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2種類のステータスを持つ世界最強のおっさんが、愛娘と楽しく冒険をするそうです  作者: ケンノジ


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森の中での出会い8


 俺がレパントの町へ帰ったころには、もう日は完全に沈んでいた。


 町の入口に焚いてある篝火のそばで、シャルとエリーが待ってくれていた。


「おおーい!」

「おとーさぁぁぁぁぁん!」


 俺の声に反応したシャルが、こっちへ駆けてきた。


「おかえりなさい」

「うん、ただいま」


 抱きつくシャルを抱っこしてあげる。


「待たせすぎよ」


 安堵の表情をするエリーは、素直におかえりが言えない病気にかかっているらしい。


「こんなとこじゃなくて、食堂かギルドで待ってくれればよかったのに」

「そんなことよりも……ドラゴンいなかった? すごい鳴き声がしたけれど」

「ああ、聞こえたよ。だから、俺も見つからないように慎重に森を出てきたんだ」

「あんな森に竜種がいただなんて……。遭遇しないでよかったわ……」


 ほう、とエリーが胸を撫で下ろした。


「おとーさん、どんなドラゴンさんだった?」

「いや、俺は見てないよ。すごい声が聞こえたってだけだから」

「むう……そっかぁ」


 銀色のドラゴンだと言えば、見に行くって言いかねないから、知らんぷりしとこう。


「あの森は、本当はドラゴンが棲む森なのかもしれない。それを冒険者ギルドに伝えておこう」

「そうね。それがいいわ。無駄な死人を増やすわけにはいかないもの」


 クエスト報告をすることにして、俺たちは冒険者ギルドへとむかった。


 これで、当分はあの森に棲むスライムが不当に狩られることはないだろう。


 冒険者ギルドの扉を開けて、カティアさんを見つける。


「お疲れ様ですー」

「あ。ガンドさん! 遅かったじゃ――」


 言葉を変なところで止めたカティアさん。

 その視線が、まっすぐ俺の隣にいるエリーにむかっている。


「エリザ……どうしてここに……」

「カティアこそ……なんで受付嬢なんてしてるの?」


 シャルが頭にいっぱい?を浮かべて、二人を見比べる。

 

「何? 知り合いなの?」


 俺がどちらともなく訊くと、カティアさんは目を伏せて、エリーがうなずいた。


「話したでしょ? 親友ともう一度パーティを組むって。その相手が、あの子よ」

「へえ。カティアさんと……。ええっ!? 俺はてっきり冒険者と組むもんだとばかり」

「私だってそのつもりだったわよ」


 ん? どういうこっちゃ。

 身の置き所がわからなくなっているカティアさんに、俺はひとまずクエスト報告をした。


 容器をふたつ、カティアさんに渡す。


「私のもお願い……」


 エリーがマジックボックスの中からゴブリン討伐の証と冒険証を出す。


 冒険証を見せれば、違う町で受けたクエストだとしても、報告することができ、その場で報酬がもらえる。


「ええ……」


 カティアさんがギルドの奥の部屋へそれらを持っていった。

 そこに素材やら何やらを鑑定している人が何人かいるらしく、それで本物かどうかを判別しているらしい。


「カティアはここで何をしているの? あの子、本当にギルドの受付嬢してるの?


 状況が呑み込めない、と言いたげに、エリーが俺に訊いてきた。


「見た通りだよ。カティアさんは、俺たち親子の担当受付嬢なんだ。たしかに、以前は冒険者だったっていうのは聞いていたけど……じゃあ、その間一緒に冒険をしていたのは」

「私よ」


 エリーの話では、自分の愛想が尽きたからパーティを解散したって話だ。


「ここらへんにいるって聞いて、色々と町を探していたのだけど……まさか、冒険者から受付嬢になってるなんて……」

「今は、冒険者じゃなく、俺たち冒険者をサポートする巨乳眼鏡のお姉さんだ」


「相変わらず大きかったわね……忌々しい……」


 ギリギリ、とエリーがカティアさんの大きな胸を思い出して歯ぎしりしている。


 しばらくしてカティアさんが戻ってきた。


「たしかに、素材をいただきました。こちらが報酬のお金と食堂の無料券です」

「ありがとうございます。あと、カティアさん、あの森、ゴブリンどころかドラゴンがいたんで、立ち入り禁止にしたほうがいいですよ?」

「そうでしたか。どうやら、先ほど同様の情報が数件入りましたので、冒険者ギルドで審議いたします」


 よろしくお願いします、と言って、俺はカティアさん向かいの席をエリーと変わる。


「……これが、エリザの報酬。三万リンよ」

「ええ……ありがとう」

「ガンドさんたちとは、森で?」

「そう。クエストが大変そうだったから私が助けてあげていたの」


 都合のいいように解釈してやがる。


「こっちだってエリーのクエストは手伝ったぞ」

「ガンドさん、この子、大丈夫でした?」


「全然大丈夫じゃなかった」


「ちょ、ちょっとぉ!」


 俺を肘でつついてくるエリー。


「見立てがいつも甘い上に先走っちゃうのは、変わらないのね」

「ロクに魔物の情報も知らなかったぞ」


 ああ、やっぱり。とでも言いたそうにカティアさんはエリーに目をやる。


「……も、もう放っておいて」


 エリーはバツが悪そうに頬をかいた。


「私は、これで失礼するわ」


 長い髪をなびかせ、エリーは逃げるように去っていった。


「ガンドさん、今夜、お食事ご一緒させていただいてもよろしいですか?」

「はい。俺も訊きたいことがあるので」


 ご一緒と言っても、シャルは疲れてもうウトウトしていた。


 抱っこして、背中を優しくさすってやると、すぐに寝息を立てはじめた。


「シャルを宿に預けてきますから、あとで一階の酒場に」

「はい。すぐに仕事は終わりますので、待っててください」


 熟睡しはじめたシャルを連れて、宿屋のベッドで寝かせ、俺は賑わいはじめた酒場のカウンター席で果実酒を頼んだ。


 昼間は食堂になっている酒場は、冒険者たちが多く集まっている。

 彼らは、武勇伝を大声で語り、笑い話に腹を抱え、わいわいと騒いでいた。


 俺が付け合わせのピクルスを食べながら、ちびりと飲んでいると、私服のカティアさんがやってきた。


 冒険者の視線が一気にカティアさんに集まる。

 最近知ったのだが、カティアさんはずいぶんと若い冒険者に人気があるらしい。


 みんな、カティアさんの相手が誰なのか気になって仕方ないらしい。


「お待たせしました」

「いえ。待ってないっていうか、もう軽くはじめてるんで」


 コップを掲げて見せると、「でしたらよかったです」とカティアさんは眼鏡の奥で目を細めた。


 ひしひし、と嫉妬の視線を感じるが、無視しておこう。

 カティアさんが頼んだ葡萄酒が置かれ、ちびりと口をつける。


 俺は今日出会った、エリザベートという少女と助け合ってクエスト達成したことを教えた。


「そうでしたか。ゴブリンがあの森で増えている、というのは知っていましたが……Eランクで、そこまで戦う必要はないんですよ? 湧き水だって、湧いている場所から採取なんて言ってないんですし」


 そういやそうだ。

 なぜか俺は湧いているところから採取するものだと勘違いしてた。


「カティアさんの番ですよ。エリーとのこと」

「ああ……はい。……三年ほど前です――」


 当時冒険者だったカティアさんは、仲がよかったエリーとパーティを組んでいて、クエストに失敗したのを機に、冒険者をやめようと心に決めたそうだ。

 他に二人いたが、それはそのときだけの間柄だったという。


「あの子は、ガンドさんから見て、どうでしたか?」

「前衛としての才能はあると思いますよ。後衛や、防御タイプのフォローは必須ですけど」

「ですよね。私もそう思います。そう思ったからこそ、あの子とは組めなくなって」


 酒でほんのり頬を赤くしながら、カティアさんは、ぽつりぽつり、と教えてくれた。


「私と組んでちゃ、あの子の才能が活かせないと思ったんです。平凡な私の魔力量では、ダンジョンで長時間戦うことができませんから」


 もしかすると、魔力制御やバランスを口酸っぱく言うのは、その経験から来ているのかもしれない。


「だからって、やめなくても」

「私が冒険者でいると、あの子は私と組むって言い続けるでしょう?」

「ああ、たしかに。今日も言ってた」


 親友の冒険者と組んで苦楽をともにしたい、という気持ちがあったんだろう。


「だからです」


 要は、カティアさんはエリーのためにパーティを解消し、冒険者をやめたってところか。


「見たと思いますが、あの子は、ソロだとろくに力を発揮できないダメ冒険者です」

「はい。その通りです」


 はっきり言いますね、とカティアさんは笑った。


「けど、誰かと組みさえすれば、力を発揮できるんです。……ガンドさん、私からのお願いです。エリザとパーティを組んであげてくれませんか?」

「俺が? エリーと?」


 冗談で言ってるってわけじゃなさそうだ。

 カティアさんがCランクまで上げられたのは、エリーの助けがあったかららしい。

 冒険者試験のときに見たカティアさんのステータスは、レベル11だったから、あながち誇張でもないんだろう。


 エリーの足手まといになってしまっている、とカティアさんが思うのも無理はなかった。


「戦っている様子をお聞きして確信しました。ガンドさんとシャルちゃんの二人は、エリーを大きく上回る才能があります」


「ええ。まあ」


 くすっと、カティアさんは笑う。


「謙遜したり否定したりしないんですね」

「実際、戦えば俺のほうが強いですし」


 言った瞬間、プライドだけが高くて意地っ張りで全然素直じゃない美少女がそばにいやしないかと、あたりを見る。

 けど、彼女の姿がなくてほっとした。

 聞いてたらギャーギャー騒いだだろう。


「今のところ、ガンドさんたちは、職業的にもお互いを引き立てることのできる職業です」


 さすが冒険者ギルドの受付嬢。

 よくわかってる。


「シャルちゃんはわかりませんが、ガンドさんなら、今は世界に数人しかいないSランク冒険者になれる可能性が高いです」


 Sランクって意外と少ないんだな。


「あの子が……エリザがいずれ、あなたたちの足手まといになるそのときまで、パーティを組んであげてほしいんです」


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