↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

少女剣士の「小手ーッ!」から始まる異文譚 〜魔王軍が来るらしいので、国を挙げて迎え撃ちます〜

作者: 蕗 冬丹葉
掲載日:2026/07/18

放課後、1人、私は体育館で剣道の練習をしていた。

今日は部活は休み。

大会を控えているのだけど、実力にまだ自信のない私は、時々こうして自主練習をしている。

面! 面! と素振りを繰り返していたそんな時。

突然、


「ギャーッ」


という耳をつんざくような声が!

続いて、


「蓋が飛んだ!」


という声と共に、何もない空間から重い金属の物体が飛来してきた。

咄嗟にステップを踏み、飛来物をかわす私。


ドカーン! ガガガッ、グワシャ。


見ると、人間の体ほどもある巨大な蓋が、体育館の床に、メリメリと埋まっている。

「え? えーっ……」

私には何が起きているのか分からない。


ややあって、空間の何も無い所からそろりと手が伸びてきた!


「きゃーっ!!」


今度は私が大声をあげる番である。

な、なに? こんなの聞いた事もないんだけど?

もしかして妖怪・空間荒らし、とかそういう奴? 日本古来の妖怪?


ええい、ビビってちゃ駄目だよ私! 顧問の先生も言ってたじゃない。

相手の技の起こりを見よ。隙を逃すな! と。


「アイェー! 小手ーーッ!!」


バシン! と小手を打った。

決まった! これは1本だ!


「わっ、痛っ!? なになに、何なの? そこに猛獣でもいるの!?」


痛がる右手。


「ふん、そっちが突然現れて、でかくて重たいのをぶつけて来たんでしよ! 妖怪・空間荒らし!」


残心の姿勢から、再び構えをとる。


「さあ、姿を現しなさい! 私は剣士だッ! 次は小手だけじゃ済まさないわよ!」


イケイケになって、私はどこか妙なテンションに入っている。


「え……? 妖怪? 剣士? そっちに妖怪がいるの? というかそこ、日本?」


妖怪・空間荒らしは恐る恐る聞いてきた。


「は? 何言ってんの? ここは日本に決まってるじゃない。あんたも日本語しゃべってるでしょ」


すると少し間があって、


「やったー! 実験は成功だ!」


とかおっしゃる。

妖怪の言ってる事がいまいち分からない。一応、言葉は通じてるけど。

だけど剣の構えは解かない。


「あ、申し訳ない。お嬢さん。さっき、そっちに、大きな金属の塊が飛んで行ったと思う。本当にごめんなさい。あなたを傷付けたりしてないだろうか?」


ん? 急に低姿勢になったぞ?

取りあえず私は黙っている。

ヒソヒソと話し声が聞こえる。


「あっ、あれよ、さっき猛獣って言ったでしょ、それよ」

「いや、だって痛かったんだもん。ほら見てよ、ぼくの右手……」

「だもん、じゃないわよ! 初対面の女性に猛獣扱いは、あり得ないって」

「うちらも妖怪扱いされてんじゃん……」


向こうはどうやら複数人いるようだ。


「ごめん、順を追って説明するから。」


ふむふむ、なるほど?

女性の故郷である日本に、魔王軍が侵攻の照準を合わせた事が分かった。

何とかして、故郷に知らせたい。

そこで魔導具やら魔法薬やらを作り、必死に試行錯誤していた所、煮詰め中の薬液が爆発し、圧力釜の蓋が飛び、それが次元の壁を突破して、こちらに落ちてきたと?


そしてもうすぐ、魔王軍がこちらに押し寄せると?


「んなこと信じられるかーい!

 …と言いたい所だけど、現に怪奇現象が起きてるんだよね」


「か、怪奇現象言うな!」


とツッコミが入る。れっきとした魔法なんだぞ、科学とさえ言えるんだぞ、とぷりぷり怒っているらしい。


が、直後にスコーン! と小気味よい音が響き、「いい加減にしなさい!」と声が聴こえる。


「うう、ぼくの天才的頭脳にこんな扱いが出来るのは、君だけだよ……」などと言っている。


え? いちゃついてる? こんな時に? などという思いが頭をかすめるが、勿論、そんな事を考えている場合ではない。


「で? 魔王軍とやらは、いつこっちに来るの?」

「たぶん、今から1週間後、といった所だ」

「分かった。顧問の先生に知らせてくる」


・・・・・


そこからがてんやわんやだった。

学校から行政に、そして国にまで通報が入ったらしい。


なんでもうちの理事長は大のラノベ好きで、それはもう学生時代から異世界研究会で活動していたという事だ。

そして、時の総理大臣は、なんと理事長の後輩なんだって。びっくりだよ。


そういえば理事長は、筋肉ムチムチのギルマスだかドワーフっぽいし、総理は、白いおヒゲを生やして、魔法使いのおじいちゃんって感じがするなぁ。


「んふふふ! 魔王軍が来るんだってよ!」

「腕がなるぅ」

「ここは自衛隊に動員してもらう?」

「いやもっと効果的な方法が……」


大人たちが揃って、悪い顔をしているぞ。

私、もう帰って良いかな……?


・・・・・


その1週間後の夜。

異世界の2人の予想通り、学校の体育館に、魔王軍が現れた!


そして、私たちの総力を結集した作戦は、……


現代日本、いや全世界で最強、最恐のお化け屋敷だ!


これには、特殊メイクや特撮でトッププロと呼ばれる人、一流のオーケストラで演奏している人など、凄まじい面々(どちらかと言うと物好きな人たち?)が集まった。


・・・・・


それは地獄の蓋を開けたかのような有り様だ。

体育館の中に、特撮とプロジェクトマッピングにより、荒廃した森林と、廃教会が現れる。


指揮者が棒を振る。フルートとオーボエの音が空気を揺らし始める。

ひゅーるるるる、と風の音が響き、生暖かい風が体育館を渡る。


空調は、真夏だというのに暖房を付け、加湿器で湿度を上げ、随所にサーキュレーターを忍ばせ送風している。これは不快指数が上がる!


「ギャアアア」

「うううううあ……」

「チャカッ、チャカッ、……えーん、火が着かないよう」

「腹減った、メシまずい、なんでこんなにまずい…… 毒まで入ってるよ嫌だ食べられない……」

「金返せ金返せ金返せ金返せ金返せ……」


どこからともなく、複数の悲鳴が聞こえる。これは、日本を代表する声優たちが、これでもか! と彼らの生き様を振り絞っているかのようだ!


現代日本の選ばれし精鋭が、一気呵成にその芸術の極致を現出させたという訳である!


「ギャーッ! お化けがいる! あっ、燃やされる! やめてやめて。助けてーッ!!」

「毒を入れたのは私だが、それには訳が…… お願い、ちょっと待った! 私の言い分を聞いてっ」

「う、嘘? 金返してないって事、異世界でも知られてるの? 夜逃げまでしたのに!? 返す返す! 返すから許して……」


魔王軍の兵たちに動揺が走り、それは波のように広がっていく。

指揮官たちはパニックに陥った。


「くっ、異世界とは、こんなに恐ろしい場所だったのか!? 俺たちのメンタルをこれでもか、と削りに来るぞ? 誰だ、黄金郷だ、平和な場所だなどと言った奴は!」

「全軍、撤収!」


そんな事があって、蜘蛛の子を散らすように、みんな逃げ帰ったとさ。


そして、我らが勝利の後、さらに1週間が経ち。

内閣総理大臣の肝いりで、日本に、国家異能局が設置されたのだった。


・・・・・


異能あるいは異世界というものの実在が証明された! と、理事長、総理はじめ、異世界研究会OBの皆さんは、狂喜乱舞だったらしい。


ちなみに、体育館の床に刺さってた圧力釜の蓋は、アダマンタイト製だとかで、地球には存在しない、全く未知の金属だという事が証明されたんだって。


試しに竹刀で思い切り叩いてみたら、びくともしなかったよ。後でさんざん怒られたけどね。


で、だ。

その蓋ったら、妙なんだよ。

私が「あー、やっぱり硬いな」と竹刀を納めようとしたら、


「そりゃあ、アダマンタイトだからね!」


という声がしたんだ……。


「ふふふ、驚いたかい? お嬢さん。さっきはキツイ一撃、ありがとうだぜ! おかげで目が覚めちまった」


見ようとすまい、私は何も聞こえない、そう決心したい所だが、そうは行かない。

見ると、……そいつは、アダマンタイトで出来たウサギだった!


「なんだよー、今度はしゃべるウサギかよー」


思わず本音が漏れる私。


「な、何だとは失礼な! おいらはアダマンタイトの体を持つ、ありがたいウサギなんだぜ!?」

「はいはい、ありがたい珍しい」


キーッと地団駄を踏むウサギであるが、確かに、そのジタバタした跡には、鋼鉄で押した? って位に、ウサギの足跡がクッキリと残されている。


怖…… あの足で踏まれたら死ねるわ……。

思わず私は戦慄する。


ウサギの話では、圧力釜を用い、超高圧、高濃度の錬成により爆発が引き起こされた時に、顕現した精霊なのだとか。


特別に集められた魔法薬と、希少な魔法金属で、盛大にやらかした結果の事らしい。


「まっ、そんな訳で、よろしくな!」


意気揚々と、ピッ! と右手をあげるそいつは、私にくっついて、現代日本を謳歌する気満々なのだった。


(おわり)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。