馬鹿
ふう、こっちの方が見切り発車より書きやすい。だが、結局文才はなかった。
ギュウ~ぅううう
「先生、さっきはご飯出すっていったやん」
どうやら医者はすっかり忘れているようだ。まあ、出す必要はないのだが。
「ナースコールじゃー!!!!!飯飯飯ぃぃぃぃぃぃぃ~!!!!」
押す押す押す押すひたすら押す。待て、それはまずい。それは世で言う死亡フラグだ。
「うるせえ、一回鳴らしゃわかんじゃ。それとも何か?テメーをここの病院食にしてくださいって意思表示か?いいぜ、ここにいる奴は大抵まともに社会に出れねーからな。ひとり消えてもわかりゃしねーよ」
叫んでいると、綺麗なお姉さん・・・・・幼女が来ていた。どうやら押すのが楽しくなっていたようでそれだけをひたすら繰り返して周りが見えなくなっていたようだ。
「申し訳ございません。本当に、誠意を込めて!ですのでどうか消さないで頂けないでしょうか?」
青年は土下座していた。ええ、それはもう綺麗なフォームで。冷たい床に頭を擦りつけ、ひたすらに。
「ああ、分かればいい。だが、手遅れだ。」
「へ?どういみですかい?」
幼女はどうやら本気のようです。
「おらぁ!!!!」
「ひぃいいいいい!!!お助けぇ!!!」
がんっ!
青年の目の前には病院食が置かれていた。
「あの、太らせてから食べるんです「ちげーよ、先生がもってけって言ってたから持ってきたんだ」おお、約束忘れてなかったのね」
キラキラ目を輝かせながら食事を見る。それはもう、待てと言われた犬が「よし!」って言われた時のように素晴らしいくらいに嬉しそうだ。
「待て」
そこでお約束の言葉がかかる。こんな光景を見たら言いたくなるのが世の常ではなかろうか。
「ちょ、それはないでしょう」
「いや、すまん。ついな、ついそう言わないといけない気がしたんだ」
そう言って苦笑いしながら、「マジで真っ当な人間に飯出すの久しぶりだわ」とボソリと呟いた。それはそうだ。相手はもはや人間ではないようなものばかりのこの階、通常こんな会話ができるものなどいない。と、言うより対面してご飯など届けない。そんなことをすれば下手をすると本当に死んでしまう。
「いただきまーす」
「ああ、食え食え初の生還者」
ご飯を食べる青年を見ながら、微笑ましいものを見る目で見つめる。
「冷めててマジーんでしけど」
「文句があるなら食うな」
だが、馬鹿は馬鹿であって、空気が読める訳がない。
読んでくれた方、あなたは神だ。