表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/76

初心者用ダンジョン2


 改めて俺たちは扉を開けて、初級ダンジョンへと入る。


『導きの地下へようこそ』


 と書かれた札が立っていた。


『導きの地下』がこのダンジョンの名前らしい。


 俺たちが進めば、近くにある特殊な松明が数メートル先まで灯り、通り過ぎると消えていった。


「ふわぁ~! ふしぎ!」

「たぶん、俺たちの魔力に反応して明かりをつけてくれているみたいだな」

「あの明るいの、すごーい!」


 初心者用だけあって、そういうところは親切らしい。


 逆に言えば、明るいということはニンゲンがいると知らしめていることになる。


「キ! キキキ!」


 軋む鳴き声を上げて、ボールのような丸っこい体をした大型の鼠が現れた。


――――――――――

種族:魔獣 ビッグラット(土)

Lv:4

スキル:噛みつき

――――――――――


 特徴的な長い前歯は注意が必要だ。


「おとーさん、おとーさん!」

「おう! 敵だ。あいつ、俺たちを噛む気満々だぞ!」

「おとーさん、これ、かわいい! 飼っていい?」


 丸っこいフォルムだから、たしかに愛嬌はあるが……。


「だめです。ウチに魔獣を飼うような余裕はありません」

「えぇ~。ケチ」


 キキィ! と鳴き声をあげて、俺のほうへびょーんと飛びかかってくる。


「うおわ!?」


 ちょっと驚いて、反射的に手で払ってしまった。


 めきょっ! と、俺の張り手がビッグラットの顔面にめり込む。

 丸っこい体が吹っ飛び、凄まじい速度で壁にぶつかった。

 尻と尻尾と後ろ足だけを出したビッグラットは、壁のオブジェになってしまった。


「…………」


「おとーさん……マルちゃん、壁にはいっちゃったよ?」


 もう名前つけたのか。

 や、やばい。シャルの目がウルウルしている。


「だ。大丈夫大丈夫。マルちゃん一号は、こうして壁にめり込んだけど、他にもいっぱいいるから。もう、入れ食い状態だから。俺たちを大歓迎だから」

「ほんと?」

「本当本当」


 そんなことを言いながら、シャルをなだめて涙を一回引っ込めてもらう。


 壁には、ご親切にダンジョンの地図が描いてあった。

 さすが、初心者用。色々とご配慮いただいているようだ。


 地下二階へ進み、次の階段を探していると、「キ、キキ……!」と鳴き声が複数聞こえた。


「マルちゃん……?」


 声に反応したシャルが、ぱぁぁぁと嬉しそうな顔をした。


「キキキッ、キー!」


 一、二、三……全部でビッグラットが五体。集団のお出ました!


 短い手足をサカサカと動かし、勢いがつくと丸くなってこっちへ転がってきた。


「マルちゃん、ボールみたぁーい!」


 きゃっきゃ、とシャルは大喜びだった。

 我が娘を楽しませてくれるのか。ご苦労であるな、ビッグラットたちよ。


「キキィッ!」


 びょいん、とシャルの前で跳ねると、前歯を剥いてシャルに攻撃をしてくる。


「それは許可せん!」


 バシコーン!

 俺はまた平手をビッグラットの顔面にめり込ませ、吹っ飛ばした。


「お、おとーさん、今、マルちゃん、わたしを噛もうとした……!」

「マルちゃんはな、そうやって今までニンゲンを傷つけてきたんだ……」

「マルちゃんは……退治しなきゃ……!」

「そういうことだ」


 俺たちの戦闘態勢が整い、転がってくるビッグラットたちを迎え撃つ。


「キィーッ!」

「たあ!」


 ビッグラットが鳴き声を上げて、シャルは掛け声を上げた。


 どふっ!


 シャルのキックがビッグラットにクリーンヒット。一体を倒した。


「シャル、魔法……イッシンジョーのツゴーは使わないのか?」

「魔力はなるべくつかわないって、カティア先生が、いってた!」

「おぉ……!」


 我が娘の成長は著しいな。ちょっと前はすぐに魔法を使いたがったのに。


 奥のほうから、さらにゴロゴロとビッグラットたちが転がってきた。

 仲間でも呼んだのか?


「本当にいっぱいきたー!」


 シャルが目を丸くしているところに、俺はちょっとだけ息を吸い込んだ。

 シャルの戦闘経験を積ませるのもいいが、十数匹はさすがに多い。


 俺は劣化版の火炎を吐き出す。

 一点に飛ばすものではなく、放射型のブレスだ。


 ブフォァア――!


「キィイイイ!?」


 こっちへ転がってくるビッグラットは、ブレーキもかけられないまま、ブレスに飛び込み餌食になっていった。


 俺の攻撃が終わると、その部分だけ塗り潰されたように黒焦げになり、道にはビッグラット十数匹が炭になっていた。


「おとーさん、すごーいっ。あんなにいっぱいいたのに! まっくろ!」

「だろう? もうちょっと火加減調節したら食べられたんだけど」

「食べられるのー!?」

「うん。捕まえてよく食ったぞ」


 バハムートのときに、燃やしておやつ感覚でつまんで食ってた。

 ニンゲンの口に合うかはわからんが。


 つんつん、シャルはビッグラットだった炭を触ると、素材である『長歯』をいくつか回収していた。


「いっぱいとれた!」

「うん。帰ったら、装備屋のイレーヌさんに訊いてみよう。何か作れるかもしれない」

「アイテムがつくれるの?」

「歯は、体の中で一番丈夫なんだ。だから燃やしても残ってるだろう?」

「うん」


「これだけじゃ難しいかもしれないけど、組み合わせによっては、アイテムに変身するかもな?」


 ほぇぇぇぇぇ、とシャルは『長歯』を詰めた袋を見つめた。


 この姿で食べてみて美味なら、ニンゲンでも食べられるってことだ。

 次に現れたら、いい感じに焼いてみよう。


 と思ったけど、ビッグラットは現れなかった。

 悠々と最下層の地下三階へ下りて、壁にあった地図で『決意の泉』の場所を確認する。


 道順を確認して歩いていくと、薄暗い道に淡い光が差し込んでいた。

 そちらへ進んでいくと、光は徐々に強くなり、小さな部屋へ出た。


「おとーさん、ここ?」

「うん。ここみたいだ」


 小部屋の中央に、淡く輝く水たまりがある。

 魔力とも違う、何か不思議な力を感じた。


「この水をすくって飲むみたいだ」


 シャルの前に、まず俺が試してみる。

 縁に膝をつき、両手で泉の水をすくってひと口飲んだ。


――――――――――

冒険者よ。

貴方の道をいずれかから選び、示しなさい。

【戦士】【騎士】【魔法使い】【僧侶】

――――――――――


 頭の中にこんなメッセージが浮かんだ。


 シャルはどうするか迷っていたけど、俺は決めていた。

【騎士】だ。


――――――――――

冒険者よ。

貴方の決意、確かに聞き届けました。

――――――――――


 声が聞こえると、隣でシャルも同じようにしていた。


「……わたしは……【魔法使い】にする!」


 うん。それでいい。シャルは、俺のことなんて気にしなくていい。

 自分がやりたいように、進みたい道を進めばいい。

 困ったことがあれば、お父さんがなんとかしてやる。


 ぶうううん、と泉の中にステータスが浮かんだ。


――――――――――

種族:人間 シャルロット・ガンド(闇)

職業:魔法使い

Lv:5

スキル:イッシンジョーのツゴー・下級格闘術

――――――――――


 前はなかった職業という項目が追加されていた。


 カティアさんを見たときになかったのは、もう冒険者をやめていたからだろう。


「おとーさん、これ! みて! 【魔法使い】になったよ!」

「うん。お父さんは【騎士】だ」


 思えば、ニンゲンとしてのステータスを見るのははじめてだ。


――――――――――

種族:人間 ヨル・ガンド(状態:変身中)(光)

職業:騎士

Lv:5

スキル:劣化版ブレス

――――――――――


 まだレベル5なのか。

 バハムートとしての俺のレベルは347だ。


 ということは、俺は本来のバハムートのステータスと、ヨル・ガンドとしてのステータスの二つがあることになる。


「おとーさん、がんばろうね!」

「うん、頑張ろうな!」


 俺は、まだまだ強くなれる……!


 その可能性が、俺をワクワクさせた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作 好評連載中! ↓↓ こちらも応援いただけると嬉しいです!

https://ncode.syosetu.com/n2551ik/
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ