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親子は魔力の基礎を教わる


 数日後。


 コンコン。コンコン。

 扉を叩く音にシャルが反応した。


「おとーさん、だれかきたよ」


 シャルが玄関を指差して言うので、俺は立ち上がって玄関にむかい、その扉を開けた。


「こんにちは、ガンドさん」


 そこにいたのはカティアさんだった。

 仕事の合間を縫って、俺たちのところへ教えに来てくれることになったのだ。


 今日は、冒険者ギルドの制服ではなく私服だった。


「こんにちは。わざわざありがとうございます。それと、休みの日にすみません」

「いえ。これもお二人のためですので」

「シャルー? カティアさん来たよ」


 どこにいるのか、と探すと、廊下の角から顔を出していた。

 誰が来たのかわからないから警戒していたらしい。


「シャルちゃん、こんにちは」

「こんにちは」


 警戒を解いたシャルがその場でぺこり、と頭を下げた。


「じゃあ、さっそく外でやりましょうか」

「外ですか? 講義か何かをするもんだとばかり」

「習うより慣れろ、です。それに、お二人はすでに魔法が使えているので、小難しい理屈は要らないでしょう」


 なるほど。

 魔法の歴史だの魔力がどうしたら作られるだの、そういうことを聞かされると、たぶん俺は居眠りする。


 俺とシャルが特訓をした原っぱに三人でやってきた。


「覚えたら、俺でもニンゲンの魔法が使えるようになる……?」

「当たり前じゃないですか。なんですか、ニンゲンの魔法って」


 くすりとカティアさんは笑う。


「見たところ、お二人は魔力任せで魔法を使っています。これじゃ、すぐに疲れてしまいます。このままでは深いダンジョンに潜ったり危険な場所へむかう長時間のクエストは自殺行為です。では、どうすればいいと思いますか?」


 くいっと眼鏡を上げて、カティアさんは俺たちに尋ねた。


「もっと魔力を増やす」

「ぶっぶー」

「つかれないように、魔法をつかうー!」

「はい。シャルちゃん正解」


 やるな、娘よ。


「自分の魔力をきちんとコントロールできるようになれば、魔法によって使うべき魔力量がわかるようになります」


 へえ、と俺とシャル。


 カティアさんが試しにやってみせる。


 教えてくれるだけあって、カティアさんの魔力の流れはすごく静かで穏やかだ。

 手のひらに魔力を集めていくと、虹色の膜で覆われた球体ができあがった。


「これが、魔力をコントロールするということです。一点に集めて、それをとどめる。コントロールできなければ、一点に集められませんし、球体を維持することもできません。この球体をどこまで小さくできるかで、どれだけ制御できているのかがわかります」


 手の平より少し大きい球体をフッと消した。


「では、やってみてください」


 わかったぞ。なんとなく。

 スーっと集めて、じわじわっとやればいいんだな?


「魔法を使う訓練の初級も初級。で、す、が。魔力任せで基礎をすっ飛ばして魔法を使っていたお二人には、一番難しいかもしれませんね」


 微笑みながらカティアさんは人差し指を振った。


「むむう」


 眉間に皺を作るシャルが、手の平に魔力を集めていく。

 徐々に空気が虹色に色づき、半透明な球体ができた。


「できたっ」

「えぇぇ……もう……?」


 カティアさんのそれよりも、ちょっとだけ歪な形だったけど、できている。


「わたし、集中して球体を維持するってだけで一年近くかかったんですが……。ま、まあけど? シャルちゃんのは、形がヘンなので、まだまだです」

「むう」


「これから訓練をして、もっとコントロールできるようになれば、きれいな球体にできますからね」

「はぁーい」


 と返事をしたシャルは、また一からコントロール練習をはじめた。


「さて。シャルちゃん以上に膨大な魔力を秘めているであろうガンドさんはどうでしょう? 内に秘める魔力量が多ければ多いほど、コントロールも難しく、雑になりがちです」


「そうなんですね」


 魔力のコントロール、ねえ。


「さあ。やってみてください」

「もうやってますよ?」

「え。また、冗談ばっかり」

「いやいや、冗談じゃないですって。これ、見てください」


「そんな集中もせずに雑談しながらだなんて……それって、無意識に呼吸しているのと同じレベルですよ?」


 呼吸するのと同じくらい、バハムートにとって魔力を使うというのは、自然なことだ。


 んー? とカティアさんは俺の手をのぞきこむ。


「何もないじゃないですか。センスのいいシャルちゃんもそうでした。慣れないうちはきちんと集中してないと維持するのも難しくって――」


 俺は手の平に出していた魔力の球体を、わかりやすいように指先のほうへ転がす。


「よおく見てください、これ」

「えっ……?」


 そう言われて、はじめてカティアさんが俺の指先を凝視した。

 微生物がそこにいるかのように、じいいいいっと見つめている。


 これ、練習することか?


「え。ちっちゃ! 嘘っ!? えぇぇぇぇぇ……小さすぎぃぃ……」

「たしか、小さければ小さいほどコントロールできてるんでしたよね?」


「……」


「カティアさんは、一年かかったんでしたっけ」


「…………」


「カティアさんもこれくらいの大きさにできますよね?」


「……さっき見せた、ボールよりも少し大きい球体が限界です……すみません……」


「逆にすみません」


 俺の球体は、極小で非の打ちどころのないきれいな球体だった。


「あんなに小さく……。私、四回人生やり直してもできそうにないのに……」


 カティアさんがヘコんでしまい、座り込んで膝を抱えた。


「もう、怖い……才能怖い、才能怖い……」

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