1:よくある一日
「リノージュ、あなた今日もマクベイン家の御子息のところに行ってたんだって?」
「うん。そうだよ」
言葉を返せば、ソフィーの眉間にシワが寄る。
「……色々言いたいことはあるけど、これだけは言わせて!」
勢いよく捕まれた肩が痛むが、射るような目線に気圧されて何も言えない。
「いーい。もしもあなたを脅したり、危害を加えようとする人が来たら、ただちにその場から走り去るのよ!」
今の様な状況だよね。
とか、口が裂けても言えない。
何度か同じ問答を繰り返してきて、心配してくれるのは嬉しいんだけど……正直、1番恐ろしいのはソフィーのこんな時だと思う。
まだ何か言いたそうにソフィーが口を開いた時、辺りに荘厳な鐘の音が響いた。
「ソフィー、もう始まっちゃうよ!」
「まったくもう。さっき言ったことわすれないでね!」
今だ眉間にシワが寄っているのは見なかった事にして、次の教室へ向かって駆け出した。
目の前では真法歴史学の講師が相変わらず眠たくなる声で話し続けている。ぼぅとした頭にはまったくもって授業内容は入って来ず、ただ右から左に通り抜けていくばかりだ。
しかしながら、ひとつだけ頭に引っ掛かる単語があった。
「えー。その結果、アリアラン王国に居たメイル一族は絶滅したとされています」
メイル一族。
その単語が、かつて”先生”と私を引き合わせた言葉であった。
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