次の町へ!1
やや日常系
装備屋を出た俺とエリーは、市場で買い食いを満喫しているシャルを見つけた。
「おーい、シャルー? 帰るぞー?」
「おとーさんっ!」
てててて、と後ろに何かを隠しながらシャルが走ってくる。
「シャル、何か買ったのか?」
「じゃんっ」
シャルは、串に刺さったイカ焼きを見せてくれた。
「おとーさんの分!」
「ありがとう」
イカを差し出してくるのでひと口もらう。
醤油という調味料で焼いているせいか、香ばしいにおいがした。
身が弾力があって、でも柔らかくてプリプリだ。
「美味い」
「でしょぉー」
「シャル。口のまわり。汚れてるわよ?」
エリーがシャルの口をハンカチで拭いた。
「エリーもあげる」
「え。え。よ、ヨルさんのあとは……か、間接キスだから……だ、ダメよ」
「かんせつきす?」
「い、行くわよっ」
スタスタと先を歩き出したエリーの耳が赤い。
「その不思議ソード、イレーヌさんのところに鑑定書がないのなら、きちんとした鑑定士に見てもらったほうがいいんじゃないの?」
俺とシャルが追いつくとエリーが言った。
「イレーヌさんの記憶にある限りだと、鑑定では普通の剣だったって話だぞ?」
「普通の剣は、勝手に魔石を食べないし、ましてや独りでに成長もしないのよ」
それもそうか。
「て言っても、この町にそんな鑑定士はいないだろう?」
「だから、そろそろいい時期だと思うの、この町を離れる」
「ここから、別のところにいくの?」
きゅるん、とシャルが首をかしげた。
「ええ。この町付近じゃ、受けられるクエストにも限界があるし、種類も少ないわ。二人は、もっと強くなるし、もっと活躍できる」
「かつやく……」
キラキラ、とシャルが目を輝かせはじめた。
俺は、シャルには危険なことをしてほしくないと思う反面、最強の魔法使いに育ててあげたいとも思う。
この俺、バハムートの娘だ。
最強の魔法使いでもまだ足りないくらいだ。
この近辺で戦っているだけじゃ、いずれ能力は頭打ちになるだろう。
あまり危険なことはさせたくないが……。
「シャル、どうする? やりたいようにやっていいんだぞ」
「じゃあ……いく。もっと、もおっと強くなって、おとーさんをたすける! それで、バハムートをやっつける!」
その志は揺るがないのな。
お父さん、悲しい……。
「じゃあ、決まりね。一度、カティアのところへ行きましょう」
挨拶をするため、俺たちは冒険者ギルドのカティアさんを訪ねた。
「このレパントを離れて、別の町を拠点にすることにしました」
「そうですか……。寂しくなりますね……。いずれ、この町を出て行くとは思っていましたが」
「カティア。同行できるキャラバン隊ってあるかしら?」
「いくつかあるけど、行き先はどこにするの?」
「城塞都市ドストエフで」
「それなら、明日出発するキャラバン隊がひとつあるわ」
城塞都市ドストエフというのは、ここから北東にある大きな都市で、冒険者の数も多く様々なクエストを受けることができるという。
エリーとカティアさんがパーティを解散した町でもあるそうだ。
近隣の町や村なら馬を貸してもらえるが、城塞都市ドストエフはかなり遠く、早くて一週間から一〇日ほどかかる道のりだという。
「エリー、どうしていっしょにいくの?」
「同行させてもらうのは、大人数でいるほうが襲われにくいからよ」
「夜営をするにしても、少数だと夜の見張りを立てるのも大変ですから。その点、大人数だと楽で助かります」
たしかに、三人で移動するとなれば、俺かエリーが交代で周囲を見張ることになっただろう。
城塞都市ドストエフへ行くキャラバン隊は、レパントから農産物の麦などを運ぶそうだ。
「そのキャラバン隊が護衛クエストを出しているのなら、受けたいのだけれど」
「それは出ていたけど、すでに別のパーティが受領したみたい。キャラバン隊の隊長には、冒険者ギルドから、ヨルさんのパーティが同行すると話を通しておきます」
「お願いします。カティアさん、今まで色々とお世話になりました」
「なりました」
俺に続いてシャルが言った。
「いえ。こちらこそ。またお会いしましょうね!」
「寂しければ、ついてきたっていいのよ?」
「バカにしないで」
エリーが茶化すとカティアさんはつん、とそっぽをむいた。
装備屋のイレーヌさん、あとは、俺の家の近所に住んでいるコレットとその家族のみんなに挨拶を済ませた。
「次の町って、どんなところ?」
「レパントよりもずっと大きくて、賑やかな町よ?」
「ほほぉ……」
シャルは寂しがるかと思ったけど、案外そうでもなかったらしい。
レパント以外の町に行くのははじめてだから、ワクワクのほうが大きいんだろう。
宿屋に帰って明日の準備をしていると、エリーが頬を染めながら俺たちの部屋に顔をのぞかせた。
「ねえ、ちょっと……」
「どうかしたか」
「わ、わ、私の……し、下着……あ、洗った……!?」
「ああ。洗っておいたぞ。ついでだからな」
今日、宿を出る前に洗濯して干したから、今ごろいい感じに乾いているだろう。
「変態! 勝手に人のパンツ洗わないでちょうだいっっっっっっ!」
「何を怒ってんだよ。シャルのと大差ないだろうが」
「あるわよ! レディの下着を、シャルのおこちゃまパンツと一緒にしないでっ」
ぎゅい、とエリーは干してあった自分の白いパンツを握りしめている。
何が違うのか俺にはさっぱりだ。
「おまえ……まさか……パンツを毎日履き替えてないのか……!?」
「ま、まとめて洗おうとおいていたのを、あなたが勝手に洗うからっ! 私のはちゃんとしたいい生地のもので、値段だって……って何言わせるのよぉぉぉぉ!」
「勝手に自分が言ったんだろう」
「おこちゃまパンツ……」
エリーのせいでシャルが涙目になっていた。
「おとーさん……わたしのおパンツは……?」
「六枚セットで一二六〇リンのお得仕様」
「ほうら。だから可愛くないのよ」
ガガーン、とシャルがショックを受けた。
目が虚ろになり、ころーん、と置物みたいに転がってしまった。
しかし、ニンゲンってやつは、どうして見えないところで布を纏いたがるんだろう。
昔からの習慣もあって、俺は履いてない。どうせわからないし。
「やだぁあああ! わたしも! ちゃんとした可愛いおパンツかって!
「わ、わかった、わかった。また今度な?」
「やだぁああああ! 明日かって、かって、かってぇえええええ!」
「待て、こら、落ち着け」
駄々をこねたかと思うと、目にぶわあああ、と涙が盛り上がって、わぁぁぁああん、とシャルがギャン泣きをしはじめた。
「エリーのせいで収拾がつかなくなっちまっただろうが」
「私のせいにしないで。そんなお安い下着で済まそうとしているあなたが悪いのよ。女の子のパンツをなんだと思っているのよ」
なんなんだ、パンツって……。
シャルが泣き疲れて眠ったのを見計らい、俺はエリーについてきてもらい、市場まで『可愛いパンツ』とやらを買いに行った。
「見えないところで『可愛い』をしても意味ないんじゃないか?」
「誰かのためじゃなくて自分のための『可愛い』だからいいのよ」
「なるほどな」
「絶対わかってないでしょ」
なんでバレたんだ。
こうして、俺とエリーはその他必需品を買って翌日の出立に備えた。




