少女剣士の「小手ーッ!」から始まる異文譚 〜魔王軍が来るらしいので、国を挙げて迎え撃ちます〜
放課後、1人、私は体育館で剣道の練習をしていた。
今日は部活は休み。
大会を控えているのだけど、実力にまだ自信のない私は、時々こうして自主練習をしている。
面! 面! と素振りを繰り返していたそんな時。
突然、
「ギャーッ」
という耳をつんざくような声が!
続いて、
「蓋が飛んだ!」
という声と共に、何もない空間から重い金属の物体が飛来してきた。
咄嗟にステップを踏み、飛来物をかわす私。
ドカーン! ガガガッ、グワシャ。
見ると、人間の体ほどもある巨大な蓋が、体育館の床に、メリメリと埋まっている。
「え? えーっ……」
私には何が起きているのか分からない。
ややあって、空間の何も無い所からそろりと手が伸びてきた!
「きゃーっ!!」
今度は私が大声をあげる番である。
な、なに? こんなの聞いた事もないんだけど?
もしかして妖怪・空間荒らし、とかそういう奴? 日本古来の妖怪?
ええい、ビビってちゃ駄目だよ私! 顧問の先生も言ってたじゃない。
相手の技の起こりを見よ。隙を逃すな! と。
「アイェー! 小手ーーッ!!」
バシン! と小手を打った。
決まった! これは1本だ!
「わっ、痛っ!? なになに、何なの? そこに猛獣でもいるの!?」
痛がる右手。
「ふん、そっちが突然現れて、でかくて重たいのをぶつけて来たんでしよ! 妖怪・空間荒らし!」
残心の姿勢から、再び構えをとる。
「さあ、姿を現しなさい! 私は剣士だッ! 次は小手だけじゃ済まさないわよ!」
イケイケになって、私はどこか妙なテンションに入っている。
「え……? 妖怪? 剣士? そっちに妖怪がいるの? というかそこ、日本?」
妖怪・空間荒らしは恐る恐る聞いてきた。
「は? 何言ってんの? ここは日本に決まってるじゃない。あんたも日本語しゃべってるでしょ」
すると少し間があって、
「やったー! 実験は成功だ!」
とかおっしゃる。
妖怪の言ってる事がいまいち分からない。一応、言葉は通じてるけど。
だけど剣の構えは解かない。
「あ、申し訳ない。お嬢さん。さっき、そっちに、大きな金属の塊が飛んで行ったと思う。本当にごめんなさい。あなたを傷付けたりしてないだろうか?」
ん? 急に低姿勢になったぞ?
取りあえず私は黙っている。
ヒソヒソと話し声が聞こえる。
「あっ、あれよ、さっき猛獣って言ったでしょ、それよ」
「いや、だって痛かったんだもん。ほら見てよ、ぼくの右手……」
「だもん、じゃないわよ! 初対面の女性に猛獣扱いは、あり得ないって」
「うちらも妖怪扱いされてんじゃん……」
向こうはどうやら複数人いるようだ。
「ごめん、順を追って説明するから。」
ふむふむ、なるほど?
女性の故郷である日本に、魔王軍が侵攻の照準を合わせた事が分かった。
何とかして、故郷に知らせたい。
そこで魔導具やら魔法薬やらを作り、必死に試行錯誤していた所、煮詰め中の薬液が爆発し、圧力釜の蓋が飛び、それが次元の壁を突破して、こちらに落ちてきたと?
そしてもうすぐ、魔王軍がこちらに押し寄せると?
「んなこと信じられるかーい!
…と言いたい所だけど、現に怪奇現象が起きてるんだよね」
「か、怪奇現象言うな!」
とツッコミが入る。れっきとした魔法なんだぞ、科学とさえ言えるんだぞ、とぷりぷり怒っているらしい。
が、直後にスコーン! と小気味よい音が響き、「いい加減にしなさい!」と声が聴こえる。
「うう、ぼくの天才的頭脳にこんな扱いが出来るのは、君だけだよ……」などと言っている。
え? いちゃついてる? こんな時に? などという思いが頭をかすめるが、勿論、そんな事を考えている場合ではない。
「で? 魔王軍とやらは、いつこっちに来るの?」
「たぶん、今から1週間後、といった所だ」
「分かった。顧問の先生に知らせてくる」
・・・・・
そこからがてんやわんやだった。
学校から行政に、そして国にまで通報が入ったらしい。
なんでもうちの理事長は大のラノベ好きで、それはもう学生時代から異世界研究会で活動していたという事だ。
そして、時の総理大臣は、なんと理事長の後輩なんだって。びっくりだよ。
そういえば理事長は、筋肉ムチムチのギルマスだかドワーフっぽいし、総理は、白いおヒゲを生やして、魔法使いのおじいちゃんって感じがするなぁ。
「んふふふ! 魔王軍が来るんだってよ!」
「腕がなるぅ」
「ここは自衛隊に動員してもらう?」
「いやもっと効果的な方法が……」
大人たちが揃って、悪い顔をしているぞ。
私、もう帰って良いかな……?
・・・・・
その1週間後の夜。
異世界の2人の予想通り、学校の体育館に、魔王軍が現れた!
そして、私たちの総力を結集した作戦は、……
現代日本、いや全世界で最強、最恐のお化け屋敷だ!
これには、特殊メイクや特撮でトッププロと呼ばれる人、一流のオーケストラで演奏している人など、凄まじい面々(どちらかと言うと物好きな人たち?)が集まった。
・・・・・
それは地獄の蓋を開けたかのような有り様だ。
体育館の中に、特撮とプロジェクトマッピングにより、荒廃した森林と、廃教会が現れる。
指揮者が棒を振る。フルートとオーボエの音が空気を揺らし始める。
ひゅーるるるる、と風の音が響き、生暖かい風が体育館を渡る。
空調は、真夏だというのに暖房を付け、加湿器で湿度を上げ、随所にサーキュレーターを忍ばせ送風している。これは不快指数が上がる!
「ギャアアア」
「うううううあ……」
「チャカッ、チャカッ、……えーん、火が着かないよう」
「腹減った、メシまずい、なんでこんなにまずい…… 毒まで入ってるよ嫌だ食べられない……」
「金返せ金返せ金返せ金返せ金返せ……」
どこからともなく、複数の悲鳴が聞こえる。これは、日本を代表する声優たちが、これでもか! と彼らの生き様を振り絞っているかのようだ!
現代日本の選ばれし精鋭が、一気呵成にその芸術の極致を現出させたという訳である!
「ギャーッ! お化けがいる! あっ、燃やされる! やめてやめて。助けてーッ!!」
「毒を入れたのは私だが、それには訳が…… お願い、ちょっと待った! 私の言い分を聞いてっ」
「う、嘘? 金返してないって事、異世界でも知られてるの? 夜逃げまでしたのに!? 返す返す! 返すから許して……」
魔王軍の兵たちに動揺が走り、それは波のように広がっていく。
指揮官たちはパニックに陥った。
「くっ、異世界とは、こんなに恐ろしい場所だったのか!? 俺たちのメンタルをこれでもか、と削りに来るぞ? 誰だ、黄金郷だ、平和な場所だなどと言った奴は!」
「全軍、撤収!」
そんな事があって、蜘蛛の子を散らすように、みんな逃げ帰ったとさ。
そして、我らが勝利の後、さらに1週間が経ち。
内閣総理大臣の肝いりで、日本に、国家異能局が設置されたのだった。
・・・・・
異能あるいは異世界というものの実在が証明された! と、理事長、総理はじめ、異世界研究会OBの皆さんは、狂喜乱舞だったらしい。
ちなみに、体育館の床に刺さってた圧力釜の蓋は、アダマンタイト製だとかで、地球には存在しない、全く未知の金属だという事が証明されたんだって。
試しに竹刀で思い切り叩いてみたら、びくともしなかったよ。後でさんざん怒られたけどね。
で、だ。
その蓋ったら、妙なんだよ。
私が「あー、やっぱり硬いな」と竹刀を納めようとしたら、
「そりゃあ、アダマンタイトだからね!」
という声がしたんだ……。
「ふふふ、驚いたかい? お嬢さん。さっきはキツイ一撃、ありがとうだぜ! おかげで目が覚めちまった」
見ようとすまい、私は何も聞こえない、そう決心したい所だが、そうは行かない。
見ると、……そいつは、アダマンタイトで出来たウサギだった!
「なんだよー、今度はしゃべるウサギかよー」
思わず本音が漏れる私。
「な、何だとは失礼な! おいらはアダマンタイトの体を持つ、ありがたいウサギなんだぜ!?」
「はいはい、ありがたい珍しい」
キーッと地団駄を踏むウサギであるが、確かに、そのジタバタした跡には、鋼鉄で押した? って位に、ウサギの足跡がクッキリと残されている。
怖…… あの足で踏まれたら死ねるわ……。
思わず私は戦慄する。
ウサギの話では、圧力釜を用い、超高圧、高濃度の錬成により爆発が引き起こされた時に、顕現した精霊なのだとか。
特別に集められた魔法薬と、希少な魔法金属で、盛大にやらかした結果の事らしい。
「まっ、そんな訳で、よろしくな!」
意気揚々と、ピッ! と右手をあげるそいつは、私にくっついて、現代日本を謳歌する気満々なのだった。
(おわり)




