獣闘祭4
Aランク設定の魔物、タイラントを倒した俺は、ふいーと汗をぬぐう。
さすがにニンゲンの体であそこまで濃度を高めた魔力を使うと疲労が溜まる。
おとーさん、すっごーい、といつも俺を褒めてくれるシャルはというと、ふむふむ、とうなずいたかと思うと、次の敵を求めて別の区画へと駆け出した。
うん……。
今は個人戦だからね。
寂しいけどしょうがない。
これでランクA~Dの魔物は出そろった。
あとはそいつらを効率よく狩っていけばいい。
敵の情報や戦い方はわかっただろうから、無茶なことはしないだろう。
とはいえ、やっぱり心配なので、俺はバレないようにシャルのあとを追う。
そういえば、討伐対象外の敵もいるって話だったが、まだ遭遇してないな。
「はあッ!」
出現したコボルトに鉄拳を叩きこむシャル。
「ふにゃ!?」
と、シャルが変な悲鳴を上げた。
シャルの足下付近で小さな黒い影がウロチョロしていた。
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種族:魔生物 クロスケ(闇)
Lv:200
スキル:回避の極意・八倍速・合体
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黒いマリモみたいな敵で、白い目玉がふたつあった。
大きさは手の平サイズ。
「えいっ! ていっ! やあっ!」
ぺたん、ぺたん、とシャルが踏み潰そうとするが、動きが素早すぎて余裕でかわされていた。
「クースクスクス」
笑われてるな。
『討伐対象外の敵、クロスケだ! 放っておいてもいいが、他の魔物との戦闘中に邪魔をしてくるぞ!』
だんだん、と地団駄を踏んでいるように見えるシャルだったが、
「もうやだぁあ」と拗ねてしまい、クロスケから逃げはじめた。
「クースクスクス!」
『倒そうにも攻撃が当たらない、世界でも類を見ない敏捷性を持つ高速の敵だ! 実在するとすれば、最高速度は幻想竜バハムートを同等と言われております』
へえ。
面白い。
『他の参加者も、クロスケは見つけても攻撃しないし関わらない、ということを徹底しているようです』
『このクロスケに素早さで真正面から勝負を挑んでも勝ち目はありません。魔力や体力の無駄ですからね』
「クス?」
俺に気づいたクロスケが、からかうように近づいてくる。
右に、左に、上に、下に。
肉眼ではおおよそ捉えきれないほどの速力で飛んだり跳ねたりしている。
『映像では最早クロスケの位置を特定できません』
『見えたとしても、それは残像でしょう』
『運営がどうやって捕らえたのかと言いますと、大好物のエサがあるようでして、それでおびき出して専用の檻に入れたみたいです』
『そうでもしないと、普通にやって人間に捕まえられる魔物ではありませんからね。攻撃は強くないというのが幸いです』
町の壁を高速移動し、こっちに飛んでくるクロスケ。
目の前をかすめて、俺を脅かそうってつもりらしい。
「フン」
俺はクロスケを素手で捕まえて握りつぶした。
『…………』
『…………』
シャルはどっち行ったっけ。
他にも魔物はいっぱいいるからな。
シャルに倒し尽くされる前に、俺もある程度倒しておかないと。
『れ……レベルは二〇〇もあるクロスケですが……今、めきょって握りましたかね……?』
『そ、そんなバカな。な、何かの見間違いでしょう……?』
『念のためリプレイを……一応、ヨルが何かをしたというのはわかりますが』
『ああ、これは、残像ですね……』
『クロスケ……いなくなってませんか……?』
『…………』
『魔力量と扱いの上手さから、ヨルの職業は【重装兵】というのは誤りだろうというお話でしたが、物理的にあの速力を持つクロスケを素手で……彼は一体なんの職業なんでしょう?』
『もう……私に訊かないでください……』




