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2種類のステータスを持つ世界最強のおっさんが、愛娘と楽しく冒険をするそうです  作者: ケンノジ


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次の職業へ!1

 俺たちが正式にパーティを組んだことをカティアさんに報告すると、カティアさんは喜んだ。


「ガンドさん、エリザのことをよろしくお願いします」

「はい。任せてください」


「ちょっと」


 機嫌悪そうにエリーが会話に割って入ってきた。


「経験もランクもこっちが上なんだから、頼む相手は私のほうでしょ?」


「あはは……」

「カティア、愛想笑いやめなさいよ」


 さすが親友同士と言ったところか。

 会話の節々に仲のよさが垣間見える。


「では、正式に冒険者ギルドでお三方をパーティとして登録します。これ以降は、個人ごとにクエストを受けることもできますし、パーティ単位でクエストをすることもできます」


 シャルがひょこっとカウンターの上に顔を出した。


「カティア先生」

「なあに、シャルちゃん」

「わたし、もっと強くなりたいです」

「魔力の基礎も教えたし……十分強いと思うんだけど……」


 困ったようにカティアさんが笑うと、シャルは首を振った。


「もっと」

「えぇ……もっと……?」


 カティアさんが困って渋面を作る。


 つんつん、とエリーが俺を肘でつついた。


「この前、森であなたがシャルちゃんを私に預けたでしょ? それを気にしているみたいなの」

「気にしてる? 何を?」

「どうやら、自分が弱いから私に預けたと思っているみたい」


 そういうつもりじゃかなったが、実際そう受け取られても仕方ないかもしれない。

 俺はシャルを絶対保護の対象だと思っているから、あの場はああしたけど、俺と同等に強いのであれば、一緒に戦っただろう。


 ううん、と悩んでいるカティアさんに、エリーが言った。


「あそこは? 別にシャルちゃんなら大丈夫だと思うけれど」

「あんなところに、小さな女の子一人なんて……さすがに、ちょっと……」


 頭上で交わされる会話に、シャルは二人を交互に見ていた。


「あそこって、何?」


 俺が訊くと、エリーが答えてくれた。


「職業訓練所というところがあって、平たくいうと、そこでレベルを上げて強くなりましょうってことなんだけど……」


 エリーが言うべきか迷っていると、カティアさんが続けた。


「訓練が厳しくて有名なんです。心を折られて、もうEランクでいい、初級職のままでいい、って思う冒険者も少なくありません。ただ、そこで認められて認定書をもらうと、初級職の次の職業に転職することができます」


 職業訓練所なわけだから、そこで認められれば、その職業はマスターしたと冒険者ギルドにも認定されるそうだ。


 初級職の次は中級職というわけではなく、俺なら【騎士】の派生職、上位互換職、もしくは【魔法使い】や【戦士】のような別の職業に転職できるという。


【戦士】【騎士】【魔法使い】【僧侶】それら四職を初級スタートジョブと言うそうだ。


「基本的に、冒険者ギルドの担当者から訓練所へ紹介をして、冒険者の方には頑張ってもらうというシステムなんです。通えばいいスキルを覚えるかは断言は致しかねます。なので、シャルちゃんもガンドさんも、行く必要はないと私は思っています」


 前も言われたが、このままクエストを繰り返していけば、その功績によって職業を変えられるようになるという。

 エリーも訓練所に通って職業を変えたわけではなく、通常通りクエストをこなしたそうだ。


「どうする、シャル? 先生は、行かなくても十分だって言ってるけど」


 ぶんぶん、とシャルは首を振った。


「いく。もっと、もおーっと強くなって、おとーさんをたすけるの。【魔法使い】よりも、強いジョブにして……おとーさんに、もっともっといい子いい子されたい……」


 最後のほうが、すごい小声だった。

 ……あ。

 それが本音か?


「このままギルドで功績を貯めても職業を変えることはできるんだよ?」


 カティアさんはそう言うけど、シャルは首を振った。

 うちの子は、意外と頑固なところがあるらしい。


 シャル自身が強くなるのであれば、俺だってその分気が楽になる。

 それに、強くなりたいっていう、この飽くなき向上心の邪魔をするもんでもないだろう。


「カティアさん、俺からもお願いします。やりたいって言っているんで」

「……わかりました。そこまで言うのであれば、訓練所にシャルちゃんをご紹介します、ガンドさんはどうしますか?」

「じゃあ、俺もシャルと同じところの訓練所で――」

「何言ってるのよ。あなたは【騎士】でしょう? 違うところに決まってるじゃない」

「え」


 エリーの言葉に俺は思わず真顔になった。


「シャルちゃんの紹介状、これね。失くさないようにね?」

「はいっ。ありがとう、ございます」


 シャルがカティアさんから筒状に丸められた紙を一枚もらった。


「ガンドさん、違う職業の人は入れませんからね?」

「え」


 俺が呆然としていると、今からでも行ける、という説明をカティアさんがしていた。


「おとーさん、いってきますー!」

「お、おお……うん」


 手をぶんぶん振って出ていったシャルの背中を、俺は冒険者ギルドで見守った。


「それで、あなたはどうするの? 訓練所」

「じゃあ、一応、俺もお願いします」


 エリーに訊かれて、俺はぼんやりと返事をした。


「送り迎えは私がするから安心してちょうだい。あなたは訓練に精を出して」

「はい。ガンドさんの紹介状です。頑張ってください。まあ大丈夫だと思いますけど」


 そう言ってカティアさんは笑った。



 レパントの町の東端にある【魔法使い】訓練所。

 スタートジョブと呼ばれる職業の訓練所は、冒険者ギルドがある町には必ずといっていいほど存在した。


「……こ、こんにちは……? しゃ……シャルロット……ガンド、です……こ、こんにちは……」


 外で声がして、ムンバイは腰を上げた。

 ムンバイは、今年で訓練所の教官歴三〇年。

 それ以前は名うての後衛攻撃職の冒険者として勇名を馳せた男だった。


 怪我で足を悪くし冒険者は引退したが、そのスキルは今も健在だ。


 年齢は六〇歳になった今では、頭髪は白くなり、やや薄くなっていた。


 舌足らずな声に首をかしげながら、扉を開ける。

 そこには、天使と見間違えそうになる、可愛らしい小さな女の子がいた。


「どうした、お嬢ちゃん。迷子にでもなったか?」


 しゃがんで目線を合わせる。

 孫もこのくらいの年だ。


 ぶんぶん、と女の子は首を振って、筒状の紙を差し出した。

 ムンバイは受け取って広げてみる。


 冒険者ギルドからの紹介状だった。名前と現在のランクが書いてあった。

 紹介状とシャルロットという名の少女を何度かムンバイは見比べた。


「シャルロットちゃん。訓練は厳しいぞ? おっちゃん、泣いてもやめないぞ? いいかい?」


 たまーにいる。

 少し訓練をすれば、認定書がもらえて次の職業に変えられる、と思っている輩が。


 おっかなびっくりの様子で、こちらを見つめたあと、シャルロットはこくんとうなずいた。


「よし、わかった。さっそくはじめよう」


 厳しくしてあげるのも優しさである。

 見込みがない者、力が及ばない者を諦めさせるのも、自分の仕事なのだ。


 ましてや、こんなに可愛い女の子が、冒険なんてする必要はない。

 一〇年後は貴族にだって嫁げるだろう。


 装備や用意はそのままでいいらしい。

 ファンシーでキュートな杖に、ラブリーなマント。


 ムンバイは一瞬、目まいがした。


「そ、そうかい……」


 最近の若い子は、何を考えているかさっぱりだ。


 特殊な魔法結界を張った練兵場にやってくる。

 大勢の冒険者がいるときは、まとめて面倒を見るが、今はシャルロットだけだ。


「まずは、お嬢ちゃんの力を見せてもらう。全力でかかってきなさい」

「……は、はい」


 ムンバイは、【魔法使い】の上級職【ハイキャスター】を極めた。

 その中のスキルには、魔法と物理の防御魔法『アブソリュート』も含まれている。


 攻撃されれば、防げばいい。


 魔力の流れを感じた瞬間だった。


「イッシンジョーのツゴー!」


 変なかけ声とともに、ノーモーションで何かの魔法を放った。


「速っ!?」


 魔力を魔法へ変換せずにそのまま弾丸として放った。

 詠唱し、精霊に語りかけ、魔法名を呼び魔力を具象化する――。


 その基本的な流れを一切無視した攻撃だった。


 が、その程度では、『アブソリュート』を展開するほうがかすかに早い。


 詠唱を口の中で素早く済ませ、魔法名を呼ぶ。


 展開と同時だった。


 バシィィイン!


 半透明のバリアーに、攻撃魔法がぶつかって消えた。


 全力とはいえ、この程度。

 驚かされたが、まだまだ子供……。


 そうやって一安心していた。


「……この程度の攻撃では、おっちゃんの防御は――」


 ……いない。

 さっきまで目の前にいたのに。


 目の端に、かすかに姿を捉えた。


「はあっ!」


 接近を許し、小さな拳を放ってくる。


「おぶふっ!?」


 酒で肥えた腹に一撃を受けた。


「【魔法使い】が、近接戦闘――だと……!?」


 そのまま連打を受けてしまったムンバイ。


「イッシンジョーのツゴー!」

「ちょ、ゼロ距離で――――!?」


 ドオオン!


 攻撃魔法の直撃を受けたムンバイは、錐もみしながら飛んでいく。


「へだばだば」


 ごろごろ、と地面を転がってようやく止まった。


 予想外だった……。

【魔法使い】なら、攻撃は魔法。それを撃ち合うものだと思っていたが。


 自分の攻撃魔法をフェイントに使って、近接戦闘を挑んでくるハチャメチャな【魔法使い】は、はじめてだ。


 おまけに、こちらに配慮した力加減の攻撃……。


「……ま、【魔法使い】だろう、お嬢ちゃんは……。この格闘術はいったい……」

「……おとーさんに教わりました」


「なるほど、お父さんは、なかなかの拳闘士だったんだね……」


 ぷるぷる、とシャルロットは首を振った。


「おとーさん、【騎士】、です……」

「【騎士】ぃぃぃぃぃいいい!? 鈍重な【騎士】が!? あんなこと教えられるの!?」


 戦い方もやけに実戦的だった。

 セオリーを全部無視して、職業としてどう動くかではなく、相手をどう圧倒するかという戦い方だった。


 攻撃魔法も謎だ……。

 ということは……。


「魔法の師匠がいるのかい?」

「カティア先生」

「ああ、カティアちゃんか」


 けど、あの子が基礎を全部すっ飛ばした攻撃を教えるだろうか。


「でも……あの魔法も戦い方も教えてくれたのは、おとーさん、です……」

「またお父さん!? 【騎士】でしょ!? あ、さては、職業を変えた元上級職の【賢者】か何かだったんだろう?」


 きっとそうだ。

 謎が解けてスッキリした。

 でないと、あんな速度で発動できる魔法なんて教えられるわけがない。


 が、ぷるぷる、とシャルロットは首を振る。


「おとーさん、【騎士】がはじめての職業で……他の職業は、まだしたことない、です……」

「お父さん何者!? すごすぎない? 魔法も格闘術も教えることができて……」


 シャルロットの父は、謎でいっぱいだった。


 ぱあっとシャルロットの表情が明るくなった。


「おとーさん、強くて、カッコよくて、すごいっ……です」

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