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2種類のステータスを持つ世界最強のおっさんが、愛娘と楽しく冒険をするそうです  作者: ケンノジ


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解毒草の採取2

 食料と水を用意した俺たちは、北東の森を目指すべくレパントの町をあとにした。


「この前のゴブリンがいた森と違って、鬱蒼としていて昼でも夜に近いくらい薄暗いの」

「おとーさん、お菓子」

「ええ、もう? 一個だけだぞ?」

「うんっ」

「ちょっと! 私の話を聞きなさいよ!」


 俺はマジックボックスに入れておいた袋詰めされたクッキーをひとつ取りだした。


「聞いてるよ」

「じゃあ、私が何を言ったのか、言ってごらんなさいよ」

「クッキーの森は、サクっとしてて」

「はい、ブブーッ」


 さくさく、とシャルがリスみたいにクッキーを食べている。


「んもう……。カティアが言ってたわよ。ヨルさんは話を全然聞かないって」

「ふふん、まあな」

「堂々としないでっ」


 まったくぅ、とエリーは口を曲げた。


 そう急ぐクエストでもないので、俺たちは休憩を取りながらのんびり森へとむかう。


「そういや、森で思い出した。これ、この前の森でもらったんだ」


 ごそごそ、とマジックボックスに手を入れて、スライムにもらった謎の結晶を取りだした。


「魔石じゃない! これ、誰にもらったの!?」


 魔石? なんか、聞いたことがあるぞ。名前だけだけど。


「スラ……あの森で一人になったときに、偶然落ちてるのを見つけて」


 スライムにもらったなんて、さすがにおかしいので誤魔化しておこう。


「そう……?」

「聞いたことはあるけど、これって何に使えるの?」


「用途は色々よ。特殊な薬品に加工できたり、武器や防具、その他装飾品に加工できたり。いずれも、魔石を素材にした道具やアイテムは、魔力を高める効果があると言われているわ」


 すらすら、とエリーは説明をしてくれる。


 基本は魔力を高める石、という認識らしいが、違う効果を持つ魔石も存在しているという。


「ただ、このままじゃ、効果は発揮されないの」

「加工用の便利素材ってところか」

「その通り。結構レアなアイテムよ」


 へえ。あのときのスライム、ありがとう。


 これは、シャル用のアイテムに変えよう。

 魔力を高める効果があるなら、なおさら後衛の【アルケミスト】であるシャルに使ったほうがいいだろう。


 のんびり歩き、夕暮れが近づいたので、ひと晩をキャンプで過ごした俺たち。


 翌日。太陽が昇りきる前に北東の森の入口に到着した。


 一〇メートル先も暗くて見えにくい。


 道らしきものも一応あるが、すぐに途切れてしまっていた。


 ギャアギャア、と魔物か動物か、何かの鳴き声がする。


 きゅっとシャルが俺の手を握った。


「おとーさん、こわい……」

「大丈夫大丈夫、シャルのほうが強いから、変なやつが出てきたらやっつけよう」

「うん、やっつける!」


 エリーもシャルも、まだまだ強くなれる。

 もちろん、ニンゲンの俺もだ。

 他の冒険者が未知の敵と戦わないのは、ステータスが見えず、敵の攻撃が予想しにくいからだ。


 だが、俺たちは違う。

 ステータスの見える俺がいて、よっぽどマニアックじゃなけりゃ、魔物のことはひと通り知っている。


 同レベルの冒険者と違って、持っている情報量が圧倒的に違う。

 そのおかげで、クエストの成功率を上げることができ、安全を確保することができる。


 キャプテン・ゴブリンやゴーレム、チャンピオンベアが出てきたように、格上の敵が現れれば、各職業の特性を活かした作戦があれば、十分に戦えるんだ。


 まあ、出会わないに越したことはないんだが。


「トクタミソウは、大樹の根本に生えていることが多いわよ」


 冒険慣れしているエリーが、クエスト対象の植物について教えてくれる。


 先頭を歩く俺は、短剣で伸びた草や枝を斬りながら進む。

 こうしたほうが、後続が歩きやすい。


「それと、陽があたりやすい場所に群生していることもある」


 俺が補足すると、


「エリーより、おとーさんのほうが詳しいー!」

「し、知っているんなら、そうだと言いなさいよっ」


 もおー、とエリーは牛みたいに不満げな声を漏らした。


 ぅぅぅん、ぅぅぅん、と羽音が聞こえる。


「な、何、この音?」

「この音は……」

「ヨルさん、わかるの!?」

「わからん」

「もおー!」


 ただの羽音だけでわかるほど、俺は生き物博士じゃねえんだよ。


 羽音がひとつ、ふたつ、とさらに増えていき、赤い塊のようなものが複数見えた。


――――――――――

種族:魔蜂族 パワー・ビー(風)

Lv:20

スキル:初級格闘術・噛みつき・毒針

対地優勢(地上にいる敵に対し攻撃力・回避力上昇)

――――――――――


 虫の魔物、パワー・ビーだった。


 体は人の顔ほども大きく、四本の足と二本の腕を備えている。

 腕のほうは足よりも太く硬い。

 接近を許すと、まず殴りかかってくる武闘派だ。


 ケツから突き出ている鋭い針にも注意が必要だった。


 全部で五体。こちらに気づいた。


「こっちに飛んできたわよ!」

「近寄らせるな。シャル!」

「まかせてーっ」


 しゃんしゃん、とラブリーステッキを振って、


「イッシンジョーのツゴー!」


 キュオン!


 魔力弾を飛ばす。


 だが、ひらりとパワー・ビーたちにかわされてしまう。


「ああうううう、あたらない……っ」

「シャル。ああいうすばしっこい敵に、ピンポイントの攻撃は難しいぞ?」

「となれば、私の出番ね!」


 凛々しい顔つきでふぁさぁ、とエリーは髪の毛を弾いてみせる。


「あの敵は知っているわ。属性は風。ということは、火属性の私とは相性がいいの!」

「だから、ピンポイントの攻撃は有効とは言えないと……」


「行くわよッ」


 スラッと剣を抜いたエリー。


「『ファスト・エッジ』!」


 電光石火の斬撃をお見舞いするが、あっさりと回避された。


「!」


 それどころか、ぶうううん、ぶうううん、と囲まれてしまった。


「ちょ――待っ――」


 拳を構えたパワー・ビーたちが、ドカドカドカドカドカドカ、とエリーを殴りはじめた。


「きゃ、痛っ、やめっ、ああもうっ」


 エリー、相性のいい属性でよかったな?


 ひゅん、と闇雲に剣を振ってみるが、そんな攻撃が当たるわけもなく、虚しく空を切った。


 一体が針を伸ばした。


「見てみろ、シャル。ああして、完全に当たる、という確信を持つと、あの蜂は針で刺そうとするんだ」

「ほぉぉぉぉぉ……」


「解説してないで手伝ってよっ! いや……手伝ってくださいぃぃぃぃ」


 よし、今行くぞ。


「シャル、こういう素早い敵には、一点に攻撃するやり方はかわされる確率が高い。だから――」

「だから……?」


 シャルが、わくわく、と俺の一挙手一投足を見つめる。


「面で制圧する! ――エリー、しゃがめ!」

「っ!」


 言った瞬間、エリーが地面に伏せた。


 パワー・ビーが、急な動きに虚を突かれた。


 その隙を見逃さなかった。

 俺は吸い込んだ息で劣化版ブレスを吐き出す。


 ブフォア!


 黒銀の炎を放射すると、空中が黒い爆炎に呑み込まれた。


「ビィィ……」


 力のない鳴き声を上げて、一体を撃墜。


 二、三、四体目は、さらに強くなった火力で塵も残さず消え去った。


「ビィィイイ!」


 炎に呑まれる寸前に、最後の一体が俺に突っ込んできた。


 いい覚悟だ!


 パワー・ビーが拳を握っているのが見える。

 俺を一撃でぶっ倒そうという根性が垣間見えた。


 竜牙刃を抜いて変形させている時間はない。


「ビビビイイ!」


 俺も拳で応じる。


「オオラァア!」


 短いパワー・ビーの腕と俺の腕が一瞬の間に交錯する。


 当たった!


 と思ったが、敵は『対地優勢』のスキル持ち。

 回避力は高い。


 ぶうんと羽を動かして俺の拳をかわす。

 この距離なら当たると確信したのか、毒針をケツから俺の腹へむけて伸ばした。


「おとーさぁぁぁぁぁぁあああん!」


 シャルが心配するような声を上げた。


 心配すんな、腕はもう一本あるんだよ。


 むこうも毒針が当たると確信したせいか、防御がお留守だった。


「ルォオラァア!」


 俺の突き上げた左の拳が、


 べしゃん!


 パワー・ビーの顔面を捉えて潰した。


「……いいパンチだったぞ」


 地面に転がったパワー・ビーの健闘を称えてやった。


「……ヨルさん、パワー・ビーって、格闘術持ちじゃなかったかしら」

「ああ、初級だが、持ってたぞ」

「どうして格闘スキルがないヨルさんが勝てちゃうのよっ」


「おかしいのか?」

「おかしいわよ! じゃあ、スキルって何よ……」


 頭痛がしたのか、エリーが頭を押さえた。


 まあ、あれだ。

 ステータスに表示されることが、強さのすべてじゃないってことだ。


「ニンゲンってやつは、スキルって概念に縛られすぎなんだよ」


「もぉ……既成概念の枠にきちんと収まって……デタラメすぎるから……」


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