初心者用ダンジョン3
それから、俺たちと同じEランク冒険者らしき少年が三人、この『決意の泉』にやってきた。
背丈で大中小の三人だ。
一番背の高い少年が仲間を振り返った。
「おっし! オレは【戦士】だ! 【魔法使い】と【僧侶】にしたか?」
「うん。僕は【魔法使い】。話し合っていた通り」
小柄な少年が言うと、中くらいの少年は「【僧侶】にしたよ」と言う。
それから、僧侶少年が俺とシャルに気づいた。
「あの、ここに来るまでに魔物に遭遇するから気をつけろって、ギルドの担当者に言われてたんだ。でも全然魔物いなくて……もしかして、おじさんたちが?」
「ああ。たぶん俺と娘のせいだろう」
「へええええ」と、戦士少年が感嘆の声を上げた。
「見た感じ、オレたちと同じEランクでしょ? おじさん、ありがとうな。そのおかげでオレたち楽できたよ」
同意するように魔法使い少年がうなずく。
「ビッグラットは、Eランクになりたての駆け出し冒険者には、手強いから。群れるし、前歯で噛まれれば大けがするし。だから、十分に鍛錬してレベルを上げてから挑むようにって」
俺とシャルは顔を見合わせる。
「……あの丸っこいの、そんなに強いの?」
「おじさん、ずいぶんレベルを上げてきたんだね」と僧侶少年。
上げたのか? それとも上がったのか?
「ああ、まあレベル5だしな」
少年たちは2や3なんだろう。
「はぁああああああああああ!? レベル5!?」
「おじさん……僕たち、12レベルなんです」
「適性レベルは10以上だったはず。職業とそのスキルがあれば別だけど、無職のFランク上がりのルーキーが、レベル5じゃここは自殺行為だと思うんだけど……」
そんなこと言われても。
俺は鼻くそをほじりながら、良いリアクションをしてくれる少年たちにあれこれ質問責めされた。
「もしかして、超スゲー武器持ってたり?」
「こっちの子が何か特殊な魔法を使えたり?」
「道を真っ黒にしたのってもしかして?」
ウェイウェイ、Eランクボーイズ。
そんなキラキラした目でバハムートを見つめるでない。照れる。
人見知りするシャルは珍しく隠れておらず、俺が大人気な様子を見て、えへんと得意げに胸を張っていた。
「わたしのおとーさん、すごいんだよ」
なでなでと俺はシャルの頭を撫でてあげた。
これも何かの縁ということで、ボーイズと一緒に地上へ出ようということになった。
みんなで小部屋を出ようかというとき、薄緑色の魔力パルスが壁に走った。
「ん?」
ボコボコ、と壁が崩れる。その奥は空洞で……。
「……道?」
通路のようだった。
どうして今になって?
通路を見たところ、長年使われた形跡はない。空気は淀んでいて、気配も通ってきた道よりも不穏なものを感じる。
俺の強い魔力に反応し続けて壁が崩れたのか?
足下に転がる壁の一部は、詳しくはわからないが、魔法的な材質のものだった。
じいっと見ていると、下のほうから崩れた壁が少しずつ元に戻っていっている。
「これ、隠し通路ってやつか!?」
「みたいだね」
「どうする」
「行くに決まってんだろ!」
ボーイズは意気込んでいるけど、正直俺は乗り気じゃない。ここには職業を決めるために来ただけだし。あとは帰って冒険者ギルドに登録するだけだ。
「俺たちは寄り道せずに帰るから」
「え、おじさん、行かねえの?」
「奥にとんでもなくレアなアイテムがあるかもしれませんよ?」
少年たちは意外そうにした。
「俺たちはいいよ。またどこかで会ったら、奥に何があったか聞かせてくれ」
じゃあ、と別れ、来た道を辿る。
「シャル、行きたかったんじゃないか?」
「なんとなく、なんとなくいきたくなかった」
ふうん。何かの勘が働いたのか。
「…………」
「おとーさん?」
あの壁、本当に俺の魔力に反応したからなのか……?
壁が崩れる仕掛けが他にもあるとしたらどうだ。
小部屋にいる人数、もしくは総レベルが一定数以上で道が開く、とか。もしくはその両方の条件を満たしたとき、とか。
もしそうだとすれば、少なくとも五人以上か少数精鋭で進むことが前提のルートになる。
「心配だな、あの少年たち。……ちょっと様子を見てこよう。大丈夫そうならお節介せずに帰ればいいし」
「うん。わかった」
俺たちはまた『決意の泉』がある小部屋へ戻る。
「シャルはここで待ってなさい」
「ヤ! わたしも、おとーさんの役にたつの!」
むむむむむ。
俺が悩んでいると、シャルも同じように「むむむむむ」と俺を見つめた。
俺と一緒のほうが安全なのかもしれない。
こっちが折れることにして、シャルと手を繋ぐ。
さっきまで開いていた壁は六割ほど塞がっていたけど、中へは難なく入れた。
「うわぁあああああああああ!?」
悲鳴が奥から聞こえてきた。
「急ごう」
俺はシャルをおんぶして走る。
隠し通路を進むと、先ほどの小部屋くらいの開けた場所に出た。
「キャキャ! キャキャ!」
――――――――――
種族:魔鳥類 ロックバット(土)
Lv:20
スキル:噛みつき・吸血・対地有利・硬化
――――――――――
バサバサという羽音を鳴らし、コウモリ型の魔物が少年たちを襲っていた。
その数は一〇を超している。
「クッソ、ざけんな! こっち来るな!」
戦士少年が剣を振るうがロックバットにかすりもしない。空を飛べる敵に剣は相性が悪い。
こういうときに後衛が援護するのだが――。
ああ、やばい。
後衛の僧侶少年にも魔法使い少年にもロックバットがたかっている。
魔法で援護できる状況じゃない。
カティアさんが最低限の近接戦闘力が必要って言っていた理由がよくわかった。
「シャル、行くぞ!」
「うん、まかせて! ――イッシンジョーのツゴー!」
シャルの訓練しまくった魔力弾がロックバットに直撃する。一、二、三、と連射し次々に撃墜していく。
よし。俺も。
「死にたくなかったら伏せろ!」
少年たちは俺のほうを見る暇もなく、声に反応して一斉に地面に伏せた。
ビッグラットをやったときと同じ放射型ブレスだ。
喰らえ――!
【原初竜炎】! ……の劣化版。
吸った直後に息を思いきり吐き出した。
黒く輝く炎が空中に放射される。
「キャキャキャ!?」
ボッ、ボッ、ボ、ボボボッ、と次々に俺のブレスにロックバットが呑み込まれた。
黒炎に包まれて次々に地面へ落ちていく。
ボフォォオウ……。
吐き出し終わると、ロックバットの燃えカスだらけになった。
「な、何が……?」
Eランクボーイズが顔を上げた。
「はぁ……危ねえな……。よかった戻ってきて」
「「「おじさぁあああああん」」」