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スライム討伐クエスト


 冒険者ギルドにやってくると、いろんな人が口々に噂をしていた。


「また出たんだってよ」

「出たって何が?」

「バッカ、おまえ、知らねえのかよ。ドラゴンだよ、ドラゴン」

「ど、ドラゴン!? この前もそこの平原に出たって話じゃねえか」

「ああ。たぶん、おんなじヤツだ。色が銀だからシルバードラゴンってみんなが呼んでるぜ」


 この前キレて元に戻ったときに誰かに見られていたらしい。

 また出た、ってことは……あれか。

 俺が深夜、バックンを殲滅するために空を飛んでたから、それも見られていたらしい。


 いやいや。どうも、お騒がせしております。


「銀竜か……強そうだな……」


 銀竜じゃなくて、神竜なんです。


「そんじょそこらの竜種とは一線を画すっていうか、そんな雰囲気があった。この町、そのドラゴンに狙われてるんじゃねえかって話さ」

「おいおいおい。だったら討伐クエスト、出るんじゃねえのか?」

「かもな」


 …………。


「おとーさん、どうしたの? 汗いっぱいかいてる」


 シャルがハンカチで俺の汗を拭いてくれる。


「ああ、うん。ありがとう」


 シャル。お父さんな、討伐対象になるかもしれんぞ?


 担当のカティアさんを見つけ、彼女のむかいの席に座る。


「こんにちは。ガンドさん、聞きましたか? また銀竜が出たんですって」

「そ、そうでしたか、みんなが噂してますね」

「ああ、けど、安心してください」


 にこり、とカティアさんは微笑む。


「討伐クエストが出たとしても、依頼されるのは相応のランクの冒険者様なので、ガンドさん親子は大丈夫ですよ」

「そ、それはよかったー」


 棒読みで俺は笑顔を作っておく。

 突発的に解除されるのは、キレたときだけだ。だから心穏やかに過ごさないと。


「やっつけちゃ、だめ!」

「え、どうして?」


 シャルが反対すると、カティアさんが首をかしげた。


「カッコいいから!」

「カッコいいって……シャル、見たことないだろう?」

「シルバードラゴン……名前がカッコいい……!」


 シャルが味方なら世界を滅ぼせる気がする。


「それと、悪さしてないからやっつけちゃだめっ」


 うちの子は、とってもいい子に育ちました。バハムート的教育の賜物だ。

 けどそのドラゴンがバハムートだって知ったら、シャルは俺の敵になってしまうんだろうか。


 あの物語に出てくるバハムートは、黒かったもんな。ビジュアルが。

 あと悪そうだったしな!

 それに比べて俺ときたら、体の色は神々しい白銀だし悪さしないし、全然違う。

 目元もくりってしてて可愛いし、凶悪さゼロ。


 ぬいぐるみにすれば、バカ売れ間違いなしのビジュアルだ。たぶん。

 カッコよさと愛らしさを持つバハムート人形。超売れそう。


「大丈夫だよ、シャルちゃん。討伐クエストは噂だけで正式に出るってわけじゃないから」


 ほっと俺は胸を撫で下ろした。


「それで……ちゃんと防具買ったんですか? シャルちゃん、お着換えしているだけですけど」

「はい。これが防具なんです。イレーヌさんがドワーフ用のやつを倉庫から出してくれて」

「なるほど。それはよかったですね。よく似合ってて可愛いですよ」


 むふーっとシャルが得意げに両手を腰にやった。


「では、討伐クエストを受けるということでよろしいですか?」


 シャルがやりたいと言ったクエスト票を改めて見せてもらう。


――――――――――――――――――

Fランク 平原のスライム討伐

成功条件:平原にいるスライムを討伐し、証としてドロップ素材「スライムの核」一〇個納品。

報酬:一五〇〇リン

――――――――――――――――――


「最近、人を襲うことが増えているようで、是非お手伝いいただきたいのです」

「わかりました」

「どうします? 二人分お受けされますか?」


 二人分も受ければ、その分戦う数は多くなるし、時間も長くなる。

 魔法の能力はたしかに高いけど、まだまだ子供。


 バックンだって、初見のときはビビって戦えなかったし。ビジュアルがキモいからかもしれんが。

 ともかく、戦闘を長く続けるのはよくない。


 金に困っているわけでもないので、今回は一人分にしておいた。


「シャルだけ受けるようにしてください」

「かしこまりました。お気をつけていってらっしゃいませ」


 はぁーい! とシャルが元気よく返事をして、俺たちは冒険者ギルドをあとにする。


「シャル、スライムって見たことあったっけ?」

「なんかいかある!」


 ぶよってしている半透明のアレだ。サイズは中型犬と同じくらい。

 納品するように言われているドロップ素材の「スライムの核」は、文字通りスライムたちの急所――ニンゲンでいう心臓にあたる。


 雑食で色んなものを食べるのも特徴のひとつだった。


「スライム、やっつけられる?」

「できるもん!」


 意気揚々とシャルは、しゅ、しゅ、と手を動かして「こう、きたら、こう!」と魔法を撃つイメージトレーニングをしていた。


 町を出て、平原を森のほうへ歩いていく。


 ズリズリ、ズリズリ、と何かを引きずるような音が聞こえると、さっそくスライムがこっちへやってきた。


「ビギィィィィィ!」


 薄い緑色をしていて、小さな目と口がある。半透明の体の中には、核がかろうじて見て取れた。


――――――――――

種族:魔生物スライム(土)

Lv:3

スキル:噛みつき・粘液・合体

――――――――――


 火、水、土、風、光、闇が基本の六大属性となる。

 ちなみに、俺は光でシャルが闇だった。


「で、でたぁ!」

「倒せそうか?」


 ギザギザの牙が口からのぞき、そこからはダラダラと粘液が垂れていた。


「ビギィィィィィ!」


 悲しそうに、シャルが俺を見上げた。


「おとーさん、やっつけるのはスラちゃんが、かわいそう……」


 なんて優しいのか。

 バハムート、感動して目頭が熱くなった。


「たしかに、可哀想かもしれん。けどな、こいつらは、人を襲うんだ。わかるか?」


「スラちゃん、悪さしてるの?」

「そういうこと。こいつを見逃せば、誰かを襲うかもしれない」


 本当は、もっと温厚で人間を自分から襲うような魔物じゃないんだけどな。


 知能のある魔物なら、バハムートの姿になれば会話できるけど、今はさすがに無理だ。


「ビギ! ビギィイ!」


 スライムが口を閉じてぶくっと体を膨らませ――。

 ブッッ! と粘液をこっちに飛ばしてきた。


 あれが、当たるとぬちょぉってして、不快になるし、かなり臭くなる。

 それに、長時間浴びたままだと体が溶けてしまう。


「きゃあ」


 さっと俺に隠れたシャルは、スライムの放った粘液をかわした。

 そうだ、いいぞ、ナイス回避。


「ビギイイイ」

「スラちゃん、かわいそうだけど、がまんしてね……!」


 スライムから距離を取って、魔法を発動させる。


「【イッシンジョーのツゴー】!」


 キュオン!


 シャルが放った真っ黒の魔力の弾丸がスライムへ飛んでいく。

 言い方を変えればかなり禍々しい魔法だった。


「ビギイ!?」


 何かを察したスライムが回避しようとするが、もう遅い。


 シャルの魔弾は見事に命中。


「ビギャァ!?」


 呆気なくスライムは砕け散った。


 あんなに可哀想って言ってたのに、容赦ねえ……。


「おとーさん、スラちゃん、やっつけた!」


 キラッキラに表情を輝かせるシャル。

 俺は親指を立ててキラリと白い歯を見せる。


「ナイス攻撃! ナイス魔法!」

「おとーさんも、おとーさんも! やって! またきたよ、スラちゃん」


 シャルが指さした方向から、また別のスライムがやってきていた。


「ビギィイイ! ビギイ!」


 人食植物バックンもそうだったが、やっぱり、この姿だと俺がバハムートだってのは魔物だとしてもわからないようだ。


 いい機会だ。

 さっき買ったばかりの竜の牙の剣……竜牙刃(リュウガジン)(今適当に名付けた)を試そう。


 ニンゲンの冒険者には、魔法使いや剣士、盗賊といったそれぞれの役割がある。

 その中のひとつに、魔法と剣技を合わせた攻撃をする魔法剣士という役職があったはず。


 ちょっとだけ、その真似事をしてみよう。


 思い出しながら、見様見真似で握った柄へ俺の魔力を流す。


 バヂバヂ、と銀色の雷が鞘からいくつも飛び出した。


 柄から抜き放つ。

 さっきまで、年代物の古さが目立つボロボロの剣だったのに――。


 抜いた竜牙刃は、鞘には物理的に収まらないはずの太さと長さを持つ長剣になっていた。


「なにー、その剣! すごーい!」


 シャルが目を丸くしている。俺だってびっくりだ。なんだ、この剣。


 古ぼけていた刀身は、今では月夜を思わせる輝く漆黒。


『――。――』


 また何か聞こえたような気がする。


「ビギャア!」


 耳を傾ける暇もなく、スライムが接近してきた。

 さらに近づいてくると、自分の体と同じくらいの口を開けて俺を噛もうとする。


「ぬんっ!」


 俺はスライムの体に腕を突っ込む。


 ずももももっ。


「ビギャ!?」

「これも娘のためだ。許せ」


 がっしり核を握った俺は、強引に引っこ抜いた。


「ビィィィィ……」


 スライムが崩れると、どろどろの液状になった。


「そんなやっつけかたがあるのー!?」


 シャルが目を丸くして驚いていた。


「シャル、魔法を使えばいいというわけじゃないんだぞ?」


 はぁぁぁぁ、と口が半開きの愛娘は感心した様子だった。


「おとーさん、プロみたいー!」


 ふっふっふ。そうだろう、そうだろう。


『――! ――!?』


 あ。剣使うの忘れてた。

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