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2種類のステータスを持つ世界最強のおっさんが、愛娘と楽しく冒険をするそうです  作者: ケンノジ


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代理決闘3


 決闘の相手、ガルムを一撃でノしてしまった。

 全然動く気配がない。

 死んではいないと思うが、予想以上に弱かった。


「おお、ヨル殿! やりましたな!」


 依頼主のフェルナンドと握手する。

 使用人のマリンもほっとしたようだった。


「が、ガルムが、一撃……?」

「というわけだ。オッサン。フェルナンド公の言い分をちゃんと呑むんだぞ」

「何かの間違いだろう……? このために奴隷商人から全部込みで一五〇万リンで買ったっていうのに……!」


「ククレジャ殿、契約書にある通り、きちんとこちらの言い分は守ってもらいますぞ」


 ぐぬう、とククレジャのおっさんは歯ぎしりしている。


「ぐぬう……」


 口でも言っていた。


「て……ていうか、い、一勝したら勝ちなんて書いてないから。あいつはガルムの偽物で、本物はどこかにいるから……」

「オッサン、子供かよ……」

「こっ、今度はおまえ! おまえだ!」


 ビシイッ、とククレジャ公はシャルを指差した。


「おまえと、ウチの衛士長が戦う」

「オッサン……こんなちっちゃい女の子を巻き込んで恥ずかしくないのか」

「だ、黙れっ! 契約書に書いてないことは事実だろうが! 代理人の年齢制限なんてないだろうがー! 何勝先取で勝利も書いてないだろうがー!」


 ギャースカとククレジャ公が喚くので、泣きの一回ということで、シャルと衛士長らしき護衛の男が戦うことになった。


「シャル、戦うけど、大丈夫か?」

「うん、だいじょうぶ」


「ヨル殿とシャルロットちゃんがそう言ってくれるのであれば……。致し方なし、契約書に書いていないのは事実だ。ククレジャ公、次にこちらが勝てば我々の勝利ということで」


「フーッハッハッハ、それでよいぞ、チチャリート公」


 むはは、と口ひげを撫でるククレジャのオッサン。


「しかし、ヨル殿、よいのか? シャルロットちゃんが戦うことになってしまったが……」


「旦那様、ご心配には及びません」


 マリンが断言をした。

 そっか。

 獣闘祭を見てたんだっけか。

 俺もうなずいた。


 釈然としないフェルナンド。


「シャル、さっさと済まそう」

「はぁーい」


 戦闘がはじまった。


「『イッシンジョーのツゴー』!」


 キュオン!


 放たれた攻撃に衛士長が反応できず、もろに食らった。


「うぼはっ!?」

「『イッシンジョーのツゴー』! 『イッシンジョーのツゴー』! 『イッシンジョーのツゴー』!」


 手加減はしていたけど、手数は……とにかく容赦がなかった。

 一身上の都合により、手早く戦闘を終わらせようとしていた。


「もう、降参……お願いだからヤメテ……」

「おとーさん、かったよぉぉぉぉぉぉおお!」

「よおし、偉いぞ、シャル」


 駄々をこねていたククレジャのオッサンは、驚きすぎて真顔になっていた。

 強かろう、うちの子は。


 そこからは、抜け殻みたいなククレジャとフェルナンドが正式に橋の建設における契約を交わした。


「ヨル殿、シャルロットちゃんがあんなに強いのは……」

「俺と一緒にいれば、嫌でも強くなりますよ。あとは本人の努力です」

「な、なるほど……末恐ろしい……教育の賜物というワケか」


 こうして、フェルナンドは無事、ククレジャのオッサンに条件を呑んでもらえるようになった。


「どうせなら、建設費を折半なんて言わず、押しつければよかったのに」

「いやいや、ヨル殿。何事もほどほどにしておくのが一番。また橋が流されれば、きっとまた揉めるでしょう。だから折半でいいのだ」


 なるほど。深いな。


 俺たちは、フェルナンドの家に帰り、ご馳走を振る舞ってもらうことになった。


「思ったより早かったわね」


 ソファで読書をしていたエリーが、ちらっと目をこっちにむけた。


「ああ、思った以上にだらしなかったんだ、敵が」

「運が悪かったわね、敵さんも。こんな規格外の人が相手なんだもの」


 クスっとエリーは笑う。


 マリンは食事の準備をはじめ、俺も手伝うことにした。

 報酬の金と魔石はここに帰る途中にもらった。

 本当はお暇しようとしていたが、せめてものお礼に、とフェルナンドに引き留められてしまったのだ。


「ガンド様、この度は、本当にありがとうございました」

「いいよ。クエストだし、こっちは目的の魔石ももらえた」


 魔石はさっきエリーに預かってもらった。

 俺のマジックボックスに入れていると、また竜牙刃が吸収するかもしれないからだ。


 二人で食事の準備をしていると、シャルがちょんちょん、と俺のズボンを引っ張った。


「おとーさん、おトイレ……」

「一人で行けないのか?」

「いける。でも、暗い……」


 要は怖いらしい。

 確かに、窓はあるけど日の入らない薄暗い場所だったな。


 仕方ないので、ついていってあげることに。


 ギイ、と古びた扉を開けるシャル。


「ちゃんとみててね、しめちゃ、ダメなの、みてて、ちゃんと。うしろ、うしろから、怖いの、くるかもしれないからぁ!」


「わかった、わかった。怖いの来てないよ」

「う、うん……!」


 怖いの、って具体的に何なんだ……?


 廊下を歩く二人分の足音がして廊下のほうをのぞくと、エリーとフェルナンドが話しているのが見えた。


「チチャリートさん、今回はよかったわね。建設費を押しつけられることがなくて」

「ああ、それもヨル殿のおかげだ。君のお父上……ルブラン公から資金をいただき、橋を架けたのがもう一五年ほど前のことだ……。自分には何の利益もないのに、お父上にもずいぶんとよくしていただいた」


 そういうことだったのか。

 橋が落ちたって話をしたとき、エリーは少し寂しそうな顔をした。


「ボランティアみたいなことばかりしているから……没落してしまうのよ」

「色々と苦労しただろう。君のような器量のいい子女が冒険者だなんて」

「苦労がなかったと言えば、嘘にはなるけれど……これはこれで、楽しんでいるのよ?」


「大事な話をするよ。私には、お父上から受けたご恩がある。返さないままに亡くなってしまわれたが……今回、何かの縁でこうしてルブラン公のご息女である君と出会った。何もない町だが……どうだろう、チチャリート家の養子にならないか?」


「養子……」


 ……。


「おとーさん、みてて、みてて! よそみ、しちゃダメっ」

「見てる、見てるってば」

「怖いの、怖いのきたっ、みて!」

「どこだよ、ていうか何なんだよ、怖いのって」


 その怖いのが何なのかわからない俺は、また廊下を覗き込んだ。


「そうなれば、もう危険なことをしてお金を稼ぐ必要はないんだ。私の代で潰えてしまう家名だ。気に入らないのなら、ルブランのままでも構わない」


「そうね……」


 一度間を置いて、エリーは首を振った。


「ごめんなさい。この話を受けることはできないわ」

「どうしてだい? 明日をも知れない命じゃないか、冒険者なんて……」


 フェルナンドが尋ねると、エリーは微笑して言った。


「私、好きなの。あの人と冒険をするのが。だから、ごめんなさい」


「そうかい……。もし、また何かあったら言ってきなさい」

「ありがとう、おじ様」


 エリーの好きにすればいいと思っていたが、ほんの少し、ほっとした。

 おトイレを済ませたシャルは、俺がよそ見していたことについて追及をはじめたが、のらりくらりとかわしていく。


 マリンが準備してくれた食事をご馳走になり、俺たちはチチャリート家をあとにした。


「エリー、きいて、おとーさんが、よそみするの!」

「え、何? 何の話?」


 ずいぶんと根に持っているらしいシャル。

 いつもは俺と手を繋ぐのに、今はエリーと手を繋いでいた。

 ……お父さん、ちょっと寂しい。


「エリー?」

「シャル? どうかした?」

「おとーさんのこと、好きなの?」


「は!? な、何でイキナリそんな話になるのよ!」

「おトイレしてるときに、きこえたから」

「あの話、聞いてたのね……。あ、あれは、冒険が好きってことで、ヨルさんは別に…………関係、ないから……」

「エリー、顔、赤い」

「赤くないわよ」

「エリー、照れんなよ」

「照れてないわよ! ぶっ飛ばすわよ!」


 んもう! とエリーは早歩きになって俺たちを置いていく。


 どうやらからかい過ぎてしまったらしい。


 馬車のある最寄りの町まで、歩いて約一時間ほどかかる。

 素直になれない元貴族のお嬢様に歩いて追いつくには、十分な時間だった。

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