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実技試験


 最後の試験は実技試験。


 簡単にいえば、おまえがどれほど強いのか見せてみろってことだ。


 受験者は、総勢で三〇人ほどになっている。

 総合評価とはいえ、各科目のボーダーは設定されるようで、さっきの魔力測定で下限に達しなかった受験者は不合格となったらしい。


 だから、八〇人くらいいた人数は半分以下になっていた。


 冒険者ギルドの二階でどったんばったんするわけにいかず、受験者と試験官は、町の外へと移動する。


「おとーさん、どうやったら水晶をバーンってできるの?」


 シャルと手を繋いで歩いていると、そんなことを訊いてきた。


 たぶん、俺の体内にとどまったせいで、魔力の影響を受け続けた鼻くそだからバーンってできたんだろう。


 普通、ニンゲンの魔力程度では、老廃物などに魔力が伝染したりすることはないはずだ。


 ……ということは、長年俺と過ごしているシャルは、それなりにバハムートの魔力の影響を受けている……?


「お父さんみたいに、強くなったらバーンってできるぞ」

「わたし、もっとつよくなる!」


 そうかそうか、と俺は意思を固くするシャルの頭を撫でておく。


「六五番の受験者さん、ちょっといいですか」


 町の外にある平原にやってくると、何人かいる試験官の一人が俺を呼んだ。

 フレームのない眼鏡をかけた、インテリそうな女の試験官だ。

 手には俺たち受験者のリストを持っていた。


「はあ。何ですか?」

「みんなが騙されても、私は騙されないですからね」


 ふぁさ、と長い髪の毛を手で払って眼鏡をくいっと上げた。


「何の話ですか?」

「さっきの水晶です。あんなのありえません」

「んなこと言われても」


「私は、あれがあなたのペテンだと知っているんですから」

「ペテンってそんな言いがかり」

「あの水晶は、ハンマーで叩いてもヒビひとつ入らない代物なんです」


「うちの子が魔力を流したらヒビが入りましたよ?」

「魔力に起因するものでしたら、内側からヒビが入ることもあります。それも、膨大な魔力でないとダメなんですが」

「何が言いたいんですか?」


 びしいっ、とインテリ女試験官は俺を指差した。


「あなたは、魔力測定に自信がなかった。娘さんがヒビを入れられるくらい力が強いと知っていたあなたは、娘さんに注目が集まった隙を狙って、すり替えた。そして、魔力を流すフリをして粉々に砕いてみせた!」


 そんな言いがかり。

 証拠もねえのに、すげードヤ顔だ。


 元々用意してたモンだったとして、鼻くそで壊れるってどういうことだよ。

 俺の鼻くそは危険物なのか。


 お姉さん、適当なこと言ってると鼻くそくっつけてバーンってすんぞ。


「他のみなさんは騙されたとしても、わたしは騙されませんからね!」

「だったら、そう思っていたらいいじゃないですか」

「ええ。ですから、この実技試験で、あなたの化けの皮がはがされることでしょう」


 ふん、と高飛車な女試験官は、髪をなびかせ去っていった。


 実技試験の説明では、基本的に一対一の戦いとなるらしい。

 武器OK、魔法もOKの何でもアリ。気絶するか負けを認めればそれで終了。


 相手は受験者同士だったり、試験官が相手だったりと、それまでの成績に応じてあちらさんが選ぶそうだ。


 あの感じだと、俺は絶対に試験官が相手になるんだろうなぁ。


 試験官相手だと、力量十分と試験官が判断した時点で終了。逆もまた然り。


「おとーさん、コレットおねいちゃん以外の女の人としゃべっちゃ、め!」

「え。何で?」


 見ると、シャルが口をへの字にしていた。

 愛娘のご機嫌はナナメらしい。


「ダメったらダメなの」


 むう、とほっぺたを膨らませはじめた。


 これは、まさか、俺が異性と接したから……。

 やきもちを焼いているのか……!?


 俺があの女試験官に取られてしまうのではないか、と心配をして……!?


「可愛いなぁ、シャルは」


 ぷにぷに、と柔らかいほっぺたを触ろうとすると、「やー」と首をぶんぶんと振った。


「は、はじめて拒否された」


 繋いでた手を、てい、と解いてシャルは俺から距離をとった。


「あっ……しゃ、シャル……」


 こ、これが噂に聞く反抗期っていうやつか……!

 シャルとの日々が走馬灯のように脳裏をよぎる。


 娘に反抗されるって、こんなに死にたくなるもんなのか……。


 俺がウジ虫みたいに膝を抱えていると、ぽん、と肩を叩かれた。


「わかるよ、わかる」


 試験官のおっちゃんだった。


「娘ってのは男親からするとわかんねえことが多いからな」

「そんなもんですかね……」


 俺は雑草を引きちぎっては投げる。本格いじけモード突入。


「クサイとかキモイとか死ねとか、ヌメヌメするとか言われても、娘ってのは可愛いもんさ」

「いや、そこまで言われてないんで大丈夫です」


 むしろ、おっちゃんのほうが大丈夫じゃなさそうだ。


「おたくのお嬢ちゃんは特に可愛かろう。愛でてあげたくなるというか」

「ええ、うちの子、ズバ抜けて可愛いでしょ?」


 容姿、性格、能力、全部においてスーパーな娘なのだ。


「そうだなあ。そんな娘も、いつかは嫁にいく――」

「いや、うちの子は、ハイパーお父さんっ子なんで。お父さんと結婚するってお風呂で三か月前言ってたんで。大丈夫です」


「だが、いつかは嫁にいく――」


 冷たいリアルを突きつけてくるんじゃねえよ。しかも二回も言いやがって。

 バハムート的教育を施してるから大丈夫だって。たぶん。


 ちらっと見ると、遠い目をしながらすげー悲しそうな顔をしていたおっちゃん。


 脳内で回想して、一人で悲しくなるのやめろって。


 ぽん、と最後に俺の肩を叩いたおっちゃんは、シャルにむけて手招きをした。


「六六番、こっちへ」


 シャルの相手は、おっちゃんだったのか。


「はいっ」


 元気よく返事をすると、ほわわわん、と周囲が和んだ。


 てくてく、とシャルがおっちゃんの元に歩いていき、説明を受ける。


「わかったかい?」

「はい! よろしく、お願いします」


 両手を前で揃えて、ぺこり、とシャルが礼をする。


「きちんと、あいさつ出来る……!?」

「ただの天才児、というわけではないらしいな?」


 たったそれだけで、シャルの評価はうなぎのぼりだった。


 ちらちら、と俺のほうへ視線が集まる。何だ何だ?


「ご立派ですね、しっかりと躾けられていらっしゃる」


 青年試験官がうんうんと俺にうなずきかける。


「そんな大したことじゃないと思いますけど」

「いえいえ。ご謙遜を。衣食足りて礼節を知る……あなたが父親としてしっかりしているからこそです」


 そうか? と、俺は内心首をかしげる。


「幼いうちから礼儀を学べるのは、貴族くらいのものです」


 と、インテリ女試験官もさらりと俺を褒めた。


「詐欺師だったとしても、父親としては一流のようですね」


 あんたは素直に褒められないのか。


 そのせいもあって、おっちゃんVSシャルの戦いは注目を集めた。


 おっちゃんは、武器をとくに使わないようで、シャルに合わせて魔法を使うらしい。


「来なさい、お嬢ちゃん」

「はい!」


 元気よく返事をしたシャル。


 すー、と息を吸って吐くと、体内の魔力を制御したのがわかった。


「うん、そのあとは、詠唱をして発現させる魔法をきちんとイメージして、鍵となる魔法名を言えば――」


 と、おっちゃんが簡単にレクチャーしてくれる。


 詠唱をして魔法名で攻撃するのが一般的なのだが、シャルはぱっと手をかざして、魔法名を叫んだ。


「イッシンジョーのツゴー!」


 ダァン! 黒い魔力の弾丸がおっちゃんへと飛ぶ。


「ぶふぉあ!?」


 どふっ。と重い音がすると、直撃したおっちゃんは錐もみしながら吹っ飛んだ。


 おっちゃん、完全に油断してたな。


「無詠唱だと……!?」

「しかもなんだ、あの魔法は……!」

「『イッシンジョーのツゴー』とは何のどんな魔法だ!? 新魔法の類いか!?」


 俺がバハムート的教育で育てた愛娘だ。

 どうだ。どうだ。俺も鼻が高い。


「おとーさん、練習通りできたよー!」

「おう! 見てたぞ!」


 てててて、と走ってくるシャル。

 機嫌は直っていて一安心。


 その会話を聞いたみんなが、俺に熱視線を寄越した。


「娘に自分の技術を伝えてるんだ……!」

「間違いねえ、あのオッサン、本物だぞ!」

「どうしてこんな片田舎に、こんな魔法技術を持った御仁が……!?」


 やべえ。照れる。

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