??? -12:00-
―……さて、ではこれより聴聞会をはじめたいと思う。具合は、どうだい?―
「はい……。悪くは、ないです。皆さんも、良くしてくださっていますし……」
―それは良かった。じゃあ、本日の聴聞会は、君の生まれや故郷のこと……そして事件当時のことを思い出し、話してもらいたいと思う―
「…………はい」
―君にとっては、辛い内容だろう。話したくないことがあれば、話さなくてもいいよ。この聴聞会の目的は、今後、君にいろいろ聞く前の準備段階……まあ、早い話が、こう言うことに慣れてもらうことだ―
「いえ……大丈夫です……」
―そうかい? それじゃあ、まず……そうだね。君が過ごしていた街は、どんな街だったかな?―
「……なんていうことのない、普通の、街だったと思います。お父さんも、お母さんもあの町の生まれで……もちろん、お兄ちゃんも私も、あの街の小さな産婦人科で生まれました……。特別な特徴も、観光できるような場所も、今の日本じゃそんなに珍しくないゆるキャラもいない……そんな何の変哲もない……言っちゃえば、辺鄙な街でした」
―ユル……キャラ? ジャパニーズアニメーションキャラの一種かい?―
「いえ、町おこしのために使われるキャラの一種で……聞いたことありませんか? 梨の妖精とか、黒い熊の妖精とか……」
―ああー、あのクレイジーモンスターズか……。うちの妻も「カワイイ!」って絶賛してたけど、僕はどうも受け付けない感じがして……。まあ、それはともかく、君の街は、どこにでもある普通の街だったわけだ?―
「……はい。変なタワーも、びっくりするようなビルもない……強いてあげるならちょっと山が近いくらいの、そんな街でした……。それが……それが……!」
―……それが、あんなことになるなんてね。僕も資料で読んだだけだから、今でも信じがたいよ。けれど、今の世界を見ていると……君の街は全ての始まりの場所なんだと痛感せざるを得ないね……―
「どうしてこんな……! 私もお兄ちゃんも……! ただ普通に暮らしてただけなのに……! なのに……なのに……!」
―悪い夢であれば、どれだけよかっただろうね……。君にとっても、世界にとっても……―
「……はい」
―……それじゃあ、次の質問といこうか。まだ、続けられそうかい? 休憩をはさんでもいいけれど―
「いいえ……続けてください……。何度も……思い出したくありません……」
―……OK。じゃあ、次だけれど……あの日に起きた出来事を……そうだね。君が目を覚ました時から順を追って、説明できるかな?―
「……はい。その、思い出すのに時間がかかることがあるかもしれませんし、記憶があいまいな部分も、ありますけれど……」
―もちろん、そういう部分があっても構わないさ。今日の聴聞会の解答は当然記録されるけれど、予行演習のような物だからね……。君が、思い出した時、そして話したくなった時に話してくれればいい―
「……ありがとう、ございます」
―どういたしまして―
「……あの、事件が起きた日……あれは、そう、八月の頭くらいの出来事だったと思います……。照りつける太陽が、ものすごく眩しかったのを、覚えています――」
――白い部屋に閉じ込められた少女が、ポツリポツリと目の前のマイクに向かって自身の体験した悪夢を話してゆく。
彼女の眼差しは茫洋としており、何を思っているのかはわかりづらい。
しかし、肌が白くなるほどに握りしめられた掌。無表情の彼女の頬を伝う一筋の汗。
そして、小さな口から零れてゆく、少女の幼さからは想像もし得ないであろう、異様な出来事。
それらが少女の感情を如実に表している。彼女が抱く恐怖を、語っている。
白い白い部屋の中、少女はポツリポツリと語り続ける。彼女がその出来事を体験したその日の自分が、想像もし得なかったであろう出来事を。
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