二、突然の惨事
悠基はいつもの公園に着くと、ぐるりと辺りを見渡した。
奈緒美はまだ来ていないようだった。
公園には小学生くらいの男の子二人が、ベンチに座って携帯ゲームで遊んでいる。
また、滑り台には三歳くらいの男の子が、母親が見守る中、一人で楽しそうに遊んでいた。
悠基はポケットにあるケータイを取り出し、時間を確認した。
このケータイは中学に入学した時に父親に買ってもらったものだ。
奈緒美が悠基のケータイを見て、とても欲しそうな顔をしていたのを、悠基は思い出した。
奈緒美はケータイをまだ持っていなかった。
ケータイがあれば、頻繁にメールで連絡をとれるのにと、奈緒美はいつも言っていた。
「遅いなあ。何やっているんだろう」
奈緒美は、待ち合わせの時間を過ぎてもやって来なかった。
いつもなら先に来て公園で待っている奈緒美が、遅れて来るなんて珍しかった。
それから十分が経っても、奈緒美はやって来なかった。
悠基は待ち合わせ場所に現れない奈緒美が、とても心配になってきた。
すると、近くでパトカーと救急車のサイレンが聞こえてきた。
サイレンは徐々に大きくなってくる。
この近くにやって来るようだ。
どこか胸騒ぎのした悠基は、急いでサイレンの音がする方へと向かった。
もしかして、奈緒美が事故に巻き込まれたのではないだろうか?
そんな思いが悠基の頭の中を駆け巡った。
現場に着くと、大きなトラックが停まっており、その周りに制服を着た警官が何人か立っていた。
トラックのバンパーは少し凹んでいて、何かがぶつかった跡のようだ。
そして、怪我をしたらしき人が担架に乗せられていて、ちょうど今、救急車に運ばれるところだった。
頭から血を流しているのが、遠目からでもわかる。
悠基は、担架に乗せられた人が着ている服の柄に目を奪われた。
あの柄は、奈緒美が好んで着ていたスカートのものによく似ていたからだ。
「すいません! ちょっと通してください!」
悠基は大声を上げながら、野次馬をかき分けて救急車の前まで進んだ。
悠基は担架に乗せられた人の顔を凝視した。
奈緒美だった。奈緒美は真っ青な顔色で、担架に横たわっていた。
「奈緒美!奈緒美!」
悠基は横たわっている奈緒美に向かって大声で叫んだ。
すると隣にいた救急隊員が悠基に向かって言った。
「君はこの子の家族か、知り合いかね」
「奈緒美は僕の妹です」
「なら、一緒に病院まで来てくれるか?」
「はい」
悠基は救急車と一緒に病院へと向かった。