉が眠気覚ましの薬草と言われているわ」

「よく知ってるな、エリーは」

「これくらい、冒険者として当然の知識よ」


 ふぁさぁ、と長い髪を払ってみせるエリー。

 けど、俺は知ってる。


 この子が、夜遅くまで色々と勉強をしていることを。

 カティアさんに勉強するための本を聞いたり、教えてもらったりしていることを。


 出会ったときは、魔物のことを詳しく知らなかったのに、今ではそれなりに知っている。


 俺とシャルが知らないことを教えるために、頑張ってくれている。


 わしわし、とエリーの頭を撫でた。


「な、何よ、ちょっと、やめて」


 と口では言うものの、全然俺の手をどかそうとしないエリー。


「助かるよ、Bランク冒険者様が一緒で」

「私が、パーティを組んだんだから、失敗なんてさせたくない。それだけよ」


 自信満々な裏側では、陰で努力をしている頑張り屋さんなのだ。


「な、何か言いなさいよ。じっとこっちを見て、何なのよ」

「いい仲間を持ったよ、俺とシャルは」

「急に何? そんなこと言ったって、パンツを見たことは許してあげないんだから」


 フン、と顔を背けて、エリーは先を歩き出した。


「シャルを起こすことを優先したいが、その葉っぱはどこに生えてるんだろうな」


 俺も元いた山で何度か目にしたことはある。

 美味くはないので、好んで食べなかったが。


 自分のマジックボックスからエリーが何かを取りだして、ふむふむ、と読んでそれをしまった。


「沢や池、湖の近くに生えていることが多いみたい」

「そんじゃ、水辺を探すか」


 この森は、ドストエフからも近く採取に適しているので、素材集めをする冒険者が多いのだそうだ。


「ドストエフを拠点にしている冒険者なら、必ず踏み入る場所と言ってもいいわ。だから、そのパーティが迷子になるっていうのは考えにくいと思うの」

「じゃあ、マンドラゴに返り討ち?」

「んー、そんなに強くないはずなのだけれど……」


 この森に詳しいエリーのあとについていくと、池を見つけた。


「あ、あった、あれよ!」


 池のほとりに咲いている花を見つけると、エリーが駆け寄っていく。

 あれの葉っぱがそうらしい。


「これをいくつか摘んで、子供が飲むにはちょっと刺激が強いから、絞った汁を水で薄めて飲むといいわ」


 ぷっつん、とエリーが一枚葉を手折って俺に見せてくれる。


 ザバン、と音がして、黒い影が池から飛び出た。


「おい、エリー、後ろ!」

「ふえ?」


 ギュォォォオウ!


 魚型の魔物が鳴き声を上げた。

 魚の体に、ニンゲンみたいな手足がついている。


――――――――――

種族:魔魚族 メダキング(水)

Lv:25

スキル:ウォーターショット・噛みつく

泳力(水中時の攻撃力、回避力上昇)

――――――――――


「ギュオウ!」


 魔物が口から水の弾丸を放つ。


「ふぎゃん!?」


 意表を突かれ、魚マンの攻撃が直撃。

 苦手属性のせいで、エリーが一撃ダウンした。


「ギュオオ」


 ぶっ倒れているエリーの足を掴んで池の中へ入ろうとする魚マン。


「待て、こら!」


 背中のシャルを草の上に寝かせ、魚マンのあとを追う。


「やめて! 離しなさいよ!」


 ゲシゲシ、とエリーが蹴るが、苦手属性のせいで全然効いてない。


 ざばん、とそのままエリーは池の中に引きずり込まれた。


「水中かよ」


 俺はそのまま水中に飛び込んだ。


「ギョオ、ギョオオウ!」


 自在に動く魚マン。


 ボゴボゴ、と手で口を押えているエリー。

 吐いた息が泡となって上へとむかっていった。

 時間がない。


 竜牙刃を抜くと、また籠手と呼応して変形する。


 今度は、両手が大きくなり、指のまたには水かきができていた。


 ぐっと握ると、その分拳も大きくなっていた。


「ギュオッ!」


 エリーの足を離し、俺のほうへむかってくる魚マン。

 がばっと口を広げると、細かい牙が無数に口内に生えていた。


 大きくなった手の水かきで水中をかいて泳いでみると、ぐんぐん速度が上がっていった。


「ギュオ!? ォオオン!?」


 魚が驚く速度らしい。


 ぐっと握った拳を魚マンの開いた口に突っ込む。


 水中だから拳速が落ちるのかと思いきや、全然そんなことがなかった。


 俺の拳は、魚マンの後頭部まで貫通した。


 あとはエリーだ。


 泳いでいき、俺はエリーを担ぐと一気に池から出る。


「おい、エリー、大丈夫か?」

「……」


 ぺしぺし、と頬を叩いても反応が薄い。


 顎をくいっとあげて、鼻をつまんで口で口を塞ぐ。ふーっと思いきり空気を送り込む。


「……っ? ッ! ~~~~!?!?」


 目を覚まし、ゲホゲホ、と咳き込だ。


「あぶねえな。気をつけろよ? 水の中にも魔物いるんだから」


 自分の唇を触りながら頬を染めて、ぽけー、としているエリー。


 さて、今度はうちのお姫様のほうの目を覚まさせてあげないと。

 エリーが教えてくれたとおり、フェインの葉を絞り、水で薄めてシャルに飲ませた。


 すると、ゆっくりと目蓋が開いた。


「おとーさん? おはよう……?」

「おはよう」


 シャルは状況をよくわかってなかったが、これで万全な状態に戻った。

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