四、真実は
悠基は、奈緒美と仲が良かった友達に奈緒美のことを尋ねることにした。
友達の名は奈緒美から聞いており、小学校入学当初からの近所の友達だった。
その友達の家を訪ねると、俯いて大人しい感じの女の子が玄関先に出て来た。
悠基は早速、奈緒美のことについて尋ねた。
「奈緒美が亡くなる少し前から、あいつの様子がどこかおかしかったんだ。それで、何か知っていないかと思って」
「私は何も…」
「ちょっとしたことでもいいんだ。何か知らないかな?」
初めのうちは、全くと言っていい程口を閉ざしていた奈緒美の友達だったが、そのうちに少しずつ重い口を開いてくれた。
やはり奈緒美は、学校で同級生からいじめに遭っていたらしい。
いじめの発端はほんの些細な出来事だったようだが、徐々にいじめはエスカレートしていったそうだ。
その同級生たちは、奈緒美の死を前に深く反省しているようだ、と友達は語った。
「それでも奈緒ちゃん、明るく振る舞っていて…。私、奈緒ちゃんに何もしてあげられなかった…」
そう言うと友達は、目を真っ赤にして泣き始めてしまった。
悠基はとの友達の方を軽く叩き、ありがとう、と一言いってその場を後にした。
奈緒美はやはり自殺したのだろうか。
悠基は、再度妹の姿を心に思い浮かべた。
その姿を強く思い出すうちに、妹は自殺なんかしない、という思いが強くなっていった。
あの明るく誰にでも優しい奈緒美が、いじめなんかに負けるわけがない。
それは兄としての確信だった。
悠基は事故が起きた現場周辺で、聞き込みを始めた。
目撃者を捜すためだ。
既に警察が聞き込みをしたというが、見落としがあったのかもしれない。
悠基は近くにいる人をしらみつぶしに当たった。
すると、この近くに住んでいる五歳の男の子が事故を見たというのだ。
まだ幼い子供だったために、警察の目撃者探しには引っ掛からなかったらしい。
その男の子は、道路に子犬が立っていたと証言してくれた。
「それでね、大きなトラックがこっちから来てね。お姉ちゃんが飛び出して子犬の方に行ったの」
つまり、奈緒美は子犬を助けるために道路に飛び出し、運悪く走ってきたトラックに轢かれたのだった。
悠基は、とても奈緒美らしいと思った。
妹は、たとえ自分がいじめられていようとも、弱いものがいれば助けずにはいられない、心優しい人間なのだ。
悠基は空を見上げた。今日も、空は雲一つない快晴であった。