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2種類のステータスを持つ世界最強のおっさんが、愛娘と楽しく冒険をするそうです  作者: ケンノジ


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初心者用ダンジョン6


 それからちょっとばかし休憩をして、俺たちは出口へとむかった。


 途中、昔ここで果てた冒険者の物と思しき装備が落ちていた。


 あのエリート・ロックバットの餌食になったんだろう。

 ニンゲンの骨らしきものが転がっていた。


「すげえ装備……!」


 戦士少年が気品のある鞘に収まった剣を手に目を丸くした。


「こっちのローブもまだ使えそうだ」と魔法使い少年。

「結構な装備が落ちてるな。あっちにもある」と僧侶少年は落とし物を吟味している。


 俺がひと目見ただけでも、持ち主のランクはEやDではないことくらいわかる装備品だった。


「おとーさん……」


 しょんぼりしているシャルが、俺を見上げた。


「どうした?」

「お墓、つくる」

「うん。そうしようか」


 優しい子に育ってくれて、お父さん嬉しい。


 竜牙刃に魔力を流す。もしや、と思ったことがあり、試してみた。


 戦闘時にやるときみたいに、柄を握って引き抜くと――。


「やっぱり」


 竜牙刃は、スコップになっていた。


 俺が魔力を流すと、状況に応じて形状を変えてくれるようだ。


 シャルが川べりに咲いていた野花を摘んでいる間、俺はスコップになった竜牙刃で道の脇に穴を掘る。


「「「…………」」」


 遺品を持ち去るつもりだった少年たちが、それを置いて、俺の穴掘りを手伝ってくれた。

 こいつらもいい子だな。

 自分よりもちっちゃなシャルの影響があったのかもしれない。


 穴を掘り、誰がどの骨かさっぱりわからなかったから、遺品もまとめて一緒に埋めさせてもらった。

 墓だとわかりやすいように、墓標の代わりに剣を立てておく。バンダナらしきボロ切れを巻いて、花を添える。


 少年たちが祈りを奉げるのに合わせ、俺とシャルも同じことをした。


『…………ありがとう……』


 どこからか声が聞こえて、あたりを見回したけど、それらしき姿はなかった。

 すると、土や岩に覆われた一部が光った。


「おとーさん、あそこ、ひかった」

「シャルも見えたか? 何だろうな」


 気になった俺は岩をどけ、スコップで土を掘る。


 ガチン。


 硬いものに当たった。


「宝箱だ、おじさん」


 戦士少年と僧侶少年が土を払って、宝箱を引き上げてくれた。


「あける!」

「あ。こら」


 罠の可能性も――。

 って説明するよりも早く、ひと抱えくらいする箱をシャルが開けた。


 中には、赤みを帯びた木の棒が丁寧に納めてある。

 なんじゃこれ。


「これ……レアアイテムの『霊樹の枝』じゃないかな?」

「魔法使い少年、わかるのか?」

「はい。たぶん、そうだと思います。薄く赤い色は結構特徴的だから」


「おじさんがもらってよ」


 と戦士少年。


「え? いいの?」

「オレたち、足引っ張ってばっかだったし。おじさんは命の恩人だから」


 戦士少年の意見に同意する他二人。


「それじゃあ、もらうとしよう」


 何に使えるんだ、これ。

 とりあえず、レアらしいから持っておくに越したことはないだろう。


「おじさんからの忠告だ。少年たち、あまりイイコトばっかりしてると、早死にするぞ?」


 歩きながら言うと、Eランクボーイズが顔を見合わせて笑った。


「おじさん、人のこと言えてないよ」

「俺はいいんだよ」


 強いからな。


「そう、おとーさんは、だいじょうぶ! わたしが、守るから!」


 頼もしいなあ、うちの娘は。


 水路……というかもうほとんど川になっていた。

 それに沿って歩くと、小さな林の中に出た。


「あ、ここ。いつもの場所だ」

「助かったぁ~。おじさん、ここから案内は任せて。町まではすぐだから」


 どうやらよく知っている場所らしい。

 俺は三人に道案内を任せ、林を抜け、町まで一緒についていった。


 入口で俺たちEランクパーティは解散することに。


「おじさん、本当にありがとう!」

「オレ、おじさんみたいに、カッケー大人になるよ!」

「もっと強くなるから! そのときまた会おう!」


 じゃあねえー! とシャルが目いっぱい手を振ると、少年たちは小さく手を振り返した。


「往復で二時間って話だったから、ずいぶんカティアさんは心配したかもな」

「かもね」


 まあ、登録はいつでもいいわけだし、今日じゃなくてもいいか。


「おとーさん、あの道具、変身するの?」

「そっかそっか。忘れてた。まず装備屋のイレーヌさんのところで見てもらおうか」


 俺たちの手元には、ビッグラットの『長歯』がいくつか。

 それと宝箱の『霊樹の枝』。

 あとは、シャルが倒した群れから回収していた『ロックバットの羽』があった。


「どんなのに変身したらいい?」

「ううん……」


 首をかしげて、困ったように唇を尖らせるシャル。

 ぴこん! と何か思いついたらしく、ぱっと顔を上げた。


「かわいいのっ! かわいいのに、なったらいい!」

「可愛いの、か……」


 お父さん、そっち方面はさっぱりわからんからな。


 なったらいいな、と返事をして、イレーヌさんの装備屋にやってきた。


「あらぁ。ヨル君とシャルちゃん、いらっしゃい」


 にっこりと、色気のある笑顔をのぞかせるイレーヌさん。


 どうも、と挨拶を交わし、さっそく本題に入った。


「魔物から得た素材なんですけど、加工して装備にすることってできますか?」

「そうねぇ……これならもしかして……」


 カウンターのむこうにいるイレーヌさんが、ノートのようなものを手繰って何かを確認している。


「霊樹ヤシマの枝だから……杖のいい素材になるわ。職人さんと相談する必要があるけれど、それでどうかしら?」


 杖……ってことは、シャルの武器になるのか。


「かわいく、できますか?」


 背伸びをして、カウンターの上にシャルが顔を出す。


「まっかせて。お姉さんが、とぉぉぉっても可愛い杖になるように、職人さんにちゃんと言っておくから」


 ぱぁぁぁぁぁ、とシャルが嬉しそうに表情を輝かせた。


「おねがいします」

「はい。お願いされました」

「よかったな、シャル」

「うんっ」


 微笑ましく俺たちを見守ったイレーヌさんに、素材を全部預けて、俺たちは食堂で食事を済ませ、宿に泊まった。


 翌日、職業登録をするため、冒険者ギルドのカティアさんを訪ねた。


「昨日いらっしゃらなかったので、心配してました。ガンドさんとシャルちゃんの二人に限って万一なんてないと思っていたんですが……」

「カティアさん、あそこ、初心者用だけど適性レベル10って話じゃないですか」


 俺が言うと、カティアさんはきょとんとした。


「え? たしかにそうですけど……。お二人は、10レベルもいってない……?」


 こくこく、とシャルがうなずいた。


「ええっ!? も、申し訳ありません。あんなに強いから、もうレベルは10を大きく超しているものだとばかり」


 レベルは自己申告制で――っていう説明は以前したらしい。

 うん。さっぱり聞いてなかった。


「ああ……いえ。結局ケガも何もしなかったですし、余裕でしたよ」

「だいじょうぶでした!」

「はあ。よかった……」


 寄り道しなけりゃ、昨日の昼過ぎには戻って来られたんだから、カティアさんの判断は間違いじゃなかったわけだ。実際無傷だし。


 あれこれ初心者用ダンジョンの土産話をしながら、俺とシャルは職業登録を済ませた。


「魔力制御やバランスの基礎は大切なんです。それをご理解いただけたようでよかったです」


 うんうん、とカティアさんは自分で話しながら自分で納得していた。

 まあ、実感したのは俺じゃなくてあの少年たちだったけどな。


「ガンドさんは【騎士】、シャルちゃんは【魔法使い】。とてもいいバランスだと思います。これからも頑張ってください」


「はぁーいっ」


 とシャルが元気よく返事をした。


 それから、いつもの薬草採取クエストだけを受けて、俺とシャルはイレーヌさんの装備屋に寄った。


「あれねえ、二週間くらいかかるみたいなのよぅ。時間かかっちゃってごめんなさいねぇ……けど、物は確かだから安心してちょうだい」


 ということらしい。

 別に急ぐ物でもなかったので、俺たちはFランククエストを消化しながら、のんびりと仕上がりを待った。


 そして二週間後――。


「はぁい。お待たせしましたぁ~」

「はい。おまちしてましたっ」


 装備屋に行くと、布に包まれた杖をカティアさんはシャルに持たせた。


 シャルが目で訊くと、イレーヌさんは微笑みながらうなずいた。


 ぱさっと布を取ると、ファンシーなロッドが現れた。全体的にピンク色で星やハートがところどころ彫られていて……先端に、手のひらほどの星のオブジェがくっついていた。


「どう、シャルちゃん?」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁん、かわいいっ!」

「でっしょー?」


 この星のオブジェ要る?

 お父さんには理解しがたい形状になってるんだが。


 これが、武器……?

 キラキラで、ピカピカで、ファンシーな、いかにも的にしてくださいと言わんばかりの……これが……武器?


 きゃっきゃ、とシャルは喜んで、短い杖を振っている。


「じゃじゃーん。ついでに、マントも作ってもらいました!」


 ついで……ああ、そうか。『ロックバットの羽』か。


 ばさっとイレーヌさんが広げたのは……キラキラでファンシーでラブリーなマントだった。


「はぁぁぁんんん――かわいいーーーっ!」


 シャルは大絶賛だが……これが……マント……だと?


 バハムートとして生き抜いてきた野性の魔物としての勘が、警鐘を鳴らしている。


 ハートや星がちりばめられた……これが? 防具……?


 ピンクや白や黄色のこれが?

 的にしてください、と言わんばかりの、これが?


 ず、頭痛が……する……。


 マントを羽織り杖を持つと、ファンシー&ラブリーな、マジカルでリリカルな愛娘に仕上がった。


「おとーさん、どう?」


 きゅるん、とシャルが首をかしげた。


「うわっ。うちの娘、可愛い……」


 もういいや、何でも。可愛いから。


「わぁーいっ!」


 イレーヌさんの説明だと、杖は魔力制御の補助をしてくれる効果があり、マントは、物理耐性が上がるそうだ。


「落としたらアレだから、名前書いておこうな?」

「やだー!」


 杖を俺から隠すように、シャルは腰をひねった。


「シャルロットの杖だから、シャルロッドにするか」

「変な名前、つけないでっ」

「じゃあ、シャルロット・ガンドをいじってシャルロット・ワンドにするか」

「もおー! おとーさん! 全部全部かわいくないから、ダメ! おとーさんは、さわらないでっ」


 超怒られた……。

 お父さん、良かれと思ったのに……。

 落としたら、泣いちゃって冒険どころじゃなくなるくせに……。


「あと、つまんない」


 ぐふっ。これが一番堪えた。


 うふふ、とイレーヌさんは俺たちを微笑ましく見守っていた。


 料金を支払い、俺とシャルは装備屋をあとにした。


 宝物のように杖をシャルは胸に抱いている。


「ちゃんと使うんだよ? 武器なんだから」

「わかってるー」

「ならいいんだけど。じゃあ装備もそろったし、今日からEランククエストをやっていこう!」

「うんっ!」


 手を繋いで、俺たちは冒険者ギルドを目指す。


 Eランク冒険者にはなったものの、ずっとFランクのクエストばかりやっていた。

 けど、今日から本格的にEランク冒険者として、冒険をしていくのだ。


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