能力を授けてくれた悪魔とエッチなことをするために社会を破壊する
「営業成績が上がらないならこれで自害しろよ」
上司とその腰巾着の社員は笑いながら俺にサバイバルナイフを渡してきた。
もう無理だ……
この会社ではもう働けない……
それどころか、この社会のすべてを壊したい……
それも無理なのは分かっている……
一人暮らしのアパートの前まで何とか帰ってきた。
もう日が変わる。飯を食べる気力もないが、何か食べないと明日動けない。
そんなことを考えてたら、俺の部屋の前に女の子が立っていた。
部屋、間違えてるのか?
ラッキーな展開なんて考えられない。
そんな展開があったとしても寝ることを優先したい。
まぁ、ないだろうけど。
そんなことより社会に復讐したい。
「こんなに可愛い子が抱かれてもいいかなって待っていたのに『そんなことより社会に復讐したい』はちょっとボク、落ち込んじゃうかも」
ド派手なピンク色の髪のツインテール。夜の闇の中でも大きな青い目は何故かはっきりと認識できた。白いパーカーに白いミニスカート、白のハイソックスに白のスニーカー。ド派手な髪とは対照的な服装だ。
「白が清楚って聞いたし、キミは清楚っぽい子が好きそうだから白に統一してみたけど、いまいちしっくり来ないなぁ」
そんな呑気なことを言ってるこの女の子は何者なんだろうか?
「ボクは悪魔。社会を壊したいことを願う人に能力を授けるの。存分に暴れてね」
なに言ってるんだ、この女は?
「信じられないよね、でも──」
彼女は手を開いて俺に向かって突き出す。
それが何なのか……そう思った瞬間、俺は吹き飛ばされていた。2階の柵まで突き飛ばされて、もし柵を突き破ってたらそのまま転落して死なないにしても今以上のダメージを受けていただろう。
「手加減したつもりだけど、ごめんね」
悪魔を名乗る少女は近付いて来て手を差し伸べる。
「大丈夫、それで俺は何をすればいいの? 悪魔と契約するんだからそれ相応の対価は求められるんだろ」
「まぁ、努力目標で10人くらい殺してくれたらいいかな。できなかったらキミも死ぬってことで」
「貰える能力と、期限は?」
「話が早くて助かるけど、悪魔かどうかは疑わないの?」
「今、吹き飛ばされたので十分わかった。それにどうせ社会を壊したいんだ。この話に乗りたい」
「期限は一カ月……いや、三ヶ月くらいで月3人やってくれたらいいかな」
「適当だな」
「まぁ、あまり無茶な要求しても達成できなくても意味ないからね。悪魔はホワイトなんだよ」
「今の会社よりまともそうで助かる。それで肝心の能力は?」
「『認識阻害』、完全に消えるとかじゃなくて相手の視界から消えるというか、意識されなくなるとか。だから防犯カメラとかには映っちゃう。それと、ボクみたいなのがいるってことはそれを狩るような連中もいるから、そういうのの中で高レベルな相手には効かない」
「分かった。契約したい」
「話が早くて本当助かるよ。もし三ヶ月後にノルマ未達だとボクが殺しに来るからね」
「明日には達成するから心配ない。どうせ生きてても死んでいても変わらないから、これくらいのことが起きる方がいいし、その他の能力者とかに殺されるならそれでもいい」
「あと、契約ってボクとキスするんだけど、いい?」
「わかった」
こんな可愛い子とキスできるなら得だろう。
「可愛いって思うならキスの先まで契約の儀式としてやっちゃってもいいけど、どうする?」
「明日、朝から早いし、寝かせてもらいたい。もし、成功したら明日キスの続きをお願いするかも」
悪魔と誓いのキスを交わして眠りについた。
きっとこれは夢なのだろう。
また明日からクソみたいな労働が始まる。
⭐︎
翌朝、目が覚めた時、いつもの起きないといけない時刻を大きく上回り会社への遅刻が確定していた。
遅刻の連絡をしないといけないのだが、電話越しで怒鳴られるのが分かっているので気が重い。
サイドテーブルにあるスマホに手を伸ばすとメモが挟まっていた。
『よく眠れたかな? 安眠を妨げないようにスマホのアラームは切っておいたからね! 仕事のことなんて気にせず社会を壊していこう! ノルマ達成、楽しみに待ってるね♡』
アレは夢ではなかったらしい。それにしてもハートマークまで書いてあるのみると本当にご褒美があるのかもしれない。
メモにはまだ追伸があった。
『P.S. 能力の発動が心配なら近くのコンビニとかで試してみるのがいいと思うよ。失敗してもそんなに大きな罪に問われないと思うし』
確かにその通りだ。いきなり大きなことを成し遂げようとして失敗してしまっても意味がない。
⭐︎
コンビニへは仕事へ行くのと同じようにスーツ姿に普段の通勤用の鞄を携えて向かった。
家の近所のコンビニではなく少し離れたコンビニへ向かう。
理由は近所のコンビニは理不尽に襲う必要がないが、少し離れたコンビニは襲ってもいい理由が思い付いたからだ。
「イラッシャイマセー」
外国人がレジで客の対応をしている。異国に来て異国の言葉を話して仕事をする。俺には到底できそうにない。尊敬する。
それをオーナーなのか店長なのか分からないが日本人のおばさんが偉そうに指導している。少し客足が減った時間とは言え客がいる前で高圧的に接しているのはどうなのか。見ていて気分がいいものではない。
とりあえず飲料コーナーからミネラルウォーターを一本抜き出し、それを持ってレジにいる偉そうなおばさんの前に持っていく。
「これ貰っていくから」
おばさんの目の前にペットボトルを突き付けて代金を払わず、そのまま店を出た。
「ちょっと待ちなさいよ!」
顔を真っ赤にしたその女は俺を追って店を出てくる。
「どこ行ったのよ」
そう言いながら店の外を見回すが俺のことは見つけられないようだ。
俺は目の前にいるのに。
俺は店を出たところで立ち止まって認識阻害を使ってみた。どう使うかはよく分からないが願うと使えるらしい。
「あんたの目の前にいるよ」
認識阻害を解く。
「ちょっと、あんた! なに考え──」
「うるさい」
俺は家から持ってきた包丁を女の喉に対して真横に振った。
真っ赤な血が噴き出て返り血を浴びるが気にしない。むしろ返り血が目立つように白いワイシャツを着てきたくらいだ。
とりあえず認識阻害は成功することが分かった。
俺は次の目的地のガソリンスタンドに向かう。
⭐︎
学生時代に「見た目がオタクっぽい」と店長に言われてバイトの面接を落とされたガソリンスタンド。大手チェーンというよりフランチャイズなのか店長はずっと変わっていない。
数々の悲惨な放火事件が起きた後にポリタンクにガソリンを自分で入れることは禁止されているのだが、無視して携行缶に入れ始めた。
当然、それを見た店員が飛んでくる。
「お客さん、ダメですよ。それは禁止ですよ」
「店長を呼べ」
返り血で真っ赤になった俺を見た店員は倒れそうになりながらも店長を呼びに行った。
「お客さん、困るんですよね。勝手なことされちゃ」
偉そうな態度でガソリンスタンドの店長が出てきた。
久し振りに顔を見て当時のムカついた感情が蘇り、先ほどのコンビニの時と同じように気が付けば包丁を振るっていた。また返り血を浴びたが気にしない。
初めに出てきた店員は腰を抜かしている。
この男に罪はないが悪魔との契約のノルマのこともあるからついでに殺しておくことにした。
⭐︎
ガソリンを手に入れた俺は労働基準局へ向かう。
役に立たない組織は建物ごと燃やすことにした。
このビルには他の組織も入っているようだが、どうせ市民のためになっていないはずだ。ついでに燃やしてしまおう。
認識阻害をかけたままスタンドで手に入れたガソリンを撒いていく。
俺の姿は見えないから何が起きているか分からないのだろうが、謎の異臭騒ぎになって避難されると厄介だからそこそこのところで切り上げる。
マッチで火を放つ。
ビルごと燃え上がっていくが、俺には関係ないことだ。
立ち去ろうと思ったところで、気が緩んだのか警備員に見つかり声をかけられてしまったので、警備員も殺すことにした。
⭐︎
車で少し離れたコンビニの駐車場で休んでいた。
能力というのは初めて使うからか体力も神経も使うようだ。先ほどの労基のビルの火災でノルマは達成できただろうが、本命の自分の会社の上司に復讐はしないと意味がない。
認識阻害を使って万引きした商品を昼飯として食べていると何回目か分からない会社からの電話がスマホにかかってきた。
ずっと無視していたのだが、次に向かうのが会社だしそろそろ応答するとするか。
『お前、今どこで何やってるんだ! 仕事サボってるとぶっ殺すぞ』
いつの時代の人間なのか。人をマネジメントする能力が無いくせに、これが何故俺の上司なのか納得できない。
「お前こそ首を洗って待ってろよ、ボケ」
それだけ言って電話を切った。
今頃、顔を真っ赤にして怒っているだろう姿が目に浮かぶ。
これ以上、連絡が来るのもめんどくさいので俺はここでスマホの電源を落とした。
⭐︎
自分に認識阻害をかけたまま社内へ入っていく。
こんなに返り血を浴びてガソリンの匂いを纏った異常者が歩いているのに誰も気にしない。
透明人間になったみたいだ。
上司の席を見たが離席しているようだ。
どうせ喫煙でもしているのだろう。
喫煙所に向かう。
案の定、上司とその腰巾着みたいな先輩は喫煙所で煙草休憩をしていた。
なんだよ、煙草休憩って。今は令和だぞ、俺みたいに煙草を吸わない人間はどうなるのか考えてないのか。
クソみたいな仕組みだ。
「あの大馬鹿野郎、俺に向かって『首を洗って待ってろ』だと? 出社してきたらぶちのめしてやる!」
「本当、生意気ですね、やっちゃいましょう」
中身のない会話を聞いて呆れてしまう。無駄話をしてないでお前らも働け。
「遅刻して申し訳ありません」
認識阻害をかけたまま心にもない謝罪を口にする。
「お前、どの面下げてやってきたんだ!」
上司は振り返りながら怒鳴った。
しかし、俺の姿は見えないためキョロキョロと首を動かす。滑稽だ。
「ここですよ、ここ。見えないんですか? 頭だけじゃなくて目も悪くなったんですか?」
ここぞとばかり煽る。
腰巾着は声だけ聞こえる今の状況を不審がっている。
「いいから出てこい! このクソ野郎」
コンプライアンス遵守の精神は無いのだろうか?
この言葉遣いはアウトでしょ。
「仕方ないからバカでも見えるようにしてやるよ」
俺はそう言って認識阻害を解除した。
「てめぇ、ふざけんじゃねぇぞ」
そう言って飛び掛かってきそうだったが、相手は俺の姿を見て固まってしまった。
それはそうだろう。
大量の返り血を浴びた男が平然と立っているのだ。
気味が悪いと思うのも当然だ。
「お前ら、これが何か分かるか?」
俺は一本のサバイバルナイフを取り出す。
「営業成績が悪ければこれで自害しろってお前たちが俺に渡してきたサバイバルナイフだ」
腰巾着が腰を抜かした。
「今更、人の一人や二人殺すのが増えようと変わらないからな」
実際は悪魔とのご褒美があるから変わるのだけど、こいつらにそんなことは関係ないから脅し文句としてはこれでいいだろう。
動けなくなっている腰巾着野郎の喉にサバイバルナイフを突き立て、そして引き抜いた。
大量の血が噴水のように噴き出て、俺の身体にかかる。
さらに俺の姿は異形の者になりつつあるだろう。
「次はお前だ」
そう言って上司に向き直る。
上司は怯むかと思っていたが、そうではなく怒りのゲージが上回って俺に敵意を向けたままだった。
百八十センチ以上ある身長、百二十キロ以上ありそうな体重、柔道経験者の上司は怒りのまま突進してきた。
以前なら怯んでしまったであろう俺だったが今は冷静だった。
すぐに認識阻害を再発動して姿を消して横にずれる。
姿形だけでなく匂いも消えるのだ。
夏に蚊を見つけた時に見失うと見つからないの以上に消えた相手を捉えることは不可能だった。
「出てこいクソ野郎! ぶっ殺してやる!」
こんな危ない相手を正面から相手にする必要はない。
背後に回り込んでこいつらから渡されていたサバイバルナイフを背中に突き立てる。
何度も何度も。
二十回くらい突き立てたところで息の根は止まった。
大量の返り血をまた浴びたが、もう気にならなくなっていた。
満足だ。
殺したかった相手は殺せた。
しかも、こいつらが渡してきたサバイバルナイフで殺せたのだ。
自業自得だ、ざまあみろ。
労基の火災で何人殺せたか分からないが、確実に自分の手で五人は殺した。
ノルマまで残り五人だが、あの火災で五人死んでいるか分からない。
それに火災での死亡が俺のノルマに加算されるかも分からない。
まだ陽が高い。
残り五人、中学生の頃に理不尽な扱いをしてきた奴らの実家にでも行ってみるか。
本人がいなくても誰かいればそいつを殺そう。
あとは適当に思い浮かんだ連中の家を片っ端から襲撃すれば夜までには五人くらいあっという間に殺れるはずだ。
待っていてくれ、愛しの悪魔よ──
★
なかなか派手にやってくれた。
とりあえず男が本当に一日でノルマを達成したからボクも約束を守ろうと男の家に来て、彼の帰りを待つことにした。
人間とセックスをするのは別に珍しくもなんともないのだけど、今回は少しワクワクしてる。意外だった。
楽しみのためにノルマを達成した後の彼の行動は追っていなかった。
あれだけ派手に暴れ回ったのだ。
ボクのような者を追う連中が目を付けないわけがない。
無事に彼は狩人の追跡を振り切って、この家に帰ってくることはできるのだろうか?
それができたらホンモノだ。
彼がこの家に帰って来れたならいくらでも彼の望みの体験をさせてあげてもいいくらいだ。
入口の鍵は掛けていない。
そして、今、そのドアが開いた。
さぁ、入ってくるのは誰だろう。
ボクの胸の鼓動は高まる。
お読みいただきありがとうございます。
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