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1 ねじと、まちと

【空想科学祭FINAL短編部門参加作品】

 がっしゃんこらがっしゃんこら。

 ごーがーどどぴーしゅー。


 遠くには青々としたすり鉢状の山、その中腹には山頂より高いのではないか、という程に聳え立つ純白の塔。


 どどっどどどどどどっどっどっど。

 わーわーがらがらがら がっしゃんこらがっしゃんこらちりんちりん。オイース。


 塔を円形に取り囲むように白壁のビル群が立ち並び、その合間を縫って流れる銀鼠色の川。その河口に程近い川のほとりに、一軒の小さな町工場がある。近づけば、ギシギシと音を立てて流れる川のせせらぎと、工場の駆動音がリズミカルに調和する。


 ぎぎがしゃキン、ぎぎがしゃコン(ちゅいー) ぎぎがしゃキン ぎぎが コン(ちゅ ちゅ ちゅいー)


 まだ早朝だからだろうか、中では若い職人がひとり、黙々とグラインダーでネジを磨いている。彼、トモロウはこの街では比較的ポピュラーな職業、「ネジ職人」として、三年前からこの工場に勤めるようになった。


「なーんか、思った通りにならねーんだよなー」


 磨き上げたばかりのネジを惜しげもなく放り捨て、工具入れに使っているウェストポーチのポケットを開く。ポケットからつまみ出したのは、先月ようやく出来上がったトモロウ入魂のネジ達。これ以上のものは絶対にできないね! と大口を叩いたはいいものの、確かにそれ以来これ以上のものはできていない。対等のレベルのものすらできていないのだ。


「昔の自分にも負けるし、クッソ、腹立つなぁ! あいつらも! 全員敵! 潰す! 潰す! なめたネジ山みたいに!」


 トモロウ入魂の作は、確かに品質もよく研磨も美しく、コンテストに出品してからというもの、トモロウ個人を指名しての発注も増えた。工場全体としての仕事も増え、「親方」も喜んでくれたものだった。

 だが、ロット数が増えれば不良品も増えていくのが必然。


「あいつらほんとムカつくぜー……! いつかあいつらの綺麗なお手々と白衣とメガネを機械油でドロッドロに染めてやりたいわー」


 一番直近の依頼は大変筋のよい客。トモロウたちの住む、工場と繁華街がほとんどを占める「外縁」ではあまり見ることのない、「内域」の客だ。金払いがよく発注単位も大口、まったく言うことのない客だがいかんせん注文が多い。細かい。うるさい。会話が成立しない。

 先日依頼に来た「内域」の男は、挨拶もなしにこう言ったものだ。


「品質Aのネジを30ケース、一ヶ月以内に『内域』の研究修学棟G305室まで納品すること。納品まではこの業務に専念の上、一ヶ月分の人件費相当の利益を乗せることを許可する。価格交渉は不要だ」


 わー。


 しんだらいいのにー。


 「内域」の「上流工程」がどんだけ偉いかしらないけど、それが他人にものを頼む態度かってんだ。ぶつぶついいながら更にネジを磨いていくトモロウ。

 最近「内域」で開発されたドラム研磨機なんかがあればもっと早く磨けるのかもしれないが、親方の強いコダワリにより、ここでは高速で廻るグラインダーにネジをあて、手作業と職人の勘で磨く方法を積極的に採用している。積極的に。積極的にだ。


「よし、完璧でしょ! オッケー」

「馬鹿野郎! カンペキなんざ1000年早ぇえんだよ!」


 ゴッツン☆


 振り返ると、いつのまにやら親方が。

 岩石とか鋼鉄とかいう例えしか思いつかない、頑固の化身のような存在だ。


「いってぇ……ひでえなぁ。こう見えても俺は俺なりに磨きテクを」

「クチゴタエたぁ2000年も早ぇえぜ! もういっぺん最初っから磨き直せ!」

「うへー」

「ごちゃごちゃうるせー! 返事はァ!」

「了解ッス!」

「わかったら口よりまず手ぇ動かしな! ここじゃあ手を止めたヤツから先に死ぬ!」


 あざーっす

 おはよござーす

 うぃちゃーっす


 親方が出勤すると、三々五々、先輩たちも工場に顔を出し、今日もこの街に火が入る。

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