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中間市:中間高校・3-B教室 -7:50-






 中間市に存在する、唯一の高校である、私立中間高等学校。

 「高いのか低いのか、いったいどっちなんだよ」とツッコミを入れるのはこの学校に入学したものの通過儀礼のような物だと言われている。

 中間市の特徴である“なにもない”をそのまま体現したかのような学校であるが、残念なことに中間市内に存在する高校はこれ一つであった。

 三階建てで、コンクリート造り。左右対象になるように大時計が据えられており、生徒たちに時間の流れを伝えるべく今日も頑張っていた。

 英人たちは校門をくぐり、まっすぐに校舎を目指す。

 夏休みの部活動に精を出す生徒たちを横目に見ながら、上履きを履きかえる。


「そろそろだっけ? 全国大会予選」

「だってねー」

「今年こそは全国へ!とか言ってるみたいだけど、どこまで本気なんかねー?」


 口々に軽口を言い合いながら、三人は三階を目指す。三年生の教室は、最上階にあるのだ。


「おーっす」

「おはよう!」

「元気か諸君! 俺の体はもうボロボロだけどな!!」


 それぞれに挨拶を交わしながら、教室の中へと入る三人。3-Bと書かれた教室の中へと入ると、そこでは思い思いにくつろいでいた同級生たちの姿があった。


「おーっす、ハチー」

「だからはち言うなって……」


 己の名前をもじった「はち」という呼び名に眉間のしわを寄せる英人。

 だがすぐに別のことが気になり、教室の中をぐるりと見回した。


「……なあ、他の皆は?」


 教室の中にいる同級生の数が、いやに少ないのだ。

 中間高校の夏期講習、二年生までは自由参加形式だが、三年生よりは必修となっている。

 週に一度、そして午前中のみとはいえ、学校側もそれなりに生徒たちの進学率に気を使っているということだろう。

 ……もっとも、不真面目な生徒は不参加を自主的に決め込み、学校へ顔を見せることすら稀だったりするわけだが……。

 それを考慮しても、人数が少ない。今、教室にいるのはクラス全体で見れば、半数以下といったところだろうか。

 そろそろ、時計の針は午前八時を指し示す。夏期講習が始まってしまう時間だ。

 いつもであれば、もう満席になっていてもおかしくないはずなのだが……。

 英人の疑問に、同級生の一人は首を振って答える。


「さあ? 俺は何も聞いてないけど」

「ふぅん。そっか」


 英人は曖昧に頷きながらも己の席に着く。

 まあ、今は夏休みの真っ最中だ。いくら夏期講習が必修といえど、遊ぶ方を優先したいという気持ちは痛いほどによくわかる。

 ……まあ、その後がどうなるかまでは知ったことではないが。


「………」


 とはいえ、いない人数が多すぎるのも引っかかる。

 クラスの半分以上が、今この場に現れていないのは異常ともいえるだろう。学級崩壊と言っても差し支えはあるまい。

 英人は少し悩み、それからもう少し周りに話を聞いてみようかと腰を上げ――。


「おはよう諸君! 今日も元気に夏期講習を頑張ろうかぁー!」


 ――ようとした時、いつものように元気に先生が教室に入ってきた。

 英人は上げかけた腰をゆっくり降ろし、周りに話を聞く代わりに先生の言葉を待った。

 これだけ人がいないのだ。何か理由があればきっと先生が話してくれるだろうと期待してのことであったが。


「……っと? なんだ、まだ来てない連中がいるのか?」


 英人の期待を裏切り、先生は不思議そうな顔で教室内を見回した。

 いつもよりガランとした教室内の光景は、彼にとっても予想外のことだったのだろう。

 生真面目なクラス委員長が手を上げ、先生に問いかける。


「先生はなにもご存じではないんですか? 今日、欠席しているみんなのことは」

「知らんなぁ。どの家からも別に欠席届は来ていないし」


 委員長の言葉に、先生は不審そうな表情になる。


「……ということはサボりかぁ? 高校三年生にもなって余裕な……」


 教師としては当然、その可能性を疑うだろう。家から連絡が来ていないのであれば、いえは普通に出て、その後何も言わずにどこかに遊びに行ったのだろう、と。

 ……しかし、それにしては人数が多すぎる。重ねて言うが、クラスの半数以上がいないのだ。

 先生はしばし眉をひそめて唸っていたが、やがて諦めたようにため息をついた。


「……まあ、いいか。今いないなら、あとで後悔するだけだな。それじゃあ、夏期講習はじめるぞー!」

「………」


 威勢のいい先生の声を聞きながら、英人は鞄の中から教科書を取り出す。

 いつもよりガランとした教室の中は、なんだか落ち着かないが……夏期講習が始まってしまえば、すぐに気にならなくなるだろう。






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