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初心者用ダンジョン4


 ロックバットの素材を回収しようと思ったけど、焦げてしまっていて素材としては使えなさそうだ。


 今回は、Eランクボーイズを助けられたしよしとしよう。


「おじさん、どうしてここに?」


 戦士少年が救世主を見つけたような目で俺を見てくる。


「この隠し通路は、一定の人数、もしくはあの部屋にいた人間の総レベルが一定を超えた場合に開かれるとしたら、と思って」


「そうか。五人でようやく開いた通路なのに、二人が減ってしまえば……」

「大幅な戦力ダウンで……先に進んだ僕たちが危険に……」


 僧侶少年と魔法使い少年が言った。


「そういうこった」


 まあ、確信はねえけどな。


「おじさん、ありがとう。オレたち、おじさんが戻ってこなかったら……」

「いいよ。んなこと。別に大した敵でもなかったしな」

「僕たち、手も足も出なかったんだけど……」


「そんなことよりも、急ぐぞ。まだ入り口は完全に閉じてなかった」


 俺は三人を急かして、シャルをおんぶしたまま入口のほうへと走った。


「あそこ――閉じていってる!」


 魔法使い少年が指さすと、入口はもうほとんど閉じかかっていた。


「シャル、撃てるか?」

「まかせて!」


 シャルがいつも掛け声とともに、魔力弾を放った。


 バン! と閉じかかっていた壁に直撃するが、壁はビクともせずじわじわと修復していっている。


「おとーさん、ダメみたい」

「らしいな」


 シャルの攻撃がぶつかる瞬間、強固な結界のようなものが見えた。

 ニンゲンの目には映らないかもしれないが、俺にはきっちりと映った。


 ということは、俺が劣化版ブレスを吹きかけても弾かれそうだ。


「オレがこじ開ける!」と意気込んだ戦士少年が剣を抜いて壁に斬りかかるが、これもダメ。

 あっさり剣が弾かれた。


 それを最後に壁は塞ぎ切ってしまい、俺たちは帰る道を失った。


「どうするんだよ……」

「僕たち帰れないの?」

「こんなことなら、寄り道なんてしなけりゃよかった……」


 不安そうに口にするボーイズ。


 ぽかん、ぽこ、ぽかん! と、俺は三人の頭を叩いた。

 なんで叩くんだよ、と不満を言うが、無視をした。


「アホか。考えてみろ。ここは冒険者用の小部屋にあった隠し通路で、長いこと使われた形跡はないが、たしかに道がある。で、自動的に入口は閉まるようになっている。こりゃなんだ? 単なる嫌がらせか?」

「そうじゃないの?」


 はぁ……嘆かわしい。

 こんなおぼっちゃんたちで冒険者としてやっていけるのかね。


「はいはい!」

「はい、シャルちゃん」

「出口が、どこかにある! とおもう」

「正解。うちの娘、天才」


 あるのかどうかは知らないが、その可能性は高い。

 でなけりゃ、ここに迷い込んだやつは全員死んだことになる。

 入口の鍵になったのは、俺たち冒険者。それに反応してるってことは、ここの隠し通路だって冒険者用に作られている可能性が高い。


「じゃあ、進むしかないってこと……?」と僧侶少年。

「お、おじさん、オレたちも一緒について行っていい?」


 不安そうに訊いてくる戦士少年。断られたらどうしよう、とでも言いたげな魔法使い少年が、俺をすがるように見つめてくる。


「何言ってんだ。俺はそのつもりで戻ってきたんだ。一緒に地上に帰ろうぜ」

「かえろうぜ」


 と、シャルも背中で俺の真似をする。


「「「おじさぁぁぁぁあん……」」」


 行こう、と俺たち親子を先頭に、即席パーティは隠し通路を奥へと進んでいく。


――――――――――

種族:人間 ヨル・ガンド(状態:変身中)(光)

職業:騎士

Lv:7

スキル:劣化版ブレス

大盾の心得(敵の標的になりやすいが、物理防御力上昇)

――――――――――


 へえ。

 ロックバットを倒したからレベルが上がってる。それと、スキルをひとつ覚えた。

 シャルを守りたい俺からすれば、標的になりやすいってのは、持ってこいの効果だ。


 俺と同じレベルだったシャルはどうだろう?


――――――――――

種族:人間 シャルロット・ガンド(闇)

職業:魔法使い

Lv:7

スキル:イッシンジョーのツゴー・下級格闘術

ダークフレイム(闇の炎を放つスキル)

――――――――――


「シャル、スキル何か覚えてるぞ?」

「ほんとーーーー!?」


 ぐいぐい、とシャルが手を引っ張ってくる。


「うん。ダークフレイムってスキルだ」

「ダークフレイム? あ、呪文がわかるよ!」


 お? そうなのか?


「シャルちゃん、新スキルおめでとう。後衛の魔力を消費するスキルは、覚えると詠唱呪文が自動的に覚えられるんだよ」


 と、魔法使い少年が説明してくれた。


「だってさ」

「おとーさん、はやく、はやく、敵をやっつけよう!」

「そうだな。ここにいるやつ、全員倒して出ようか」


「すみません、それは勘弁してください……」


 俺は、Eランクボーイズ三人の覚えているスキルを聞いた。


 戦士少年は、筋力アップ。物理攻撃力を上げられるそうだ。

 僧侶少年は、ヒール。体力が少し回復するという。

 魔法使い少年は、ファイアボール。火の弾を飛ばす初級魔法だ。


 それぞれまだ一つしか持っていないらしい。

 出てくる敵のレベルは上のやつがほとんどだし、戻ってきて本当によかった。


 三人を攻撃していたロックバットがほとんどだったのか、道中、ロックバットどころか他の魔物にも出会うことなく、俺たちは奥へ奥へと進んでいった。


 歩いている最中に、ふわり、と肌を撫でる何かを感じた。


「ん、これは……風の流れか……?」

「それがどうかしたんですか?」

「風の流れがあるってことは、空気孔があって、そこから空気が流れてるってことだ」

「……?」

「要するに、その空気孔が出口かもしれない」


 おお、と少年たちは喜んだ。


「おとーさん、空気のながれなんて、わかるの?」

「わかるよ。穴倉でずっと暮らしてたんだから」

「? あなぐら??」


 おっと、ちょっと口が滑っちまった。


 みんなにはわからないらしい空気の流れに従い、さらに歩いていくと、通路の脇が水路になっていた。

 水路の先が出口なのだろう、というのは、Eランクボーイズもなんとなくわかったらしい。


「マジで助かったぁ……。オレ、ほんと、今日死んだかと思った……」

「僕も……モテることも、金持ちになることもなく死ぬんだと思ったよ……」

「おじさんのおかげだ。ありがとう」


「おいおい。助かった気になってんじゃねえぞ? まだ気を抜くな」


「え。でも、もう出口なんじゃ……」

「俺はそんなことひと言も言ってねえだろ」


 水路と通路はゆるやかにカーブしていき、俺は小さかった気配が大きくなっていくのがわかった。


「シャル、おいで。俺の背中に」

「うん」


 しゃがんだ俺の背中に、シャルがぴょんと飛び乗った。

 たぶん、俺の背中が一番安全だ。


 嫌な感じがする。


 歩いていくと徐々に光が差し込み、少年たちのテンションも上がった。


「出られる……出られるよ!」


 魔法使い少年がそう言った直後だった。


 今までぼんやりとしていた気配が、はっきりとしたものになった。


 頭上。何かいる。


「上だ!」


 ギャキャァァァ!


 鳴き声を響かせ、黒い塊が真上から振ってきた。


 その黒い塊が巨大なロックバットだと気づくのに、時間がわずかにかかった。

 ニンゲンのように腕が二本生え、長い牙をのぞかせ赤い目を光らせている。

 その姿は悪魔にも似ていた。


「え――?」


 俺の注意に三人が反応した。

 だが、遅かった。


 人間ほどの大きさになったロックバットは、腕を振るう。


 ドコン、と魔法使い少年に拳が直撃し、壁に叩きつけられた。


「ギャキャァァァァァァァァアアア!」


 ばさり、と翼を一度はためかせ悠々と着地し、俺たちの前に立ちふさがった。


――――――――――

種族:魔鳥類 エリート・ロックバット(土)

Lv:31

スキル:噛みつき・吸血・対地有利・硬化・初級格闘術

――――――――――


「「う、うわぁあああああああああああ!?」」


「落ち着け! 戦士は僧侶の護衛! 僧侶は魔法使いの治癒! 急げ!」


「「は、はいいい!」」


 二人は、吹っ飛ばされて壁にもたれかかっている仲間のところへ急いだ。


「おとーさん……こわい……」

「シャル、ずっと目をつむってていんだぞ? すぐ終わるから」

「……でも、わたし、がんばる。おとーさんの、役に立つってきめたの」


 おんぶしたままでいると、


「イッシンジョーのツゴー!」とシャルが魔力弾を撃つ。


 ギャ! と素早く飛んでシャルの攻撃をかわした。


「あ……ハズレちゃった……」

「シャル、こっちに来るぞ?」


「闇の精よ――」


 お? 新魔法の詠唱ってやつか?

 お父さん、シャルのちゃんとした魔法見てみたいぞ……!


 バサッとエリート・ロックバットが翼を動かし、こっちへ飛んできた。


 敵意満々。魔法を撃たせまいとしていた。


「ギャキャキャ!」


「まだうちの娘が詠唱してるでしょうが!!」


 殴りかかってきたロックバットに応じて、俺も拳で応戦。


 バチン、と拳と拳がぶつかった。


 硬!? ロックバットの硬化程度のくせに……。

 あ。

 そうだ。

 ニンゲンの体だから、そりゃロックバットでも硬く感じるか。


 そうこうしている間に発動準備が整った。


「――闇の炎をこの手に! ダークフレイム!」


 肩越しにシャルが闇魔法攻撃をする。


 闇色の炎にも似た魔法が飛んでいく。


 標的のロックバットの付近まで飛ぶと、五つに分離して細かくなった。


「ギャ!?」


 焦ったエリート・ロックバット。

 すぐに翼で自分の体を覆い隠した。


 五つに分かれたシャルの攻撃は全部当たったが、エリート・ロックバットに防御されてしまった。


「むうう……」

「シャル、見てみろ。防御した翼がちょっとボロくなってる」

「もういっかい!」


 俺はシャルを下ろす。見たところ、接近して攻撃する以外に手はないらしい。

 それなら、俺が引きつけていればいい。


「よおし、かかってこい。命知らずな下等モンスターめ」


 理解できたのかどうかわからないが、俺のほうをむいて接近してきた。


 竜牙刃に魔力を流し引き抜く。槍か剣だったら、槍のほうがありがたい。


 いつかの古い刀身が輝くと平べったくなり縦と横に広がった。


「ギャキャ!」


 ごおん、と強い衝撃を変形した竜牙刃で受ける。


 あれ……? 槍でもなく剣でもなく……。

 これ、盾じゃね?


「キャキャ!」


 ごんごん、とエリート・ロックバットは盾に構わず俺に攻撃を加える。


 よし、そういうことなら盾で相手をしてやろう。


 これで……殴る!


「オラァアア! 盾ナメんなよコラァアアアアア!」


 ぼん、ごん、と俺は拳の先につけた武器感覚でエリート・ロックバットを殴っていく。


「ギャ!? ギャ!?」


 ダメージはそれほどでもないらしい。まあ、盾って武器じゃないもんな。

 その代わり――。


「ダークフレイム!」


 どおん、とロックバットの背中にシャルの攻撃魔法が命中。

 エリート・ロックバットは悲鳴を上げた。


 さらにシャルが次の攻撃準備に入ろうと、呪文を唱える。


「ギャギャ!」


 エリート・ロックバットがシャルのほうをふりむいた。


「まだウチの娘が一生懸命詠唱してるところでしょうが!!」


 盾で頭を思いきり殴った。


 ……あとそれとな!

 この神竜バハムートをシカトするとは!


「お宅はどういうご教育だったんですかねえ!?」


 ゼロ距離で喰らいやがれ!


原初竜炎(オリジンファイア)】! ――の劣化版。


 素早く吸って、俺はエリート・ロックバットにブレスを吹きつける。


 同時に、シャルが放った闇魔法が直撃した。


 ドオン! という音とともに爆炎が目の前で爆ぜる。


 同時攻撃になすすべなく、エリート・ロックバットは吹き飛び水路に落ちた。


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