とある親父の婚活ケース
即興小説から。お題は「興奮した父」で、制限時間15分でした。
「すごいんだぞ!お前だってきっと喜ぶ!!!」
親父がこう言う時、大体ろくなものが出てこない。
俺が小学生の頃に母親が亡くなって以来、親父はオカルトに傾倒するようになった。
金が手に入る風水グッズだの、健康になれる魔法のお守りだの……あげく先祖の霊を慰める壺(二十万円)を買おうとした時はさすがに止めた。ジャーマンスープレックスで。
俺は十歳の頃にはクーリングオフの仕方を実体験をもって知っていた。
それでも親父はこりることがないようで、この前も怪しげな黒魔術の本を買っていた。せめて白魔術にしてくれ。HP回復できそうだから。
とはいえ、親父がそうなるのもわからんではないのだ。原因は俺にもある。
今でこそぴんぴんしているが、俺はかなり病弱な子供だった。何度か入院したこともある。母親が死んだのは、入院した俺の付き添いをした帰り、事故に巻き込まれてだった。
男手ひとつで病弱な子供を育てるのは大変なことに間違いなく、少しくらい神頼みしてしまいたくなるのもわかる。オカルトグッズが多少効いたのか、母親がいなくなって自立心を鍛えられたせいか、俺の身体はそれから嘘のように健康になったのだが。
それでも親父のオカルト傾倒癖は治らなかった。完全に趣味と化してしまったのだ。
「はいはい、クーリングオフするからな」
俺があしらうと、親父はがっしりと腕をつかんで引きずっていく。
「金は使っていない!」
「じゃあなんだよ!」
「……その、俺も今更だが再婚しようと思って」
「はぁ!?」
「あってくれるか?」
「……え? は? ……まぁ、うん」
まさかの急展開だった。こんなちょっと頭の薄くなってる残念な親父に、春到来。
多少複雑だが、親父の苦労も知っているだけに、再婚を素直に祝福したい気持ちは……。
リビングにたたずむその人を見て、俺は固まった。
そしてくるりと回れ右して家を出ようとした。
親父がしがみついてくる。
「美人だろ! いい女だろ!!」
「そういうもんだいじゃねぇ!!!」
確かに美人だった。おっぱいがでかくてセクシーだった。下半身が蛇的な何かで角と翼がはえてなければ。
「これが再婚相手だと!?」
「今日、やっと召喚できたんだ!」
「召喚!?」
「だから言っただろう、お前だって喜ぶって!! 美人だろ!!!」
俺は何だか無性に腹が立って、親父の貴重な頭頂の毛を、三本むしりとってやったのだった。
個人的にはセクシー悪魔後妻ありだと思うけど、魂とられるなら勘弁な。