解毒草の採取5
少し時間がかかったが、俺は竜牙刃をスコップに変形させ、墓を掘った。
そこに、グレイウルフにやられた冒険者たちを埋めた。
「おとーさん、これ」
「ああ、ありがとう」
シャルが摘んできてくれた花を供えて、俺たちは墓標代わりの槍にむかって祈りを奉げる。
「ヨルさん、お墓を作ってあげるのはとてもいいことだと思うけれど……これが冒険の日常よ? 見かけたそばから作ってたら、キリがないわ……」
「わかってるよ、そんなこと」
そりゃ、切羽詰まった状況なら、他人の墓を作ってあげるなんて余裕はないだろう。
でも、周りに敵の気配がない今なら大丈夫だ。
「あの【僧侶】の様子は?」
俺は横になっている【僧侶】を親指で指した。
「毒を受けたみたい。さっきのグレイウルフの毒だと思うわ。解毒剤を飲ませて、今は安静にしてもらってる」
「そうか。パーティは気の毒だったな」
「私たちも、油断しないようにしましょう」
俺はうなずいて、【僧侶】のそばまで行き、フードで隠れた顔をのぞいた。
髪は短く、まだ若い。若いっていうより、幼いって言ったほうがいいかもしれない。
目が開いて俺に気づいた。
「あの、さっきはありがとう……助かったよ……もうダメだと思った……」
「どういたしまして。俺たちはトクタミソウ採取のクエストでこの森に来たんだ」
解毒剤がのおかげか、さっきよりも顔色がよくなっている。
「オレたちもだよ……割のいいクエストだから、今回だけあの人たちのパーティに入れてもらって、解毒草を集めていたんだ。そしたら、思った以上に解毒草がなくて、気づいたらこんなに奥に……」
この子たちも俺たちとまったく同じだったらしい。
「オレはルイス。Eランク冒険者で、職業は【僧侶】だ」
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種族:人間 ルイス・ヘンリック(水)
Lv:17
職業:僧侶
スキル:ヒール
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ランクは俺たちと同じで、レベルは下。
だけど、職業は初級スタートジョブで、スキルに至ってはひとつしかない。
……エリーが言ってたな。
はじめての職業で、覚えられるスキルはよくて二つだって。
ということは、このワンスキルのほうが一般的なんだろう。
俺たち三人は、ルイスに簡単に自己紹介をしていく。
「これ、さっきのお礼。ちょっとだけだけど、もらってくれよ」
ルイスが自分のマジックボックスの中から、草を取りだした。
「これ、トクタミソウじゃないか。いいのか?」
数は一〇と少し。
ルイスだって、同じクエストを受けていたはずだ。
「あまり数はないけど、足しにしてよ」
合わせて、ようやく二〇。
まだ探索する必要はあるが、ずいぶんと楽になった。
「その代わりと言っちゃあなんだけど、森を出るまでパーティに入れてほしいんだ。オレ一人じゃ、たぶん森から出られない」
「なんだ、そんなことか。いいぞ。元々一緒に連れて帰るつもりだったし」
エリーもシャルも異論はなし。
「ここに一人で置き去りなんてしねえよ」
「あ、ありがとう!」
「ということは、トクタミソウは最低でも四〇必要ってことね」
「そうだな。っていうわけで、しばらく探索をするぞ」
「うん。ヨルさんたちとなら、強いし、大丈夫そうだ」
安心した表情を見せたルイスは、少し黙ってから口にした。
「けど、オレの分のトクタミソウは要らない」
「どうして?」
「オレ、ここから帰ったら冒険者、やめようと思うんだ……」
「おいおい、なんでまた――」
俺が続けようとしたら、エリーが遮った。
「そう。それがいいかもしれないわね」
「エリー、そんな言い方……」
「もう、おバカさん。見たでしょ。ちょっと間違えば死んじゃうの。みんな、みんな、あなたみたいに、強くないのよ……」
ルイスは困ったように笑った。
「オレ、これでも冒険者になって一年以上経つんだ……なかなかスキルは覚えられないし……たまにパーティを組んでもらえたと思ったら、オレが足引っ張っちゃって……あんなことになるし……」
ふうむ……。
心が折れてしまえば、これ以上続けることはできない、か。
「ルイスの気持ちはわかった。けど、この森を出るまでおまえは冒険者で、俺たちは仲間だ。怪我したときは、頼むぜ、ヒーラーさん」
「あっ、うん!」
「シャルロット・ガンド、です……よ、よよしく、おねがいします……」
シャルの人見知りが発動し、若干挨拶を噛んだ。
「ちょっと癪だけれど、たぶん、私が一番あなたのお世話になると思うわ。よろしく」
「シャル、エリー、よろしくな」
こうして、【僧侶】のルイスをパーティに入れ、俺たちはトクタミソウの探索を続けた。
「グレイウルフは、トクタミソウをどうして食べていたのかしら」
薄暗くなりはじめた森の中、ぽつんとエリーが言った。
「喰ってたっていうよりは、口で摘んで吐き出してたって感じだったな」
まったく、迷惑な犬野郎だ。
俺たちは、その犬野郎が出現してきては倒し、出現しては倒すことを何度か繰り返した。
「レベルが上がってるぞ」
「ほんとっ!?」
シャルが目を輝かせている。
エリーも気になるらしく、俺の顔を何度もちらちらと見てくる。
二人とも、どうなったのか知りたいらしい。
視線がうるさいので、まずはエリーを見る。
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種族:人間 エリザベート・ルブラン(火)
職業:ソードマスター
Lv:27
スキル:筋力アップ・ファストエッジ・回避の心得・三連牙
ジゲンリュウカイデン(攻撃範囲内のレベル下の敵をひるませる)
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「エリーは、『ジゲンリュウカイデン』ってスキルを覚えてるぞ」
「『ジゲンリュウカイデン』……ひるませるスキルね、たしか……」
ちょっとがっかりした様子だった。
前衛の攻撃タイプなら、覚えるスキルは攻撃スキルがいいんだろう。
「わたしはっ、わたしはっ、おとーさんっ!」
ぐいぐいぐい、とシャルが俺の服を引っ張る。
「待て待て、今見るから」
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種族:人間 シャルロット・ガンド(闇)
職業:アルケミスト。
Lv:20
スキル:イッシンジョーのツゴー・下級格闘術・ダークフレイム・シャドウスラッシュ・スモッグ
・ブラッディサークル(一定範囲内に闇魔法を攻撃できる)
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「シャルは、『ブラッディ・サークル』っていう範囲系の攻撃魔法を覚えてるぞ」
「攻撃魔法ー!? やった! 詠唱の呪文もわかるよー!」
ぱぁぁぁぁ、とシャルが表情を輝かせた。
なでなで、とシャルの頭を撫でている横で、エリーが小さくため息をついた。
「どうしてシャルは攻撃スキルを覚えるのに、私は……」
どんまい、エリー。
その間、ルイスがトクタミソウをいくつか摘んでくれていた。
「これで、三二個だ。ヨルさん、もういいんじゃない?」
「最低で四〇だ。このクエストがラストなんだ。きっちり完了させよう」
「……うん。ありがとう」
ルイスは、どうやらずいぶん自信喪失をしているらしかった。
冒険者になってから、ずっと自分の能力について引っかかっていたんだろう。
「ステータス、俺なら見えるが、ルイスも見ようか?」
「ありがとう。けど、オレは見てもらわなくってももいいよ」
増えないスキルに、上がらないレベル……。
Eランククエストで苦戦するようなら、冒険者として大成は見込めない。
で、パーティを組めたかと思うと、あのありさま。
俺がルイスでも自信を失くしただろう。
肝心の俺はというと。
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種族:人間 ヨル・ガンド(状態:変身中)(光)
職業:重装兵
Lv:20
スキル:劣化版ブレス・大盾の心得・フィジカルアップ・スタンドアローン・挑発
囮の名手(敵の標的になると物理防御力上昇・敏捷力上昇)
大盾の怒り(盾に受けた攻撃を衝撃波として放つ)
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【重装兵】として初のスキルは、ふたつ一度に覚えた。
防御系特化の【重装兵】は、攻撃スキルはほとんど覚えないって話だったが、それらしきものを覚えた。
この『囮の名手』ってスキルは、『大盾の心得』(敵に標的にされやすく、物理防御力上昇)の上位スキルのようなものらしい。
『挑発』(敵に狙われやすくなる)との相性もよさそうだ。
敵を引きつけて引きつけて、盾と堅い防御力で攻撃をしのぎ、その間にアタッカー陣に攻撃をしてもらう――。
いつもの戦術が今回のスキルで一層盤石になった。




