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2種類のステータスを持つ世界最強のおっさんが、愛娘と楽しく冒険をするそうです  作者: ケンノジ


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森の中での出会い9


 翌日。

 相変わらず早起きな天使様に叩き起こされた俺は、装備屋のイレーヌさんを訪ねていた。


「あらぁ。ヨルくんにシャルちゃん、いらっしゃい。何か欲しい物でもあるの?」


「この剣なんですけど」


 腰に差した竜牙刃を抜いて、俺はカウンターの上にのせた。


「ああ、これ? 刃こぼれでもした?」

「これって、どこから流れて来た代物なんですか?」


「どこからだったかしら。ずいぶんと古い剣だったから、安い値段で買い取ったんだけど……持ち主もそれでいいって言って。使い勝手が悪かった?」


「いえ。むしろ逆で、すごくいいです」


「そう、よかった」


 だからこそ、この竜牙刃は誰が元々持っていて、どうしてここにあったのか知りたかったんだが。

 謎の七変化を見せる(まだ七種も変化してないが)この剣のことを知る手がかりがあればいいと思ったが、空振りに終わった。


 鑑定書もあったらしいが、買い取ったのが相当前のようで今はないそうだ。

 叩き売りされていたくらいだから、紛失していても仕方ない。


「特殊な鑑定結果なら覚えているはずだけど、とくにこれといって珍しいことはなかったと思うわ」


 とイレーヌさんは言う。

 だから、普通の鑑定結果だったんだろう。


「おとーさん、これほしい!」


 じゃんっ、とシャルが背中に隠していた籠手を俺に見せてくる。


「シャルには要らないだろ?」

「カッコいいからほしい」


 目をキラキラさせながら言うのはやめてくれ。


「……どうせ、すぐ飽きるだろう?」

「あーきーなーいーっ!」


 買って買って、とジタバタするシャル。

 見ているだけで微笑ましくなってしまうから困る。


「パパも大変ねえ」


 楽しそうにイレーヌさんは言った。


 けど、今日は買わない。

 おやつとかならいいけど。

 何でも買い与えるのはよくない、とバハムートは学習したのである。


「こんにちは……?」


 店に入ってきたのは、エリーだった。


「剣を研いでほしいのだけど……あ」

「よう」

「何してるのよ?」

「俺の剣はここで買ったんだ。それで色々と訊いててな」


 ふうん、とエリーは鼻を鳴らし、腰に差した剣を鞘ごとイレーヌさんに渡す。


「昨日……カティアに変なこと吹きこまれなかった?」


 そう言われ、俺は昨晩のやりとりを思い出した。

 まあ、ああいうのは、当人がどうしたいかだろう。


「あの人は、変な陰口なんて叩かないよ。それは、エリーが一番知ってるだろ」

「まあね」とエリー。


 親友だったとエリーは言っていたし、カティアさんもエリーの将来を真剣に考えた末に冒険者をやめたって話だ。

 そして、あの受付嬢は、今でもエリーのことを心配に思っている。


 だから、俺にパーティを組んであげてほしい、と頼んできたのだ。


 ソロじゃポンコツだからな、このお嬢さん。


 イレーヌさんが、エリーを見て何かに気づいた。


「あら、あなた、ルブラン家のお嬢様じゃないのぉ?」

「……そうよ……ルブラン家の娘の剣は研げない?」

「そうツンツンしないで。大丈夫よ」

「ありがとう」


 エリーが剣を預け、俺の用件も終わっていたので、一緒に店を出た。

 シャルは、物欲しそうに俺と籠手を何度も見ていたが。


「むう~。おとーさんの、けちんぼっ」

「そうだな、お父さん、けちんぼだから、おやつ買おうと思ったけどやめておくよ」

「あ~! あ~! ダメっ。かって。それはかってっ」


 力いっぱい俺のズボンを引っ張るシャル。

 エリーがシャルを見てくすりと笑うと、真面目な顔をした。


「さっき……冒険者ギルドにいるカティアに会ってきたわ」

「うん」

「謝られたし、私も謝ったわ。私の存在が、カティアのプレッシャーになっていたなんて、思ってもみなかったから……」


 よかれと思って、レベルの低いカティアさんのクエストを手伝ったり、戦いを手伝ったりしたことは、むしろ裏目に出てしまっていた。

 二人のパワーバランスはエリーに大きく傾いて、それは均等になることはなかった。


 エリーを利用してのし上がってやる――。

 カティアさんが、腹の中でそう考えるようなやつだったら、まだよかったのかもしれない。

 けど、二人は本当の意味で親友だ。


 おんぶに抱っこという状況に、カティアさんは耐えられなかったんだろう。


「自分のことをエリーの足枷だって言ってたぞ」

「そんなこと――」


 俺はエリーの言葉を手で遮った。

 わかってる、みなまで言うな。


「エリー、俺たちは、結構いいパーティだったと思わないか?」

「……」

「前衛攻撃タイプの剣士に、前衛防御兼陽動タイプの俺。あとは、火力支援担当のうちの可愛い天使」


 きゅるん、とシャルが首をかしげて俺を見上げる。

 可愛いって単語に反応したらしい。


 なでなで、と金髪の頭を撫でてあげると、ぎゅーっと俺の足にしがみついた。


 なんて可愛いんだ、うちの子は。


『私からもエリザに会ったら言っておきます。ガンドさん親子とパーティを組むように、と。それがいいって理解してても、きっと意地っ張りだから、自分からは切り出せないでしょうから』


 そう言って、カティアさんは笑った。

 さすがは親友。

 性格はよく存じ上げているらしい。


 カティアさんから、エリーを頼まれたからってわけじゃない。

 いや、ほんのちょっとだけあるが、俺が単独行動をする際、どうしてもシャルのことが心配になってしまう。


 そんなとき、シャルの援護と護衛を任せられる職業のニンゲンがどうしても必要になる。


 そいつは、シャルと同じ後衛攻撃職【魔法使い】でも、後衛支援職【僧侶】でも、前衛防御職【騎士】でもない。


 至近距離に迫った敵を撃破、撃退できる職業であることが好ましい。


 エリーは、【戦士】を源流とする中級職【ソードマスター】の冒険者だ。


 俺が目を離したときに、シャルを任せられる適職だった。


「エリー。俺とシャルの三人でパーティを組まないか? ……まあ、よければ、だが……」


 エリーは長い髪をなびかせて、くるっと俺に背をむけた。


「わ、私は……意地っ張りで見栄っ張りで、攻撃はバカ正直で……魔物の知識も全然覚えられなくて……」


 声が泣いていた。

 そのせいか、シャルも泣きそうになっている。

 鼻をひくひくさせて、涙腺大崩壊の寸前だった。


 何でつられてるんだ。


「カティアさんに、そうやってよく怒られてたんだろ?」

「そうよ……」


 エリーが手で目元を触るのがわかった。


「ソロになってから、どれだけカティアに支えられていたのか、痛感したわ」


 ぐすん、と鼻を鳴らしたエリー。


「こんなんじゃダメだって……ずっと、努力してきたけど……性格は、全然直らなくて……パーティを……組もうなんて言ってくれる人は、誰も、いなくって……」


 細い肩を震わせて、エリーは両手で服の裾をぎゅっと握った。


 もう一度パーティを組みたいのはカティアさんだった。


 だけど、それまでソロでいたかったわけじゃない。

 ソロで冒険をしたかったわけじゃない。


「私……一人で、頑張るしか……なくて……」


 エリーはカティアさんと別れてから、ソロで冒険をするしか選択肢がなかったんだ。


「そっか」


 と言って、俺は続けた。


「昨日も森で言っただろ。バカ正直な攻撃だって。ありゃ言い換えれば、伸びしろがまだ十分あるってことだ。俺が、シャルと一緒にエリーを一流の冒険者に育ててやる」


「何様よ……Eランクの、くせに……」


 エリーは涙声で強がった。

 何様って決まってんだろ。


 世界最強のバハムート様だ。


「……も、い、ですか――」


 小さな小さな声で、エリーが何かを言った。


 こっちに向き直ると、泣きはらした顔で、もう一度言った。


「……こんな私でも、いいですか――?」


 俺はエリーに近づいて、すれ違いざまに肩をぽんと叩いた。


「よろしくな」


 エリーが両手で顔を覆って嗚咽を漏らした。

 もらい泣きしているシャルが、びえええ、びええええ、と一緒に泣いた。


 わかった、わかったから。

 シャル、お父さんのズボンで鼻水拭くのはよしてくれ。


 ぎゃん泣きするシャルを落ち着かせて、寄りかかってきたエリーの頭を撫でる。


 どうしてこう、ニンゲンってやつは世話がかかるんだろうな。


 だがその分、ニンゲンは面白く、愛しい。


「ほら。行くぞ。楽しい楽しい冒険だ」


 泣きやんだ娘と小娘を連れて、俺たちパーティは冒険者ギルドへとむかった。

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