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2種類のステータスを持つ世界最強のおっさんが、愛娘と楽しく冒険をするそうです  作者: ケンノジ


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次の職業へ!2


 その頃、シャルロットの父こと、バハムートは――。



「シャル、大丈夫かな……?」


 さっき、この訓練所にシャルが入っていくのが見えた。

 窓から訓練所の中を覗いてみても、待合室のようになっている室内は、今は誰もいなかった。


「大丈夫よ。そんなに心配しなくても」


 俺の隣からずいっとエリーが頭を出して、同じように訓練所のロビーをのぞいた。


「シャルちゃんは、ヨルさんが思っている以上に強いし、しっかりしてるわよ?」

「そんなことを心配してるんじゃねえの。素直で真面目だから、変な大人に変なこと吹きこまれるんじゃないかと思って……」


 世の中には、小さい女の子が好きという、よくわからない倒錯した趣味を持つニンゲンがいるという。


「教官は知らない人だろうし……シャルは人見知りだし……気配を何も感じない……? あ、可愛いから変態におかしなことを」

「されないから。どれだけ心配してるのよ。私がちゃんとお迎えするから、あなたは自分の訓練所に行きなさい。ここにいたって仕方ないのだから」


 ぐぬう……珍しく正論だ。


「じゃあ、シャルのお迎え、任せたぞ」

「頑張ってきてね」


 ……俺が一番に出迎えて、何をどうしてどう頑張ったのか聞きたかったのに。


 後ろ髪引かれる思いはあったが、俺はカティアさんに教えてもらった【騎士】訓練所へむかう。


 町の北に訓練所はあり、その付近では、訓練終わりと思しき【騎士】クラスの若い冒険者がベンチに何人か座っている。

 みんな、一様に疲れたような顔をしながらも、どこか爽やかな面持ちで、ドリンクを飲み、談笑をしていた。


「バッシュさん、剣の稽古もつけてくれるんだよな」

「ああ、すげー勉強になるよな。さすが元王国騎士団の騎士だけはあるぜ」


 へえ。

 俺も強くなれたらいいなあ。


「こんちはー」


 訓練所の扉をくぐると、さっきと同じようなロビーで、受付に甲冑姿の男がいた。


 金髪は短く精悍な顔立ち。

 年は二〇代半ばくらい。

 騎士団にいそうな雰囲気の男だった。


「やあ、いらっしゃい。訓練かい?」

「はい。ここで頑張れば、転職してもいいっていう証書をもらえるって聞いたんで」


 俺のつま先から頭の先まで、金髪男の視線が二往復した。


「見たところ、転職組というわけではないね」

「え? ああ。今のクラスがはじめてです」

「私は、バッシュ。【騎士】訓練所の教官をしている」

「ヨル・ガンドです。Eランク冒険者です」


 あ、そうだ、そうだ。

 カティアさんが書いてくれた紹介状。


 思い出した俺は、懐から筒状の紙をバッシュに渡す。


「……カティアさんから紹介状……珍しいね……」


 爽やかな表情だったのが、俺をちらっと見て少し曇った。


「奥の練兵場に行こう。そこでなら、大暴れしようが何をしようが、外に迷惑はかけないから」

「わかりました」


 バッシュが先に進み、俺はあとについていく。


 練兵場の扉を開けると、一〇〇人くらいは収容できそうな広場に出た。


「【騎士】クラスなのに、これといった防具もなく、装備は腰の剣だけ……君は、冒険をナメてるのかい?」

「必要性を感じないので防具無しでやってます」

「そういう態度をナメているっていうんだよ」


 実際今まで無傷だからなぁ……。

 防具って重いし、中古だと臭いし、手入れはちゃんとしないと錆びるし、その手間も大変。

 何もいいことがない。


 なんか知らんが、バッシュは怒っているようだった。


「訓練で命を落とすことがあるのは、兵士なら誰でも知ってることだ」

「はあ」

「その腰の剣を置いてくれ」


 ?

 まあ、そういうんなら、そうするか。


 俺がそうすると、バッシュは腰の剣を抜いた。


「これから、私が一方的に攻撃をする。君は、それを防ぐなりかわすなりする」

「あの、剣の稽古もしてもらえるって聞いたんですけど」

「……君にはしないことにした」


 こっちを睨んでいるバッシュ。

 だが、俺だけ特別扱いだ。

 ちょっと嬉しい。


 雑な殺気がバッシュから滲んでいた。


 剣を構えて俺のほうへ突進してくるバッシュ。


「カティアさんが、昨晩『おじさんルーキー』と呼ばれる冒険者と食事をしたそうだ」

「あ。俺のことだ」

「やっぱり君か――」


 バッシュをまたさらに怒らせてしまったらしい。


 フォン!


 バッシュが剣を容赦なく振り抜く。

 俺はバックステップを踏んで、距離を取った。


 剣が空を切ると、舌打ちをするのが聞こえた。


「あの、これ、訓練ですよね?」


 答えないまま、バッシュはまた剣を構え直した。


「……なるほど。そういう訓練か」

「なぜ、カティアさんが君のような、何の実績も取柄もなさそうな中年冒険者を贔屓するのかがわからない」

「別に贔屓にはされてないと思いますけど」

「うるさいッ」


 今度は突きを放ってくるバッシュ。

 別に防御してもいいんだから、かわさなくてもいいか。


 剣の側面を軽く手で叩き、進路を強引に変えた。


「っ!?」


 ガシャガシャン、と自分の足に絡まってバッシュはこけた。


「あの剣速で、いとも簡単に切っ先の方角を変えるとは……」

「……あの、大丈夫ですか」


「ふ。ふふ、ふふふふ……」

「やばい。頭打ったか?」


「どうしてだ。私の誘いは断るのに……!」

「もしもーし?」


「この中年冒険者とは食事に行くのは、なぜなんだ……!?」

「そういうのは、本人に直接訊いたほうがいいのでは?」


 ガシャリ、と甲冑を鳴らし、バッシュは立ち上がった。


「元王国騎士団の本気を見せてやろう……! もう、そんなナメた態度が取れないようにね!」

「よろしくお願いします」


 頭打ったらしいから心配だったが、大丈夫のようだ。


 背に持っていた盾を構え、剣をバッシュはずんずんと前進してくる。


「おお……騎士っぽいですね」

「今は教官だが、私は騎士だ!」


 甲冑の塊が迫ってくる。

 盾を構える位置は高く、俺に目隠しをしているかのようだった。


 盾にはこういう使い方もあるんだな。


「ハァァッ!」


 剣を俺へ突き刺してくる。

 回避する。


 突き刺してくる。

 回避する。


 突き刺してくる。

 いい加減、回避に飽きたから防御した。


「どうして防御する!」

「そういう訓練では?」


「『シールド・ラッシュ』!」


 答えないバッシュは、スキルを使ってきた。


 盾を使った打撃系の攻撃スキルらしい。


 盾が魔力を淡くまとい、突き出してくる速度はかなり速い。


「オラ! オラオラオラ! オラァアア!」


 ひょい、と俺はバックステップを踏んだ。

 というか、攻撃発動前には踏んでいた。


 一人でオラオラ言いながら、バッシュは誰もいないところに盾を突き出していた。


「ぜえ、はあ……っ、フン。どうだ! ――っていない!?」


 目を剥いてバッシュが驚いている。


「そのスキルって、何レベルで覚えたんですか?」

「バカにしてくれる……!」

「いや、あの……何レベルで……あの……」

「そっちかァ! 今度は逃げるなよ!?」


 ずんずん、とまた迫ってきた。

 今度は逃げちゃだめなのか。


「オラ、オラ! オラオラ! オラァアア!」


 盾だというのに、拳以上の速度があった。

 状況次第ではかなり有効なスキルだ。

 バッシュは連続で盾を突き出してくる。


「オラッ」


 回避した。


「オラア!」


 これも回避。


「オラオラ、オラアッ!」


 回避に飽きたので受け止めた。


「止められ……ッ!? ――なぜ防御する!?」

「そういう訓練では?」


 汗まみれのバッシュが盾を戻し、剣をしまった。

 ぜえ、はあ、と肩で息をしていた。


「……もう、二度と来ないでくれ……」


 悲しそうに言われると、俺もちょっとショックだった。


「あの、俺、何かしましたか?」

「もう、君の姿は見たくもない」


 嫌われてしまったらしい。


「私の攻撃、かわすし防御するし……もう初級職レベルの実力じゃないから……。頼む……もう来ないで……。どう考えても、私よりずっと強いから……」


 頼みたくなるほど、嫌われたらしい。


「けど、まだ初日で三〇分くらいしか経ってないんですけど」


「私が君に教えられることなんてないよ……認定書はあげるから……もう来ないでくれ……」


「わかりました。教官がそう言うのなら、そうしましょう」


 もっと色々と教えてほしかったんだが、認定書をもらうことが訓練所のゴールだ。


 俺はバッシュから認定書をもらい、さっそく冒険者ギルドへ戻った。


「カティアさん、教官からもらってきましたよ、認定書」

「認定書って……早くて一か月はかかるんですけど……」

「え。そうなんですか。でも、もういいって言ってくれて」


 うんうん、とカティアさんはどこか満足げだった。


「きっと、教官はガンドさんの才能を一発で見抜いたんですね」


 そうなのか。

 バッシュ……。

 俺がバハムートなのを知ってか知らずか、俺の才能を見抜くとは。

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