三、もしかして…自殺?
手術中のランプが点灯する中、悠基は一人手術室の前で祈っていた。
どうか奈緒美が助かりますように。
悠基は心の中で繰り返し神に祈った。
すると、悠基から連絡をもらった父と母が病院へとやって来た。
父と母、二人揃うのは久しぶりの光景だ。
昔はよく四人で出掛けたのにな。
悠基はふとそんなことを思った。
真っ先に母が悠基に駆け寄ってきた。
「奈緒美は? あの子は大丈夫なの?」
悠基は首を振りながら答えた。
「わからない。まだ手術中だよ」
「どうしてあの子が事故に何か…」
父が動揺を隠せない表情で呟いた。
「それもわからないんだ。僕が駆けつけた時には、もう救急車に乗っていて…」
悠基は目を伏せて下を向いた。
それきり三人は黙り込んでしまった。
それから一時間くらいが経過した頃だろうか。
手術中のランプが消灯し、中から医師が出て来た。
三人は医師に駆け寄った。
「奈緒美は、あの子はどうなんですか?」
母が医師に詰め寄った。
医師は沈痛な面持ちで答えた。
「手は尽くしたのですが…。出血がひどくて施しようがありませんでした。誠に残念です」
医師は努めて冷静な口調で言った。
父と母は医師の言葉を聞いて、おろおろと泣き始めた。
悠基はそんな二人を、涙をこらえて抱きしめていた。
奈緒美は帰らぬ人となってしまった。
後日、話を聞いたトラックの運転手によると、奈緒美が突然、トラックの前に飛び出してきたらしい。
余りに突然だったため、急ブレーキをかけたが間に合わなかったとのことだった。
警察が調べた限りでは、目撃者は誰もおらず、現場に残された状況からは、事故とも事件とも断定することは出来なかった。
仕方なく、警察は不幸な事故としてこの件を処理した。
悠基は、先週会ったときの奈緒美の態度が、どうしても気になって仕方がなかった。
どこか虚ろ気で、何か悩みを抱えているようにも思えたからだ。
もしかしたら、学校で何かあったのかもしれない。
その事を苦に自殺をしたのかもしれない。
そんなことを考えた悠基は、奈緒美の学校での様子を調べることにした。