表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/76

エンジェルキス


「おとーさん、防具買ったから、やっつけるクエストしよー!」


 ぐいぐい、とシャルが俺の手を引っ張っていく。


「はいはい。わかったわかった。……イレーヌさん、今日はありがとうございました」

「いいえぇ、こちらこそ、お買い上げありがとうございました」


 イレーヌさんがぺこっとお辞儀をすると、大きな胸がちらりと見えた。


 冒険者ギルドへむかっていると、シャルが半目でこっちをじいっと見ている。


「どうかした?」

「おとーさん、め! おっぱい見ちゃ、め!」

「怒るなよ。見たくて見たんじゃないんだってば」


 シャルはむぅーと頬をぱんぱんに膨らませた。

 このぱんぱん具合は、相当ご機嫌ナナメのサインだ。


「……抱っこ!」

「はいはい」


 天使様を抱きかかえると、シャルが俺の首にぎゅうっと抱きついた。これはなかなか離れてくれなさそうだ。

 町ゆく人たちには、微笑ましい目で俺たちを見てくる。


「おとーさん、わたしも、ぼんっておっきくなるから!」

「何が?」

「おっぱい!」

「おっきくなるかな?」

「なるのぉーーー!」


 直ったはずのほっぺたが、またぱんぱんに膨れた。


 からかい過ぎたらしい。


「ごめんごめん」

「やー」


 ぶんぶん、と首を振って断固として俺を許さないつもりらしい。

 さらさらの髪の毛が顔にあたってくすぐったい。


「どうしたら許してくれるの?」

「…………ちゅ、てして。寝るときみたいに」

「えぇー。ここで? みんなが見てるからあとでね」

「いーま! いまがいいっ」


 普段はいい子なのに、こうなるとなかなか言うことを聞いてくれない、我がまま甘えん坊姫へとシャルは変身する。


 シャルは俺から上半身をちょっとだけ離して、ちゅってしやすいようにする。


 ちょっとだけならいいか。

 前髪を手であげて、おでこにキスをする。


「これでいい?」

「うん。ゆるした」


 不機嫌顔が笑顔に変わって我がまま姫から天使に戻る。


「シャルは?」


 きょとんとするから、俺が頬をとんとんと指さした。


「してくれないの?」


 夜、寝る前の挨拶のひとつだった。たまに機嫌がいいと家の中でもしてくれる。

 けど、さすがに外じゃ恥ずかしいか。


 人前でキスを迫る変態みたいになってるな、俺。


 思った通り、シャルは唇をちょっとだけ尖らせて、うつむいた。なんかモジモジしてる。


 やっぱりいいよ、と言おうとしたときだった。


 きょろきょろと周りを見ると、ちゅ、と頬にキスしてくれた。

 またモジモジしながらぼそっと言った。


「……パパ大好き」


 ちょうど目にしていたおっさん連中が、ひっくり返って悶絶していた。


 あるおっさんは、心臓を悪くしたかのようにぎゅっと胸を押さえている。


「天使かよぉぉぉ……」


 またあるおっさんは、ほわわわん、と癒されている。


「天使……マジ天使」


 あるおっさんは両手と膝をつき涙を流している。


「あった……たしかにウチの娘にも、そんな時期が……っ! あった……」


 ここの通り、おっさんしかいねえのか。


 いや、まあ、これ? いつものことなんで。俺、超愛されてるんで。


 俺たちが歩くと、おっさんたちは黙って道を開ける。


「手振ってあげて。バイバイって」


 シャルにむかって言うと、よくわからなさそうな顔をしていたけど、道をあけたおっさんたちに手を振った。


「ばいばい」


「「「「ぐぼはぁああっ」」」


 例外なくおっさんは地面に転がり、シャルの癒しパワーに悶絶していた。


 どうやらうちの娘は、おっさんキラーらしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作 好評連載中! ↓↓ こちらも応援いただけると嬉しいです!

https://ncode.syosetu.com/n2551ik/
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ