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作家な彼女と流され彼氏

作者: 八月一日

染めたこともなければ痛ませた事もあまりない真っ黒なロングの髪。かわいい服とか流行りの服を着て遊びに行ったり、アウトドアな趣味を持つこともないから日に焼くことがない白い肌。意図して選んだのか黒縁の地味な眼鏡をかけてその眼鏡の奥には影のある眼。

そんな地味系女子の光月彩。光と彩りの名を持つ地味系女子が持つ唯一の趣味が小説を書くこと。

今だってスマホのメモを開いて字を打ち込んでる。やぼったい黒髪を毛先でひとまとめにし、黒縁眼鏡の奥では日の光を受けたガラスのようにキラキラと眼を輝かせている。それを自分の家でやるならまだいい。存分に執筆作業に没頭してくれてかまわない。

しかしなんで人の家に来てまで家主を無視してまで書くのかね。俺も小説は読むし彩の真似をして短いのなら書くこともあるけどさ、ここまでじゃない。なにより、そろそろ昼時なのに一切集中を乱すことなく書くことに没頭してる。


「ほどほどにな」


癖のない指通りのいい彩の髪を梳くようの撫でてキッチンに立った。食にも無頓着な彩はほっておけば碌な物を食べないし、長距離トラック運転手の父親と編集長の母親を持つ家庭だから三食インスタントなんてザラにやる。その現状を知ったうちの親が昔から仲がよかったというのもあって、彩が一人の時はうちで預かるようになってる。

今日もこうしてうちで預かってるんだが、うちにきてからソファの上に座ってひたすらスマホに字を打ち込んでる。

とりあえずさっと食べれる素麺でも湯がきますかね。


「なあ彩、コンタクトにしねぇの?」

「なんで異物を目にいれなきゃいけないの?」

「異物って・・・・・・まあ異物だけどさ。その地味眼鏡よりかはマシだと思うけど」

「冴えない顔の優に言われたくない」

「冴えないとか言ってくれるねぇ・・・・・・」


梅肉ベースのつけ汁と素麺を昼食に、彩の執筆作業を一旦中断させた。そしてこの毒舌ともいえる辛辣な会話。

普段あんま喋らないくせにいざ口を開けばこんなんだ。


「似合うと思うけどな。それかフレーム細いやつにするとかさ」

「・・・・・・くどい」


黙々と素麺を食べ出した彩は、それ以降一切喋らなかった。というか無視だな、うん。

空になった皿を下げて洗っていると、また字を打ち込む音がし出した。四六時中小説を書いてよくネタ切れにならねえな・・・・・・。



「夕飯、何食う?」

「なんでもいい」


ちょいと前に彩とした会話。そして今、キッチンでカレーを煮込んでる。賞味期限が近かった肉とか全部いれたから肉肉しいカレーになってるけど。

さすがにカレーだけなのもどうかと思い、サラダとかも用意してる。一瞬唐揚げでも作るかと思ったけどさすがにやばいのでやめた。


「夕飯出来たぞ」

「ん」


ソファに寝転がって小説を書いていた彩がのそりと体を起こした。途中で鬱陶しくなったのか、ひとまとめにしていた髪を耳にかけて耳周りをさっぱりさせてる。


「相変わらずの量だな、それ」

「いいでしょ、別に」


露出してる彩の両耳には貫通式のピアスとイヤーカフがどっかの部族みたいについてる。

右耳にはリングタイプのピアスが三つと羽をモチーフにしたイヤーカフが一個。左には小指の爪の半分くらいの大きさの髑髏のモチーフがついたフックタイプと、幾何学模様のはいったイヤーカフを着けてる。

右に三つと左に今日はつけてないのも含めて四つピアス穴が空いてる。こんなんでも一応学生。


「それ以上は増やすなよ」

「・・・・・・」


単に見てる俺が痛々しく感じるからだけどさ。

彩にいたっては肉カレーを頬張りながら無言でこっちをみてるし。


「ん」


*** *** ***


「・・・・・・」

「なあ彩」

「何」

「これどういう状況?」


ピアスを増やす件はどうにかとどまってくれる返答はもらった。夕飯も食べ終え、風呂の湯も張り終えたから先に彩に入らせてその後俺もはいったんだが、リビングでアイス食ってた彩は見当たらずどこに消えたのかと軽く探したら俺の部屋にいた。

前にいらないなら着るからちょうだいと言われあげたTシャツと、ショートパンツの格好で。

髪はうっとうしかったのか、まとめ上げられていてピアスだらけだった耳も風呂に入る時に滅菌ケースにいれてるから何もついてなかった。

で、ベッドの上に居座っていた彩に呼ばれるがままに横にいったら引き倒されて馬乗りになってきて今の状況。


「こういう状況。動かれたら自信ないから動かないで」

「・・・・・・アヤサン? ソノテノモノハナンデショウカネ」

「ニードル」


平均よりも体温の高い彩の手が耳に伸ばされ、殺し屋みたいな鋭い目つきでニードルを指してきた。

画鋲を踏んだみたいな痛みがきたけど、まあ・・・・・・なんとか。どっちかと言えば彩がニードル持った時の纏ってる雰囲気が怖かった。


「人に穴開ける趣味でも出来たのか?」

「そんな趣味はない」


彩はそういいながら黒い小箱をどっかから取り出しそれを開けた。中にはゴールドレッドのリングピアスが2個あった。

彩はピアスを手にとると、それを今しがた開けた俺の耳につけて残ったもう一個を自分の耳につけた。


「ペアリング、なくしたら刺し殺すから」

「わかったからニードルを振りかざすな」


これペアリングなのか・・・・・・ペアリングってあれだよな、恋人とか夫婦がつけ・・・・・・て、る・・・・・・


「・・・・・・彩?」

「そういうことだから。昨日保留にした告白、断ってね」

「なんで知ってんの」

「なんで知らないと思ったの?」


え・・・・・・どっかで見てたのか? ストー


「優、変なこと考えたでしょ。刺す?」

「いや、いい」


彩が振り上げた腕を受け止めてニードルを回収する。彩に持たせたら凶器にしかならない。

彩もニードルを取られたら大人しくなり、ぽふっとベッドに横になった。


「スマホ取って」

「はいはい」


そしてまたいつものようにスマホでちまちまと小説を書き出した。しかしなんだ、そこで寝転がったまま書かれたら俺どこで寝たらいいんだ?

そんなこと思っていたら彩がベッドの脇によけ、一人分のスペースがあいた。そのスペースに寝ろってか。

まあ、せっかく場所が空いたんだし寝ることにはするけどさ。


「・・・・・・する?」

「ナニヲ?」

「何って、この状況でそれ以外の何をするの」




「ぅ・・・・・・ん」

「おはよ」


寝ぼけ眼の彩が横でもぞもぞと身じろぎしながら体を起こしてる。さらさらとした髪が素肌を撫でてベッドシーツに広がってる。なんかいいな、これ。

彩はそのまま体を起こして行って、シーツが体から落ちてその下にあった真っ白なもーー


「今さらな反応されても」

「まだ見慣れてないんだよ」


そう返すともぞもぞと移動してベッドサイドの滅菌ケースからピアスを取り出し、自分の耳につけた後に俺の上に覆いかぶさってきた。妨げる物もなく、着痩せしていた彩の胸がぐにーと押し付けられてる。


「消毒しないと膿でるから」

「注意事項を事後に言うか、普通・・・・・・」

「事後? もう一回する?」

「そっちじゃねえっ!」


頭のネジがぶっ飛んだのか彩の思考経路がおかしいことになってる。

とりあえず着るものを着て朝食を作るべく下に降りた。


「で、エプロンなんかつけてどうした」

「座ってて」


あー、彩が作る感じか。いつも小説かいてるからそのイメージなかったな。

それにいつも家にいる時はインスタント・・・・・・おい待て。


「なあ、彩って料理できんの?」

「見よう見まね」

「・・・・・・」


キャベツの玉に逆手で包丁を突き刺したのを目の当たりにして危機感が跳ね上がった。

見よう見まねって言うけどさ、俺そんな切り方したことねぇぞ。


「なあ、俺も手伝おうか?」

「いい」


ピーマンはヘタ切ってわた抜こうな。輪切りにして完了じゃないからな。

さて、どんなもんが出来上がるのか。というか、彩の初手作りって事になるけど残さず食えるのかね?




iPhoneからひさびさの短編投稿

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